改訂新版 世界大百科事典 「憲法尊重擁護義務」の意味・わかりやすい解説
憲法尊重擁護義務 (けんぽうそんちょうようごぎむ)
憲法を遵守し,憲法の実施を確保すると同時に憲法違反をすすんで防遏(ぼうあつ)するよう努力する義務をいう。国政担当者にこの義務を課し,憲法の尊重擁護を宣誓させることは,近代以来の最も一般的な憲法保障の方法である。国政担当者にとくにこの義務を課すのは,憲法は主権者たる国民が人権保障を目的として国家権力を拘束するために制定したという近代憲法の理念に基づくものであり,そこでは,国民は,国政担当者による憲法違反を監視し是正する最後の憲法の番人として位置づけられていた。しかし,現代では,ドイツ基本法のように,憲法に対する忠誠を国家が国民に対して要求するという憲法忠誠のあり方も登場してきている。明治憲法は,憲法に対する〈従順ノ義務〉を臣民に課すことに重点をおいていたが,日本国憲法は,近代憲法の理念を継承して,国政の運用にたずさわる〈公務員〉にとくに憲法尊重擁護義務を課し(99条),これをうけて,国家公務員法は,一般職職員や人事官に対して,憲法を尊重擁護して服務することの宣誓を行うべきことを要求している(6条1項,97条。その他地方公務員法31条,警察法3条等)。憲法の改正を行ったり主張したりすることはこの義務に反しないが,非合法的変革を企てたり主張することはこの義務に反すると一般に解されており(国家公務員法38条,地方公務員法16条参照),また,閣僚が公的に憲法を誹謗(ひぼう)するような場合にも,場合によってはこの義務に抵触することにもなろう。
執筆者:岩間 昭道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報