急性扁桃炎
きゅうせいへんとうえん
Acute tonsillitis
(感染症)
子どもにも大人にもみられる、細菌またはウイルスによって生じる扁桃腺(口蓋扁桃という)の炎症です。
ヒトの鼻や口のなかには生後数カ月で菌が常在するようになり、新たな菌の侵入を防いでくれています。たえず外界から鼻や口のなかに入ってくる細菌やウイルスの侵入を、常在菌やそれまでに獲得した免疫(病原体を排除する能力)によって防ぐことで健康な状態が保たれています。
しかし、かぜや過労などで体が弱った時や、いろいろな病原体に対して免疫力が未熟な乳幼児では、病原菌やウイルスが体内に侵入し増殖することがあります。この時に、のどの免疫の主力部隊である口蓋扁桃が病原体と闘って赤くはれている状態(炎症)が急性扁桃炎です。
口蓋扁桃だけでは戦力不足の時、頸部(首)やほかの部分のリンパ節も応戦するため、そのリンパ節もはれて痛みを生じます。病原体を攻撃するために扁桃やリンパ節など体内から出る物質によって、体温の上昇や痛みなどの症状が現れます。
40℃前後の発熱(微熱程度の場合もある)と全身倦怠感に続いて、のどの痛みや耳の下から頸部にかけてのはれと痛み(頸部リンパ節炎)が生じます。照明の下で口を開いてのどの奥を見ると、のどちんこ(口蓋垂)の両脇に白い点や膜が付着して赤くはれた口蓋扁桃が見えます。
のどの診察で扁桃炎と診断されます。原因となる病原体を確定するためには、のどのぬぐい液の検査(迅速検査や細菌培養検査)や、採血によるウイルス抗体の検査を行います。
薬物治療が主で、抗菌薬や消炎鎮痛薬を内服します。痛みが強く食事がとれない場合は、薬を点滴で投与する必要があります。
安静が大切です。飲酒やスポーツは避けます。多少無理をしても栄養価が高くのどごしのよい食べ物(栄養ゼリー、アイスクリーム、バナナ、スープ、麺類など)や、水分を十分にとります。早めに耳鼻咽喉科医の診察を受けましょう。
急性扁桃炎
余田 敬子
急性扁桃炎
きゅうせいへんとうえん
Acute tonsillitis
(子どもの病気)
扁桃炎は扁桃の炎症であり、ウイルスや細菌の感染により起こります。口蓋扁桃は発赤・腫大し、時に白い滲出物が付着することもあります。
原因の大部分はウイルスによるもので、アデノウイルスやEBウイルスなどがあります。細菌によるものは急性扁桃炎の20%ほどといわれ、なかでもA群β溶連菌によるものは5~9歳の子どもに好発し、リウマチ熱や溶連菌感染症後急性糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)と関連があるといわれており、臨床上重要です。
発熱、頭痛、悪寒、全身倦怠感、咽頭痛を伴って急性に発症します。初期には、腹痛、嘔吐を伴うこともあります。時に扁桃に白い滲出物を認める場合があります。また、頸部のリンパ節が痛みを伴って腫大することもあります。
臨床症状と咽頭・扁桃所見から診断されます。溶連菌感染症は迅速診断キットあるいは咽頭・扁桃の細菌培養検査を行い診断されます。アデノウイルス感染も迅速診断キットが市販されていて、使用されることがあります。EBウイルス感染による扁桃炎では伝染性単核球症(でんせんせいたんかくきゅうしょう)の形をとるものがあり、血液検査をすすめます。
急性扁桃炎の多くはウイルス性であり、抗菌薬の内服は必要なく、症状に対する治療が主となります。迅速診断キットや細菌検査で溶連菌感染症と診断された場合には、セフェム系抗菌薬では5日間、ペニシリン系抗菌薬では10日間の内服が必要になります。
坂井 貴胤
急性扁桃炎
きゅうせいへんとうえん
Acute tonsillitis
(のどの病気)
主に口蓋扁桃(図12、図13)の急性炎症を指します。口をあけてのぞくと、のどちんこの横にある口蓋扁桃が赤くなってはれていたり、または扁桃表面が白色のうみでおおわれるタイプがあります。
細菌感染によるものと、ウイルス感染によるものがあります。原因菌としては、化膿性連鎖球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌などがあります。
のどの痛み、発熱、嚥下痛や耳への放散痛、全身倦怠感、食欲不振があります。とくに小児の場合、経口摂取の不能により脱水症状となって重症化するので注意が必要です。
症状と、扁桃の状態を観察します。血液検査では、白血球の増加、炎症の程度をみるCRP陽性などをチェックし、さらに脱水の状態をみるため尿検査をします。適切な抗生剤を投与するために、扁桃の細菌培養検査を実施することがあります。
十分な水分の補給、安静、うがいが大切です。
薬物治療としては、細菌に対して抗生物質、発熱や痛みに対して消炎鎮痛薬を5日間程度、さらに口腔内を清潔に保つためにうがい薬が処方されます。炎症症状が強い場合、脱水症状のある場合は、積極的に抗生剤などの静脈注射、点滴治療が行われます。
重症化すると扁桃周囲炎や扁桃周囲膿瘍を合併することがあるので、注意が必要です。
宮崎 総一郎, 本田 耕平
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
家庭医学館
「急性扁桃炎」の解説
きゅうせいへんとうえん【急性扁桃炎 Acute Tonsillitis】
[どんな病気か]
病原微生物が扁桃(口蓋扁桃(こうがいへんとう))に感染し、急性の炎症がおこる病気です。
扁桃は免疫臓器(めんえきぞうき)と感染臓器の二面性をもっています。通常の状態では扁桃の免疫能が強いため、細菌やウイルスにさらされても、これを排除し、感染はおこりません。しかし過労やストレス、のどの衛生状態の悪化などで扁桃の免疫能が低下すると、感染がおこり、扁桃炎が発症するといわれています。
[原因]
原因となる細菌は、β溶血性(ベータようけつせい)レンサ球菌(きゅうきん)(溶連菌(ようれんきん))、黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)、肺炎双球菌(はいえんそうきゅうきん)などが多いのですが、ウイルスによる場合も少なくありません。
最近では、性行為によってクラミジア、単純ヘルペスウイルスⅡ型が感染して扁桃炎がおこることもあります。
[症状]
のどの痛みが強く、ものを飲み込むときにとくに痛みます。また、からだがだるく、ひどい寒け(悪寒(おかん))がした後、38~40℃の高い熱が出ます。
重症になると、圧痛をともなう頸部(けいぶ)リンパ節の腫(は)れがみられます。
口蓋扁桃が赤く腫れ、炎症がひどくなると、扁桃の表面にある凹凸のへこんだ部分(陰窩(いんか))に一致して、汚い白色の苔(こけ)(膿栓(のうせん))がつきます。
診断は容易で、症状と扁桃の観察をすればわかります。血液検査や細菌検査を行なって、病状の程度や起炎菌(きえんきん)を調べることもあります。
[治療]
抗生物質と消炎鎮痛薬の服用が治療の中心です。うがいや吸入(抗生物質、ステロイド、抗プラスミン剤)などの局所療法も有効です。
ふつうは1週間程度の通院で治りますが、まったく飲食物がとれないようなときは、点滴で水分と栄養を補うため入院が必要になることもあります。
[日常生活の注意]
頭痛、発熱のために食欲がなく、飲食物がとれないときは、からだが脱水状態にならないように、水分だけは補給するようにします。
のどの痛み、開口障害があるので、刺激の少ない流動食か軟食にし、良質のたんぱく質、ビタミンC、さらに水分を十分とるようにします。
急性扁桃炎はありふれた病気のため、家庭での治療で治そうとする人もいますが、炎症が広がると扁桃の周囲に膿(うみ)がたまったり(扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう))、喉頭(こうとう)に波及して呼吸困難をおこしたり(急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん))するので、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)を受診したほうがよいでしょう。
出典 小学館家庭医学館について 情報
世界大百科事典(旧版)内の急性扁桃炎の言及
【扁桃炎】より
…つまり常時炎症をおこし,かつ炎症からくる組織損傷の修復をくりかえして成長し,また衰退する。したがって扁桃はつねに慢性的炎症の状態下にあり,あらゆる扁桃は慢性扁桃炎になっていて,急性扁桃炎は慢性扁桃炎の急性増悪像(急性化した組織像)にすぎないと考えてよい。以上の概念を頭に入れないかぎり,正確な扁桃炎に関する諸像ならびに病理を把握することはできない。…
※「急性扁桃炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」