慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー

内科学 第10版 の解説

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(免疫性ポリニューロパチー)

(2)慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyra­diculoneuropathy:CIDP)
定義・概念・分類
 四肢に対称性の運動・感覚障害をきたす,脱髄性の末梢神経障害であり,2カ月以上にわたって進行する.
原因・病因
 末梢神経ミエリン標的とする自己免疫である.細胞性免疫・液性免疫のどちらも病態関与すると考えられるが,明らかな発症因子はわかっていない.GBSと異なり抗糖脂質抗体の陽性率は低い.
疫学
 有病率は10万人あたり約2人程度であり,男性が女性よりやや多い.
病理・病態生理
 神経根および末梢神経に,炎症性脱髄性病変がみられる.病態生理の詳細は不明の点が多いが,自己抗体・リンパ球・サイトカイン・マクロファージ・補体などの関与が示唆されている.病態は一様ではなく多様な病態が含まれる.
臨床症状・診察所見
 四肢の筋力低下と感覚障害(感覚鈍麻,異常感覚など)がみられる.障害は通常対称性である.腱反射は低下・消失する.脳神経麻痺・呼吸筋麻痺・自律神経障害は比較的まれである.
検査成績
 末梢神経伝導検査で,伝導ブロック,運動神経伝導速度の低下,遠位潜時の延長,F波の異常など脱髄を示唆する所見がみられる.脳脊髄液検査では「蛋白細胞乖離」が,またMRIでは馬尾神経,頸髄の神経根,腕神経叢などの神経肥厚やガドリニウム造影効果がみられる.腓腹神経生検で,脱髄,再髄鞘化,オニオンバルブ,神経周膜下浮腫などを認める.
診断
 臨床症状・診察所見と末梢神経伝導検査の結果が重要であり,さらに脳脊髄液検査・MRI所見,腓腹神経生検なども合わせて診断する.免疫療法による改善の経過もCIDPの診断を支持する.近年最もよく使われるのはEFNS/PNSの診断基準である.
鑑別診断
 よい診断マーカーがない疾患であり,表15-19-1に記載のニューロパチー鑑別が重要である.頸椎症,運動ニューロン疾患,筋疾患なども鑑別の対象となる.GBSとCIDPの対比を表15-19-2に示す.
経過・予後
 再発・寛解型,慢性進行型が多い.症例ごとに臨床経過は多様である.
治療・リハビリテーション
 IVIg,ステロイド薬,血液浄化療法の3通りの治療が,有効性の確立した第一選択の治療である.しかしそれぞれに無効例が存在する.これらがいずれも無効な場合は,免疫抑制薬の使用を考慮する.リハビリテーションは運動機能の維持・改善のために,また褥瘡関節拘縮予防のためにも重要である.[楠 進]
■文献
Asbury AK, Cornblath DR: Assessment of current diagnostic criteria for Guillain-Barré syndrome. Ann Neurol, 27(suppl): S21-S24, 1990.
Joint Task Force of the EFNS and the PNS: European Federation of Neurological Societies/Peripheral Nerve Society Guideline on management of chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy: Report of a joint task force of the European Federation of neurological Societies and the Peripheral Nerve Society-First Revision. J Peripher Nerv Syst, 15: 1-9, 2010.
Kaida K, Kusunoki S: Antibodies to gangliosides and ganglioside complexes in Guillain-Barré syndrome and Fisher syndrome: Mini-review. J Neuroimmunol, 223: 5-12, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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