性差(読み)セイサ(英語表記)sex difference,gender difference

デジタル大辞泉 「性差」の意味・読み・例文・類語

せい‐さ【性差】

男女の性別による違い。生物学的な違いだけでなく、職業適性や価値志向の違いなどの社会的・心理的差異をもいう。→セックス1ジェンダー2

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最新 心理学事典 「性差」の解説

せいさ
性差
sex difference,gender difference

ヒトを含む有性生殖を行なう種において,個体差を超えて雌雄(男女)間に見いだされる差異。遺伝的・解剖学的差異から行動・心理的に観察される差異まで,幅広い側面を含む。「性」という語は英語ではsexともgenderとも翻訳可能であるが,「セックスsexを生物学的な性,ジェンダーgenderを社会・文化的に構成された性」と定義する文献が一部に見られる。しかし,genderはsexの婉曲的な同義語であり,少なくとも翻訳上は,上記の区別は適切とはいえないとする考え方もある。

 一方で,雌雄間で生物学的な繁殖戦略の相違が存在し,ヒトの性差の起源が,他の生物種から遊離したものではありえないことを踏まえれば,性差を純粋に社会構成的なものとみなすことは実態に即しているとはいいがたい。これまでの知見を踏まえれば,両者は相互排他的な可能性ではなく,事象によってそれぞれの関与の度合いは異なるものの,生物学的基盤と社会的・文化的影響との相互作用のもとに性差が成り立っているとみなすのが妥当である。したがって,ここでは社会的・文化的性差について述べる。

 心理学的,あるいは行動上のヒトの性差を検討する際には,統計的分析に基づく計測上の性差が主な手がかりとなるため,男女それぞれにおける計測値の分布が互いに大幅に重なっていることを十分留意せねばならない。また,性差が観察される場合にも,成立の背景となる要因,すなわちその性差が生物学的な基盤を反映したものなのか,あるいは社会構成的なものなのかについては慎重に検討する必要がある。

 20世紀に至るまでは「ヒトの性差は両性の生物学的差異によるものである」とみなされる傾向が強かった。しかし,20世紀初頭の心理学者ホリンワースHollingworth,L.S.が「女性は子育てや家事に縛られているために十全な能力を発揮できていない」と指摘したのを嚆矢として,20世紀半ばからは,性差をもたらす環境要因が検討されるようになった。ベムBem,S.L.(1981)は,性に基づいたカテゴリー化を促す強力な社会的スキーマとしてのジェンダー・スキーマgender schemaを提唱している。認知的類型化を伴うこのようなスキーマは,情報処理過程における負荷を軽減する機能をもつ社会的装置の一つであり,自己同一化の過程においても重要な役割を担うと考えられるが,一方でスキーマを反映したステレオタイプ化が,さまざまな性差別偏見の背景となってきた側面もある。ジェンダー・スキーマの強度には個人差が大きく,その形成には文化,教育に関連する多様な要因が寄与している。

 社会的相互作用の典型的な様式として,男性はより活動的・攻撃的であり,女性はより世話好きでよくしゃべる,といわれる。攻撃性の表出傾向は男性においてより強く見られ,女性はより頻繁に感情を表出する傾向があるとされる。これらの傾向は,それぞれ「男らしさ」「女らしさ」というジェンダー・ステレオタイプgender stereotypeとも強い相互作用をもつと考えられる。ほかに具体的に検討されてきた性差としては,平均IQは男性の方が女性よりも3~5ポイント程度高いとする研究もあるが,差を見いださなかった研究もあり,また文化ごとに傾向が異なることも報告されている。数学能力の性差についても数多くの研究が行なわれているが,一貫した大きな差がつねに存在するとはいえず,報告された性差にも,数学教科に対する自信といった性的ステレオタイプが寄与していると考えられる。2008年にアメリカで実施されたテストでは,20年前には見いだされた成績における男児優位が消失していた。これは「1980年代には女児が受講した数学の授業数が男児より少なかったが,現代ではそのような差がなくなった」ことで説明できるとされている。ただし一方で,平均的な男児・女児間に差は見られなかったものの,成績最上位者と最下位者に男児が多く含まれたことが報告されている。記憶能力の性差についても検討されているが,結果は一貫していない。空間能力についても同様だが,知能検査課題で用いられる心的回転や水平・垂直の評価については男性優位,空間記憶については女性優位とのメタ研究もある。しかし,ここでの性差もまた,性的ステレオタイプの影響を強く受けている可能性も指摘されている。バロン・コーエンBaron-Cohen,S.は,共感-システム化理論Empathizing-systemizing theoryを提唱し,空間能力はシステム化能力とともに男性脳タイプsystemizing brain typeであり,共感性につながる女性脳タイプempathizing brain typeと対置されると論じたが異論も多い。性的二型を反映した脳重とは無関係に,独立した神経解剖学的性差を報告する研究もあるが,現時点で一貫した知見が得られているわけでは必ずしもない。なお,脳重と知能には有意な相関は見られない。

 発達的には,生後12ヵ月ころには,女児は概してぬいぐるみや玩具の食器,男児は乗り物,道具,ロボットなどの玩具を選好するようになる。遊びの様式も分化し,2~3歳の間には,自分自身の性を一貫して同定し始め,自身の性に「一致した」行動や同性の遊び相手を選好し始める。言語発達における性差も知られており,乳幼児期においては一般に,同月齢で比較すると女児の発達レベルが男児を上回る。これを反映して,日本語マッカーサー乳幼児言語発達診断質問用紙(JCDIs)では,8ヵ月から36ヵ月(3歳)までのコミュニケーション言語能力の発達レベルを,男女別に対象児のパーセンタイル順位と発達年齢(月齢)で表わしている。 →ジェンダー →ジェンダー心理学
〔橋彌 和秀〕

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「性差」の意味・わかりやすい解説

性差
せいさ
sex differences

個体に雌雄の別のある動物において,雌性個体と雄性個体との間にみられる差異をいう。ある個体が雌性になるか雄性になるかは,卵子と精子とが合体して受精卵ができたときに決定される。人間では,性染色体が,X染色体2個で構成されるならば女,X染色体とY染色体各1個ずつで構成されるならば男となる。実際に性差が出現するのは成長の途中からで,まず胎生4ヵ月頃,生殖器官が明確な性的差異を伴って形成される。これを1次性徴という。次に思春期になると脳下垂体の性腺刺激ホルモンが,すでに形成されている精巣や卵巣に作用して,性ホルモンを分泌させる。精巣からは男性ホルモン,卵巣からは女性ホルモンが分泌され,これが全身に作用して,いたるところに性差を現出させる。これを2次性徴という。おもなものをあげれば,男では骨や筋肉の発達,ひげ,すね毛,胸毛など体毛の発生,声変りなど,女では乳房の肥大,骨盤の発達,皮下脂肪の増加などである。1次性徴の形成がなければ2次性徴も出現しえず,また性ホルモンの分泌がないときは,成人にみるような性差は決して現れない。動物では,性差のごく小さいものから,非常に大きいものまで,さまざまである。人間は全動物のなかでみると,性差の小さい動物に属する。

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世界大百科事典(旧版)内の性差の言及

【ジェンダー】より

…生物学的性別や性差を意味するセックスsexに対して,社会的文化的に作られた性別や性差を意味する言葉。〈男らしさ〉〈女らしさ〉など,社会通念において一般的な固定的な性別観・性差観を意味することもある。…

【性】より

…また同性愛についても,刑事罰の対象としている国や州,宗教的に罪とみる文化が存在する一方,性行動の一形態としての存在を主張する対抗文化的な解放運動などがある。また前述の男性的同一性,女性的同一性についても,その固定化を男性優位の社会における性差別であるとして激しく抗議するウーマン・リブ運動(婦人運動)もある。要するに,ヒトにおいては,性が単に生殖という生物学的な目的に資するだけでなく,とりわけ人間関係における重要な機能として,生活の全体に多面的な影響を発揮している。…

※「性差」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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