意思表示(読み)いしひょうじ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「意思表示」の意味・わかりやすい解説

意思表示
いしひょうじ

契約申込みや承諾遺言(いごん)などのように、一定法律効果を発生させようと欲してその意思外部に表す行為をいう。遺言などのようにそれだけで法律効果を生じるものと、契約などのように他の意思表示(申込みに対する承諾)といっしょになって初めて法律効果を生じるものとがある。意思表示が欲したとおりの効力を生じるには、実現が可能なもので、その内容が確定でき、かつそれが違法でなく、公序良俗に反しないことなどが必要である。

[高橋康之]

効果意思・表示行為

意思表示は、効果意思(自分の家を売ろうとする意思のように、一定の法律効果を欲する意思)と、表示行為(効果意思を外部に表現する行為)の二つの要素から成り立っており、そのいずれかが欠けるときは意思表示は成立しない。この両者が食い違った場合、どちらに重点を置いてその意思表示の法律上の効果を決めるべきかが問題になる。日本の民法では、効果意思と表示行為とが食い違う場合(意思と表示の不一致、あるいは意思の欠缺(けんけつ)という)として、心裡留保(しんりりゅうほ)、虚偽表示、錯誤(さくご)の三つについて規定しているが、ある場合には表示行為に重きを置き(表示主義)、ある場合には効果意思に重きを置く(意思主義)というように、折衷的な立場をとっている。

[高橋康之]

心裡留保

単独虚偽表示ともいう。意欲していることと表現していることの食い違い(意思と表示の不一致)を自分で意識しながら、うその意思表示をすること。たとえば、その気もないのにある物を売りたいというような場合などで、その場合には、うそをいった表意者を保護する必要もないし、取引の安全ということも考えて、表示に従った法律効果を生じさせることとしている。ただし、相手方がうそであることを知っていたり、普通の注意をすれば当然うそであることがわかる場合には法律効果は生じない(民法93条)。

[高橋康之]

虚偽表示

相手方と通じて、うその意思表示をすること。たとえば、自分の土地に対する差押えを免れるために、友人と通じてその土地を友人に売ってしまったことにするなどのような場合で、その当事者の間では売買契約無効である(したがって、その土地は友人の所有にはならない)。しかし、その土地を友人のものだと信じて買った人(善意の第三者)は保護する必要があるので、この人に対してはその無効であることを主張できない(民法94条)。単独虚偽表示(心裡留保)に対して通謀虚偽表示ともいう。

[高橋康之]

錯誤

表意者が思い違いをして行った意思表示。100万円で売るつもりで10万円といい誤ったり、ポンドとドルを同じだと思って、ポンドというべきところをドルといった場合などがこれにあたる。この場合、思い違いがなければ、とうていそのような法律行為をしなかったはずだと認められるほど重大な思い違いであれば、意思表示は無効となる。ただし、表意者に大きな不注意があったときは、自ら無効を主張することはできない(民法95条)。

 なお、意思と表示とが一致しても、意思表示が他人詐欺や強迫によってなされたものであるとき(瑕疵(かし)ある意思表示という)は、その意思表示は取り消すことができる(民法96条1項)。ただし、詐欺による場合の取消しは、詐欺が行われたことを知らずに取引関係に入ってきた第三者に対しては取消しを主張することはできない(民法96条3項)。

[高橋康之]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「意思表示」の意味・わかりやすい解説

意思表示
いしひょうじ

法律上,一定の効果の発生を欲し,その旨を外部に表示する行為をいう。たとえば,ある土地を買いたいと思い (効果意思) ,その土地の所有者に対し「この土地を売ってください」と言う (表示行為) こと。この効果意思と表示行為の内容が合致していれば,完全に有効な意思表示といえる。意思表示は,契約の申込と承諾の場合にかぎらず遺言や解除などの単独行為,会社設立行為などの合同行為の場合も含めて,法律行為を有効に成立させる重要な要素となる。近代法は,私的自治の原則に基づき,当事者が意欲したところに従って,その効果を認めようとするからである。

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百科事典マイペディア 「意思表示」の意味・わかりやすい解説

意思表示【いしひょうじ】

法律用語。法律上の効果を発生させようとして意思を表示する行為。単独で効果を生ずる場合(例,遺言)と,他者の意思表示と結合して効果を生ずる場合(例,契約の申込・承諾)とがある。効果を期待する意思とその意思を発表する行為とからなり,いずれを欠いても不成立。またそこに瑕疵(かし)があるときは完全な効力を生じない。→私的自治の原則
→関連項目意志契約(法律)錯誤代理追認取消し取消権法律行為

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デジタル大辞泉 「意思表示」の意味・読み・例文・類語

いし‐ひょうじ〔‐ヘウジ〕【意思表示】

[名](スル)
自分の意思を相手に示すこと。「反対意思表示する」
契約の申し込み・承諾・解除や遺言など、権利・義務に関する法律上の効果を生じさせるために、その意思を外部に表示する行為。

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世界大百科事典 第2版 「意思表示」の意味・わかりやすい解説

いしひょうじ【意思表示 Willenserklärung[ドイツ]】

売買契約の申込みや承諾,遺言などのように,一定の私法上の法律効果の発生を意欲する意思をもち,それを他人に知らせるために外部に表示する行為であり,その意思の内容どおりの法律効果の発生が法律によって認められているものである。意思の通知,観念の通知,感情の通知などの準法律行為が,行為者(通知者)の意思・意欲とは無関係に法律上の効果を生ずるのとは異なる。 この意思表示は,〈私的自治の原則〉(私人間の法律関係は原則として,その当事者たる私人みずからをしてその欲するところにしたがって決定し形成させるのが合理的であるとする原則)の法律上の手段である法律行為に欠かすことのできない要素をなすものである。

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世界大百科事典内の意思表示の言及

【意思主義・表示主義】より

意思表示は,行為者がみずから欲したところにしたがって法律効果を生じさせるための根源である。この意思表示は,内心的効果意思と表示行為とで構成されているため,法律効果発生の本体はいずれかが問題になる。…

※「意思表示」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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