怪はあらず(読み)けしゅうはあらず

精選版 日本国語大辞典 「怪はあらず」の意味・読み・例文・類語

けしゅう【怪】 は あらず[=けしく は あらず]

(「あり」のかわりに存在の意の敬語の「候う」「おわす」なども用いる)
① たいして劣ってはいない。見苦しくはない。それほど悪くはない。かなりなものだという、消極的なほめ言葉として用いられる。
伊勢物語(10C前)四〇「むかし、わかきをとこ、けしうはあらぬ女を思ひけり」
源氏(1001‐14頃)若紫「けしうはあらず、かたち心ばせなど、侍るなり」
② 関係や釣合いが、それほど不自然ではない。それほど変ではない。
今昔(1120頃か)二八「然許(さばかり)大きなる手に取納へるに、大きなる鋺(かなまり)かなと見ゆるに、気(け)しくは非(あら)ぬ程なるべし」
③ 病気などがそう悪くはない。たいして苦しくない。たいしたことではない。
※宇津保(970‐999頃)嵯峨院「いたはらるる事、ものし給ふなるをなん、いとほしがり申侍るを、けしう物し給はずば、いかにうれしからん」
事態がそれほど悪化してはいない。それほど重大なことではない。たいしたことではない。
※今昔(1120頃か)二九「異奴(ことやっこ)の射(いる)にこそ有けれ。気(け)しくは不有(あら)じ。只入れと痓(すく)やかに行ふ奴を」
⑤ それほど否定的な態度ではない。まんざらでもない様子である。
増鏡(1368‐76頃)序「『何のわきまへか侍らん』とはいひながら、けしうはあらず、あへなんと思ふ気色なれば」

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