急性出血性直腸潰瘍

内科学 第10版「急性出血性直腸潰瘍」の解説

急性出血性直腸潰瘍(腸疾患)

概念
・頻度
 動脈硬化(特に脳血管障害)などを有し何らかの理由で寝たきり状態になる高齢者において,下部直腸に限局した虚血性の粘膜障害による潰瘍を生じ,大量の新鮮下血を生じる疾患である.下部消化管で大量の出血をきたす代表的疾患として1980年の河野らの報告以来注目されてきた.発症年齢の多くは高齢者であるが,重篤な基礎疾患を有し仰臥位で寝たきり状態が続くと直腸粘膜への灌流量が低下し,若年者における発症もあり得る.男女比は女性に多い傾向を示す.
発症機序・危険因子
 基礎疾患として脳血管障害が多く,肺炎,大腿骨頸部骨折が続き,心不全,腎不全,脱水,糖尿病,血液疾患,敗血症,悪性腫瘍などがあげられる.血栓形成,動脈硬化とくにストレス説による血流低下が強調されているが,正確な機序は不明である.脳血管障害患者での発症が3週目以降であることより,仰臥位寝たきり状態による身体的要因が重要で直腸粘膜の虚血を惹起すると考えられる.
臨床症状・罹患部位・診断(図8-5-37)
 突然の大量下血で発症することが多く,出血量は1000mLをこえることがありショックをきたすことがある.しかし無痛性であり出血する前に診断されることは少ない.少量の血液付着から始まる症例もあり,早期の内視鏡観察が望ましい. 下部直腸の歯状線近傍に不整形の浅い潰瘍が輪状に発生する.ときに潰瘍は帯状,地図状になり横軸方向に長く分布することもある.しばしば露出血管を認め,大腸鏡による直腸内反転法により詳細に観察することが必要である.糞便性直腸潰瘍との鑑別が必要であるが,糞便性潰瘍は直腸だけでなくS状結腸にも発生し,また直腸の潰瘍も歯状線近傍ではなく,それより口側のことが多い.
治療・予後
 基礎疾患のため手術は不可能なことが多く,原則として輸血をしながら保存的に加療を行う.吸収性局所止血薬やガーゼでの圧迫を試み,内視鏡的に薬剤の内視鏡的局注療法やヒートプローブによる止血術を行う.動脈塞栓術,直腸切除,人工肛門造設術が必要になることもある.ドプラによる直腸粘膜血流量の検討から,側臥位への体位転換が本症の治療法として有効なことが示されている.内視鏡的あるいは経肛門的止血術が行えれば予後は良好であるが,基礎疾患の予後に左右される.[三浦総一郎]
■文献
河野裕利,勝見正治,他:脳疾患患者にみられた急性出血性直腸潰瘍の2例.日本大腸肛門病会誌,33: 222-227, 1980.

急性出血性直腸潰瘍(非特異性腸管潰瘍)

(3)急性出血性直腸潰瘍(acute hemorrhagic rec­tal ulcer:AHRU)
概念
 急性出血性直腸潰瘍(AHRU)は,1980年に河野らが,1984年に広岡らが報告した疾患概念で,重篤な基礎疾患を有する高齢者に発症し,突然始まる無痛性の新鮮下血を主徴とする急性直腸潰瘍である.潰瘍は,歯状線に接するかその近傍・下部直腸に限局して発生する.原因としては,重篤な基礎疾患によるストレスあるいは,仰臥位寝たきり状態がある(大川ら,1998).
臨床症状・鑑別診断
 症状は無痛性の新鮮出血である.その原因となる,潰瘍の性状は,不整地図状ないし帯状で,多発ないし単発性の横軸に長い潰瘍とされているが,ほかにも多彩な形態の潰瘍が報告されている. 本症には特異的な病理組織学的所見がないために,他疾患との鑑別が問題となる.AHRUと鑑別が問題となる疾患として,宿便性潰瘍,非ステロイド系抗炎症薬坐薬による直腸潰瘍,直腸のDieulafoy型潰瘍,虚血性腸炎などがあげられる. AHRUと鑑別するうえで最も問題となるのは宿便性潰瘍(stercoral ulcer)である.宿便性潰瘍の疾患概念は,便秘に伴う急激な出血である.本症の発症には便秘の存在が重要で,大腸内に停滞した糞便塊が粘膜を直接圧迫し,うっ血,充血,血栓形成,出血,壊死,潰瘍という段階を経て病変が形成されると考えられている.好発部位は直腸・S状結腸であり,多くは下部直腸に病変がみられる.しかし,宿便性潰瘍はAHRUとオーバーラップする部分が多く両者の異同が問題とされている.[松井敏幸]
■文献
大川清孝,中村志郎:急性出血性直腸潰瘍の病態と内視鏡診断.消化器内視鏡,10:1271-1275,1998.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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