愚神礼賛(読み)ぐしんらいさん(英語表記)Encomium Moriae

日本大百科全書(ニッポニカ) 「愚神礼賛」の意味・わかりやすい解説

愚神礼賛
ぐしんらいさん
Encomium Moriae

オランダの人文学者エラスムス風刺文。1511年刊。「痴愚神礼讃」の訳名もある。親友トマスモアのラテン名モルスからモリア痴愚の女神)を連想してこの題名がつけられた。このモリアが、この世にどれほど痴愚が満ちあふれているかを数え上げ、自分の力を誇るという体裁で書かれている。人間の誕生の原因は結婚にあるが、人が結婚する気になるのは愚神の侍女である「乱心」のおかげなのだといった調子である。哲学者・神学者のくだらぬ論議君主家臣功名心、教皇はじめ聖職者たちの偽善、最大の愚行としての戦争などが、いずれも愚神の勝利として語られる。このように愚神礼賛の合間に、教会腐敗に対する皮肉たっぷりな嘲罵(ちょうば)が語られていることで、この書は有名である。

[伊藤勝彦]

『渡辺一夫訳『痴愚神礼讃』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

山川 世界史小辞典 改訂新版 「愚神礼賛」の解説

『愚神礼賛』(ぐしんらいさん)
Encomium Moriae

エラスムスが1509年に書きあげ,11年に公刊した作品古典素養を活用しつつ,痴愚神の口をかりて聖職者,神学者,王侯貴族などの悪徳を風刺。16世紀中に58版を重ねるほどの反響を呼んだ。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「愚神礼賛」の解説

愚神礼賛
ぐしんらいさん
Encomium Moriae

オランダの人文主義者エラスムスの著書。『痴愚神礼賛』ともいう
トマス=モア宅滞在中の1509年執筆した。教会の形式化と僧侶の腐敗を風刺し,痴愚神が道徳者・説教者をののしり,皮肉る形をとっているため,教会からしばしば発禁処分をうけた。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android