(読み)じょう

精選版 日本国語大辞典 「情」の意味・読み・例文・類語

じょう ジャウ【情】

〘名〙
① 物事に感じて起こる心のはたらき。感情。きもち。
※霊異記(810‐824)中「情の(おろか)なること船を刻みしに同じく、文を編み造りては句を乱る」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前「現在親の別(わかれ)に、哀(かなしみ)の情(ゼウ)が見えぬ奴だから」 〔荀子‐正名
② 他人を思いやる心。なさけや、まごころ。情愛。
源氏外伝(1673頃)春「本妻をあはれと思ひやる情うすく」
※多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「其人と始めて持った所帯を崩すのは、情に於て忍びざるのが当然であらう」 〔晉書‐王衍伝〕
③ 男女間の愛情。情愛。恋情。
※海道記(1223頃)蒲原より木瀬川「仙女の別書永く和君の情を燋(こが)せり」 〔宋玉‐神女賦〕
④ 本能的な欲望。欲。〔礼記‐坊記〕
⑤ あじわい。趣味。風情。おもむき。
俳諧去来抄(1702‐04)先師評「行春丹波にゐまさば、本より此情うかぶまじ」 〔薛瑩‐晩同友人閑歩詩〕
⑥ 実際の様子。有様。状態。情況
太平記(14C後)一「訴訟の人出来の時、若し下(しも)の情(ジャウ)上に達せざる事もやあらんとて、記録所へ出御成て」
米欧回覧実記(1877)〈久米邦武例言「都には工芸を覧じ、市に貿易の情を察し」 〔戦国策‐東周策・恵王
本質性質
史記抄(1477)二〇「さるほどに万物の情をよく究て」 〔孟子‐滕文公・上〕

なさけ【情】

〘名〙
① 人間としての感情。人間みのある温かい心。人情。情愛。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「人がらのあはれになさけありし御心を、うへの女房なども恋ひしのびあへり」
※正徹本徒然草(1331頃)五九「その時老いたる親、いとけなき子、君の恩、人のなさけ、捨てがたしとて捨てざらむや」
② 他にはたらきかける感情、あわれみ、思いやりなど。好意。親切。
※源氏(1001‐14頃)竹河「故との、なさけ少しおくれ、むらむらしさ過ぎ給へりける御本上にて」
※狐の裁判(1884)〈井上勤訳〉六「決して慈仁(ナサケ)を加へたまふな」
③ 情趣・風流を理解する洗練された心。みやびごころ。風流心。
※伊勢物語(10C前)一〇一「なさけある人にて、かめに花をさせり」
④ ふぜい。おもむき。情趣。趣味。
※有明の別(12C後)二「よしあるこだちのさま、なさけある所に、御目とどまりて」
⑤ 男女がひかれあう心。恋心。愛情。
※曾我物語(南北朝頃)六「かほどふかく思ふ中、思ひしらせず出なば、なさけの色もたえぬべし」
⑥ 恋愛。情事。好色事。
※正徹本徒然草(1331頃)一三七「男女のなさけも、ひとへに逢ひ見るをばいふ物か」

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デジタル大辞泉 「情」の意味・読み・例文・類語

じょう〔ジヤウ〕【情】

物に感じて動く心の働き。感情。「憂国の」「好悪の」「知意」
他人に対する思いやりの気持ち。なさけ。人情。「の深い人」「にもろい」
まごころ。誠意。
意地。
特定の相手を恋い慕う気持ち。愛情。また、特定の相手に対する肉体的な欲望。情欲。「夫婦の」「を交わす」
事情。いきさつ。「を明かす」
おもむき。味わい。趣味。
[類語](1感情心情情動情操情感情緒じょうしょ・じょうちょ情調情念喜怒哀楽気分気色きしょく機嫌きげん気持ち感じエモーション/(2愛情愛着人情情け情合い情愛情味人情味温情恩情厚情思いやりいつくしみ慈愛仁愛仁恵仁慈仁心じん慈悲あわれみ哀憐同情

じょう【情】[漢字項目]

[音]ジョウ(ジャウ)(呉) セイ(漢) [訓]なさけ
学習漢字]5年
〈ジョウ〉
物事に感じて起こる心の動き。気持ち。「情熱情念感情苦情激情私情純情叙情心情表情
思いやり。なさけ。「温情厚情同情人情薄情非情友情
異性を慕う心。男女の愛。「情交情死情事情欲色情恋情
物事の実際のありさま。「情況情景情状情勢情報下情国情事情実情政情陳情敵情内情
そのものから感じられるおもむき。味わい。「情趣詩情余情旅情
〈セイ〉おもむき。「風情ふぜい
[名のり]さね・もと

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「情」の意味・わかりやすい解説

情 (じょう)
qíng

中国思想の用語。狭義には感情,情欲のことで,七情(喜,怒,哀,懼(おそれ),愛,悪(にくしみ),欲)として類型化されるが,広義には静かな〈性〉(本性)が動いた状態をすべて情と呼ぶ。したがって四端(惻隠(あわれむ),羞悪(はじる),辞譲(ゆずる),是非)や思慮なども情の範疇(はんちゆう)に入る。情がさらに激しく動いた状態が〈欲〉とされたようである。宋の胡宏(五峯)は性,情,欲の関係を次のような比喩で表現している。〈性は水,心はその流れ,情は水の瀾(さざなみ),欲は水の波浪のようなものである〉(《胡氏知言》巻二)。心の安定をめざす中国の修養論では,この情にいかに対処するかが大問題であった。東晋の仏教者慧遠(えおん)や唐の李翺(りこう)などは,情を悪ときめつけ,滅情論を主張した。儒教では伝統的に情それ自体を否定せず,怒るべきときに怒り喜ぶべきときに喜ぶといった,正しい発出のあり方を求めた。南宋の朱熹(子)もけっして情を否定しなかったが,ただ性を〈天理〉に,情を〈人欲〉に結びつけ,〈天理をなして人欲を滅す〉というテーゼをかかげたため,後世から人間性の抑圧という批判を浴びた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【性即理】より

…北宋の程頤(ていい)(伊川)によって提唱され,南宋の朱熹(しゆき)(子)によって発展させられたテーゼ。程伊川と同時代の張載(横渠(おうきよ))は〈心は性と情とを統括する〉と述べたが,伊川―朱子によれば,性(本性)は理であるのに対して情(感情,情欲としてあらわれる心の動き)は気であるとされる。は本来善悪とは関係のない存在論的なカテゴリーであるが,朱子学では心を形づくる気は不善への可能性をはらむとみなすので,情=気の発動いかんによっては本来的に天から賦与されている善性=理がゆがめられるおそれがある。…

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