憂世・浮世(読み)うきよ

精選版 日本国語大辞典 「憂世・浮世」の意味・読み・例文・類語

うき‐よ【憂世・浮世】

〘名〙 (形容詞うし」の連体形名詞「世」が付いたもの。漢語浮生(ふせい)(定めない人生の意)」「浮世(ふせい)(定めない世の中の意)」の概念の影響も受けている)
[一] (多く「憂き世」と書く) つらい世の中。平安後期から中世にかけては無常観、また、穢土(えど)観など、仏教的厭世思想の色合いを持つことが多い。
① つらいことの多い世の中。苦しみに満ちたこの世。
※伊勢物語(10C前)八二「散ればこそいとど桜はめでたけれうき世になにか久しかるべき」
② (「世」は男女の仲の意) つらいことの多い夫婦仲。苦しみや悲しみの多い男女の仲。
蜻蛉(974頃)中「うきよをばかばかり水のはまべにてなみだになごりありやとぞみし」
③ (出家生活や極楽浄土のような仏教的世界に対して) この俗世間。厭(いと)い離れるべき世の意を伴うことがある。
拾遺(1005‐07頃か)哀傷・一三三三「服(ぶく)に侍けるころあひしりて侍ける女の、あまになりぬとききてつかはしける すみぞめの色は我のみと思ひしをうき世をそむく人もあるとか〈大中臣能宣〉」
※太平記(14C後)一一「今は浮(ウキ)世の望を捨てて、僧法師に成りたる平氏の一族達をも」
④ 夢まぼろしのようなはかない世の中。無常の世の中。運命の転変や栄枯盛衰のはげしい世の中。
※千載(1187)雑中・一〇五三「はかなさをうらみもはてじさくら花うき世はたれもこころならねば〈覚性法親王〉」
[二] (多く「浮き世」と書く) 享楽的に生きるべき世の中。中世末・江戸時代初頭より、前代の厭世的思想の裏返しとして生まれたもの。
① はかなく定めないのだから、深刻に考えないで、うきうきと享楽的にすごすべき世の中。
歌謡・隆達節歌謡(1593‐1611)「花よ月よと暮らせただ、ほどはないものうき世は」
② 男女間の恋愛。いろごと。情事。また、恋、好色、情事などの対象となる人。
※仮名草子・恨の介(1609‐17頃)上「『心の慰みはうき世ばかり』とうちしげる」
③ 享楽的欲望をみたしてくれる世界。遊里。また、遊里の遊びに夢中になること。浮世遊び。浮世狂い。
※歌謡・隆達節歌謡(1593‐1611)「後生を願ひ、うき世も召され、朝顔の花の露より徒な身を」
④ 社会的ななりわいをいとなむ現実の世界。この世。渡世
※浮世草子・好色一代男(1682)一「浮世(ウキヨ)のことを外になして、色道ふたつに寝ても覚めても」
⑤ 当世風。当代流行の風俗。他の語に冠して用いられることが多い。「うきよ絵」「うきよ掛り」「うきよ笠」「うきよ気」など。
※随筆・柳亭記(1826頃か)上「浮世といふに二つあり。一つは憂世の中、〈略〉一つの浮世は今様といふに通へり」
※洒落本・婦美車紫(1774)高輪茶屋の段「『モシ其三蝶とやらは浮世(ウキヨ)がいいじゃござりませぬか』『ウウてまへよくしってゐるな。〈略〉浮世(ウキヨ)が聞きたか両国しぼりを呼なさりませ』」
⑦ 「うきよぶくろ(浮世袋)」の略。〔俳諧・毛吹草(1638)〕
[三] 香木の名。分類は伽羅(きゃら)
[語誌](1)平安初期、(一)①に引くような用例もあるが、「古今」「後撰」「拾遺」の三代集では「世のうき時」「うき世の中」という表現が多く、まだ熟していなかった。「後拾遺集」以降「うき世」が多用されるようになる。
(2)漢語「浮生」の影響もあり、平安末期には定めない無常の世という観念が付加され、「浮き世」と表記されるようになると、(二)①~⑤の意を含むに至った。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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