惣地頭(読み)そうじとう

改訂新版 世界大百科事典 「惣地頭」の意味・わかりやすい解説

惣地頭 (そうじとう)

中世,一定地域の地頭統轄する職,またその人物をいう。例えば常陸国南郡惣地頭や若狭国遠敷(おにゆう)・三方両郡惣地頭職の場合のように,郡内の荘郷地頭とは別に郡全体に対してなんらかの知行権を有する場合や,郡内の荘郷地頭を集中的に知行し,それらの地頭職の総称としてこれを惣地頭と呼ぶ場合があった。ただし鎌倉時代には惣領制との関連で,所領を分割相続した庶子たちの有した小地頭(こじとう)を統轄して幕府の軍役・番役勤仕する一族嫡子をとくに惣地頭もしくは惣領地頭と称した。惣領と庶子によって構成される血縁的結合体としての惣領制は,所領分与にさいし知行の分散を防止するところに起源を有した。例えば被相続者が地頭職を分割譲与する場合,その中の家督相続人を惣領地頭または惣地頭と呼び,他の庶子はこれを分配された部分については地頭と呼ぶが,惣(領)地頭に対する関係からはこれを小地頭と呼んだ。鎌倉末期にはかかる惣領地頭のもとに半分地頭職,三分の一地頭職,七分の一地頭職などと呼ばれる小地頭職があらわれた。一般に惣領地頭は必ずしも長子とはかぎらず,譲状・安堵状などで〈器量の仁〉が選定されることもあった。地頭職を惣領した惣地頭は庶子の小地頭(一分地頭)を統轄し,軍役・番役・年貢催促を行った。幕府法では,御家人の諸役の勤仕(奉公)を全うさせるために,惣領制にもとづく惣地頭-小地頭の慣行を尊重した。なお惣地頭・小地頭には以上のような惣領制にもとづくもの以外に,九州特有のものもあった。すなわち〈右大将家の御時,地頭職の御下文を拝領するの輩,惣地頭に補せらるの日,名主職を安堵せしむ。小地頭と号するは,鎮西の例なり〉(宝治2年(1248)9月13日関東下知状)とあるように,御家人たる名主がその所領を安堵されて小地頭となり,そのうえに惣地頭をおいてこれを統轄し,あわせて惣地頭の所領給与の方策としたのがこれである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「惣地頭」の意味・わかりやすい解説

惣地頭
そうじとう

鎌倉幕府が補任(ぶにん)した地頭の一形態。初期には関東や陸奥において、郡単位の広域に置かれた地頭をいった。その後、建久年間(1190~1199)以降、鎮西(ちんぜい)で小規模領主である名主(みょうしゅ)層が名主職(しき)や地頭職を幕府から安堵されるようになると、これらを統轄するため、重複する地域に東国の有力御家人が惣地頭として補任され、惣地頭―小地頭(こじとう)という関係が成立した(『御成敗式目』38条)。この意味の惣地頭は鎮西独特のものである。

 なお、鎮西以外で郡単位で任じられた地頭を惣地頭という場合があるが、中小規模の荘郷地頭を統轄し、相互に連合せしめる機能をもつという点では共通している。また、武士団一族内部で惣領を意味する地頭も惣地頭といわれる場合があるが、上記のそれとは性格が異なる。

[木内正広]

『鈴木國弘著『在地領主制』(1980・雄山閣出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「惣地頭」の意味・わかりやすい解説

惣地頭
そうじとう

(1) 鎌倉時代,庶子に分割相続された小地頭職を統轄支配した惣領地頭。 (2) 鎌倉時代,主として西国に補任された関東の有力御家人で,在地土豪の小地頭の上におかれた。多くは短期間で交代し,任地に下向する者も少なかったので,得分権化し,支配関係が生じることはまれであった。 (→地頭 )

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世界大百科事典(旧版)内の惣地頭の言及

【別納】より

…平安後期から鎌倉期においては,開発その他の由緒によって特定の領主に庁宣や下文を与え,国衙使等の入部を止めるなどの特権を付与したことをいう。鎌倉時代の九州では,国御家人の所領を安堵したうえで,より広域的に東国御家人に地頭職を付与し,いわゆる小地頭と惣地頭の重層的関係が成立していたが,惣地頭が小地頭の権限を侵すときは,小地頭に別納の下文を与え,惣地頭の支配外におくこととされていた(《御成敗式目》38条)。【工藤 敬一】。…

※「惣地頭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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