性徴(読み)せいちょう

精選版 日本国語大辞典 「性徴」の意味・読み・例文・類語

せい‐ちょう【性徴】

〘名〙 雌雄(男女)の主として形態学上の差異の総称。生殖腺およびそれに付属する生殖器の相違を第一次性徴、それ以外の性別を示す形質を第二次性徴という。前者は睾丸(こうがん)と卵巣の違いなどをさし、後者はニワトリの雄のとさかライオンの雄のたてがみ哺乳類の雌の乳房などをさす。また、心理的な違いなど精神活動にみられる性的特異性を、第三次性徴とすることもある。性形質

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デジタル大辞泉 「性徴」の意味・読み・例文・類語

せい‐ちょう【性徴】

動物の雌雄を判別する基準となる形態上の特徴。ふつう、生殖腺および生殖器官の差異を第一次性徴、それ以外の体の大小、鶏のとさか、ライオンのたてがみなどの差異を第二次性徴という。さらに、雌雄が示す行動や心理などの差異として第三次性徴を加える場合がある。性形質。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「性徴」の意味・わかりやすい解説

性徴
せいちょう

主として雌雄異体の多細胞動物で、雌雄を見分ける手掛りとなるような形質をいう。このうち、生殖腺(せん)そのもの、すなわち卵巣と精巣の特徴を第一次性徴、それ以外の性別を示す形質を第二次性徴という。さらに第三次性徴を区別することもある。哺乳(ほにゅう)類を例にとれば、精巣の付属器官である前立腺貯精嚢(のう)、副精巣(精巣上体)などや、卵巣に付随する輸卵管、子宮、腟(ちつ)など、および外部生殖器(外生殖器・外性器)は第二次性徴とされる。さらに、ライオンの雄のたてがみ、ニワトリの雄のとさかやけづめ、魚類、両生類をはじめ脊椎(せきつい)動物に広くみられる婚姻色など、一見して動物の雌雄が見分けられる特徴も第二次性徴である。雌雄の行動の違いや心理的な差違は第三次性徴といえよう。これら第二次、第三次の性徴は卵巣および精巣から分泌される雌性ホルモン、雄性ホルモンの作用で発現する。したがって、精巣や卵巣を除去すればこれらホルモンの作用が消失するので、第二次・第三次性徴のほとんどが認められなくなる。このようにして失われた性徴は、ホルモンの投与によりふたたび出現する。脊椎動物では、生殖腺系の内分泌調節機構は脳に支配されているが、とくに哺乳類ではこの機構の雌雄性が脳に存在し、これも一つの性徴といえる。なお、精巣や卵巣の付属器官の性徴を第一次性徴として扱うこともある。

 一方、無脊椎動物でもさまざまな性徴がみられ、多くの場合、遺伝的な性に対応しているが、甲殻類のなかには造雄腺という内分泌器官が雄性生殖器官および雄の性徴のすべてを支配しているものがある。昆虫にも、幼虫の精巣の一部に造雄腺と思われる器官があり、性徴の発現を支配しているものがある。

[町田武生]

ヒトにおける性徴

ヒトにおいても個体の性別を特徴づける形質を性徴といい、生殖腺自身の特徴を第一次性徴、生殖腺以外の特徴、すなわち内生殖器や外生殖器その他にみられるものを第二次性徴とよぶ。第二次性徴のうち、内外生殖器の構造、脳の機能上の性差は胎児期に、体型や毛髪分布などの特徴は思春期に至って、一定の範囲内で生殖腺ホルモンに依存して発現する。

 ヒトの場合、生殖腺は胎児第六週までは構造に性差がなく、原始生殖腺とよばれる。原始生殖腺は皮質と髄質よりなる。第七週から第八週にかけて、男性では髄質が精巣へと発達して皮質は退化する。この精巣分化にはY染色体上の遺伝子によりつくられるH‐Y抗原(雄特異的抗原)が必要であると推測されている。女性では皮質が卵巣へと発達して髄質は退化する。この時期に精巣にはライディッヒLeydig細胞が出現して男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌が始まるが、卵巣はホルモンを分泌しない。こうして第一次性徴が現れると、引き続いて性ホルモンに依存して第二次性徴が現れる。

 第七週胎児は男女両性の原始生殖管(ウォルフWolff管とミュラーMüller管)をもっているが、男性では精巣から放出されるミュラー管退行因子(ポリペプチドと思われる)がミュラー管の発達を抑制し、ウォルフ管が発達して精巣上体、輸精管となり、女性ではミュラー管が発達して卵管、子宮、腟となる。外生殖器は第八週まで男女共通の泌尿生殖裂孔であるが、男性ではアンドロゲンの作用で裂孔が消失して男性の外生殖器になり、女性では裂孔がそのまま残って女性の外生殖器になる。思春期になると下垂体からのゴナドトロピン分泌が増加し、その結果、生殖腺のホルモン分泌が盛んになるので、第二次性徴は著明に現れる。男子ではアンドロゲンによって陰茎、精嚢、前立腺などが発達し、声帯緊張が低下して声が低音になり、男性型の体毛の分布(髭(ひげ)、頭髪前側頭部の後退、恥毛、胸毛など)がみられ、肩幅の増大や筋肉の発達など男性的な体型となる。女子ではエストロゲンの増加とアンドロゲンの欠乏により、殿(臀(でん))部の広い女性的な体型、乳房、子宮、腟の発達、女性型の恥毛分布などが現れる。

[川上正澄]

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改訂新版 世界大百科事典 「性徴」の意味・わかりやすい解説

性徴 (せいちょう)
sexual character

雌雄異体の動物で,雌雄の性を判別する基準となる形質をいう。生殖腺(性腺)の特徴を一次性徴,それ以外の体の性別を示す形質を二次性徴,行動などの性差を三次性徴と呼ぶ。生殖腺以外の体の形質を分けて,生殖輸管などの付属器官(輸精管,前立腺,貯精囊,輸卵管,子宮,腟など)および外部生殖器(陰茎,陰核など)の特徴を二次性徴とし,それ以外の体の形や色などの特徴を三次性徴とすることもある。脊椎動物では多くの場合,一次性徴の発現は遺伝的支配によるが,二次(および三次)性徴の発現はかなりの程度まで生殖腺のホルモンに依存している。無脊椎動物では生殖腺ホルモンによる性徴の発現は一般に認められず,遺伝的支配が強い。しかし,昆虫類のツチボタルの1種(Lampyris noctiluca)の精巣内に雄性化を誘導するホルモンの存在が知られ,また,甲殻類では精巣または生殖輸管の近くに存在する造雄腺から分泌されるホルモンにより,雄性二次性徴が促される。性徴は生殖に直接作用するばかりでなく,異性間の性的誘引など性行動における信号としての働きもある。

 脊椎動物の二次(および三次)性徴は雄性ホルモンにより誘導されるものが多い。魚類ではサメ,エイの鰭脚(ききやく),ソードテールの剣尾鰭(けんびき),グッピーの交尾器,カワハギの背びれ,タツノオトシゴ,ヨウジウオの育児囊,メダカのしりびれ条の小突起,キンギョ,タナゴの追星,タナゴの婚姻色,トゲウオの性行動などがある。両生類では,イモリの背突起,尾の形と色,カエルの抱接腕や指だこ,爬虫類のトカゲの外形や紋様,なわばり行動,鳥類ではニワトリの鶏冠や肉垂,小鳥類の雄の羽色,飾羽,くちばしの色,さえずりなどが知られている。哺乳類では外被の形状や色模様,筋肉,骨格,枝角などの特殊構造,フェロモン分泌の皮脂腺,行動姿勢,鳴声の音質や調子,性皮,乳房,ひげ,たてがみなどがある。
執筆者:

ヒトの場合も,その個体が卵巣を有するか,睾丸(精巣)を有するかという生殖腺自身の特徴を一次性徴とし,それ以外の性別を示す形質を二次性徴という。しかし,場合によっては,生殖腺の付属器官や外部生殖器の特徴を二次性徴とし,それ以外の体の大きさや特徴を三次性徴としたり,心理や行動の差のみを三次性徴とすることもある。二次性徴は思春期に,性ホルモンの作用によって起こり,男子では副睾丸,前立腺,カウパー腺,陰茎などの副性器の発達のほか,骨格や筋肉の発達,ひげや腋毛(わきげ),陰毛などの性毛の発生,変声などがみられ,射精が起こるようになる。一方,女子では卵管,子宮,腟,外陰部などの副性器の発達に加えて,乳腺の発達,皮下脂肪の沈着,腋毛や陰毛などの性毛の発生がみられ,月経がはじまる。
性器
執筆者:

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百科事典マイペディア 「性徴」の意味・わかりやすい解説

性徴【せいちょう】

雌雄の判別の基準となる特徴。精巣や卵巣すなわち雌雄における生殖腺自体の違いを一次性徴,それ以外の形質の違いを二次性徴とするのが一般的だが,これをさらに細分して,生殖腺以外の生殖器官(たとえば生殖輸管など)にみられる違いを二次性徴,それ以外の性別を示す特徴(婚姻色やライオンの雄のたてがみ,ヒトでは男性のひげや声変りの現象など)を三次性徴とすることもある。さらに心理や行動などの差異を別に扱う場合もある。脊椎動物の二次・三次性徴は性ホルモンに支配され,成長して生殖腺が成熟してきたり,繁殖期を迎えて生殖腺の作用が活発になると顕著になる。
→関連項目間性思春期性(生物)生殖腺半陰陽

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「性徴」の意味・わかりやすい解説

性徴
せいちょう
sex character

男女両性の示す特徴。早期から現れる生殖腺および内外生殖器の差を第1次性徴という。また思春期前後から,主として生殖腺の活動によって顕著となってくる,男性の声変り,ひげの発生,女性の月経の開始,乳腺の発達,皮下脂肪の蓄積のような機能的な差異は第2次性徴といい,おもに性ホルモンの作用によって生じる。

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栄養・生化学辞典 「性徴」の解説

性徴

 視認によって性が判定できる特徴.第一次性徴,第二次性徴,第三次性徴に区別する.

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世界大百科事典(旧版)内の性徴の言及

【体】より


[男女差と人種差]
 男性と女性の体には性差がある。内外の生殖器の違いを一次性徴といい,それ以外で思春期以降に現れるものを二次性徴という。二次性徴としては,外観上次のような性差がみられる。…

※「性徴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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