懲罰(読み)ちょうばつ

精選版 日本国語大辞典 「懲罰」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐ばつ【懲罰】

〘名〙
① 将来を戒めるために、こらしめ罰すること。また、不正・不当な行為に対して、こらしめのために加える罰。
※暴夜物語(1875)〈永峰秀樹訳〉後翁並二犬の伝「二弟の懲罰も期限満ちたらんが故に約地に赴き」 〔北史‐稽胡伝〕
公務員などの不正、不当な行為に対して加えられる制裁。特に国会両院・地方公共団体議会が、その自律権に基づき、議会の秩序維持のため議員に科する制裁をいう。戒告陳謝登院停止除名の四つがある。
東京朝日新聞‐明治二六年(1893)一二月六日「衆議院は議長星亨氏に対して左の如く懲罰することに決せり」

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デジタル大辞泉 「懲罰」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐ばつ【懲罰】

[名](スル)
こらしめのために罰を加えること。また、その罰。「違反者を懲罰する」
公務員などの不正・不当な行為に対する制裁。特に、国会の各議院または地方議会が、議会の秩序維持のために議員に科する制裁。戒告・陳謝・登院出席)停止・除名の4種がある。
[類語]懲戒

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改訂新版 世界大百科事典 「懲罰」の意味・わかりやすい解説

懲罰 (ちょうばつ)

特別な部分社会の紀律ないし秩序を維持するため,一定の義務違反に対して科せられる制裁。公務員,公証人,弁護士等に対して科せられる懲戒とその性質を同じくし,一般国民に対する刑事罰とは異なる。代表的なものは,国会議員に対する懲罰である。日本国憲法は,国会の両議院が組織体としての秩序を維持するため,議院の自律権に基づいて,院内の秩序を乱した議員を懲罰できる旨定め(58条2項),その細目を国会法が規定している。

(1)懲罰の手続 懲罰は,各議院の議長の意見または一定数の議員の賛成による動議により,懲罰委員会の審査の後,議院の議を経て宣告されるが,この場合,議員の動議は,懲罰事犯があった日から3ヵ月以内にこれを提出しなければならない(国会法121条1項,3項)。会期の終了日もしくはその前日に生じた懲罰事犯または閉会中の委員会その他議院内部における懲罰事犯については,次の国会の召集の日から3日以内に,議長はこれを懲罰委員会に付し,議員は一定数の賛成を得て,懲罰動議を提出することができる(121条の2,121条の3)。したがって,懲罰事犯の件については,会期不継続の原則の適用はない(68条)。(2)懲罰事由 懲罰事由としては,正当な理由なく召集に応ぜずまたは会議に出席しないこと(124条)が定められているが,これに限定されるわけではなく,院内の秩序と関係のある行為は懲罰事由となる。(3)懲罰の種類 懲罰には,公開議場における戒告,公開議場における陳謝,一定期間の登院停止および除名の4種がある(122条)。除名は,他の懲罰と異なり,議員たる地位を失わせる重罰であるため,出席議員の3分の2以上の特別多数による議決を必要とする(日本国憲法58条2項)。なお,両議院は,除名された議員で再び当選した者を拒むことができない(国会法123条)。(4)懲罰と司法権との関係

 懲罰を受けた議員がその違法性を裁判所で争うことは,地方公共団体の議会の議員除名処分につき,司法審査を認めた判例(いわゆる米内山事件。1953年の最高裁判所決定)があるが,国会議員の場合には,一般に,憲法による議院の自律性の明示的な保障ということから,すべての懲罰について,裁判所の審査権は及ばないとされている。

 地方公共団体の議会も,国会と同様の懲罰権を認められている。地方公共団体の議会は,地方自治法ならびに会議規則および委員会に関する条例に違反した議員に対し,議決により懲罰を科すことができる(地方自治法134条1項)。懲罰の種類は国会の場合と同じである(135条1項)が,懲罰の手続はそれと異なっている(同条2項,3項)。なお,このほかに,監獄法も,紀律に違反した在監者の懲罰を定めている(59~62条)。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「懲罰」の意味・わかりやすい解説

懲罰
ちょうばつ

一般用語としては懲戒と同義であるが、法令上は議会の秩序維持のため議員に対して科せられる制裁をいう。

 院内の秩序を乱した国会議員、ないし地方自治法ならびに会議規則および委員会に関する条例に違反した地方議会議員に科される。欠席議員を懲罰に付すこともできる。院外での行動、たとえば有罪判決を受けたことを理由に科すことはできない。その種類は、公開の議場における戒告、公開の議場における陳謝、一定期間の登院停止(国会議員)ないし出席停止(地方議員)、除名である。除名は出席議員の3分の2以上の多数による議決(国会の場合)、ないし3分の2以上の議員の出席とその4分の3以上の者の同意(地方議会の場合)を要する。除名された議員でふたたび当選した者を拒むことはできない。国会議員の懲罰については、議院の自律権を尊重して、司法審査の対象外とするが、地方議員の懲罰については除名につき司法審査が及ぶとするのが判例通説である(憲法58条2項、国会法121条以下、地方自治法134条以下)。なお「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」は、被収容者に対する制裁について懲罰の語を用いている。

[阿部泰隆]

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普及版 字通 「懲罰」の読み・字形・画数・意味

【懲罰】ちようばつ

こらしめ罰する。〔魏書、西域、于伝〕其の刑法、人をしたるは死す。餘罪は各輕重に隨つて之れを罰す。

字通「懲」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「懲罰」の意味・わかりやすい解説

懲罰
ちょうばつ
discipline

組織の内部規律を乱した者に対して行う制裁。法律用語としては,国会議員 (憲法 58,国会法 121~124) ,地方公共団体の議会の議員 (地方自治法 134~137) ,在監者 (監獄法 59~62) などに使われている。議員に対する懲罰は,公開の議場における戒告,陳謝,一定期間の登院 (地方議会では出席) 停止,除名の4種で,在監者に対する懲罰は,叱責から7日以内の重屏禁まで 12種類あるがこの本質は懲戒である。議員の懲罰は,各議院または地方議会が,在監者の懲罰は刑務所長が行う。

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世界大百科事典(旧版)内の懲罰の言及

【懲戒】より

…また,裁判官や国・公立大学の教員等の懲戒については,特別の事前手続が定められている(憲法78条,裁判所法49条,教育公務員特例法9条等)。国会議員・地方議会議員の懲戒は懲罰と呼ばれる。 なお,公務員ではないが,公認会計士,税理士,公証人,司法書士等,国家の特別な監督に服する者にも懲戒の制度がある(公認会計士法29条等)。…

※「懲罰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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