(読み)こころざし

精選版 日本国語大辞典 「志」の意味・読み・例文・類語

こころ‐ざし【志】

〘名〙 (動詞「こころざす(志)」の連用形の名詞化)
心中で、こうしよう、ああしようと思う心の働き。心が、ある方向をめざすこと。
(イ) ある方向に向いている心の働き。しようと思う気持意向
源氏(1001‐14頃)玉鬘「大臣の君の、尋ね奉らむの御心ざし深かめるに」
(ロ) 高潔で、むやみに変わることのない気持。高尚な精神。志操。
書紀(720)綏靖即位前(北野本南北朝期訓)「武芸(たけきわさ)(ひと)に過(す)ぎたまへり。而して、志尚(みココロサシ)沈毅(をこ)し」
(ハ) 目的をはっきりとさだめ、その実現のために努力しようとする気持。
今昔(1120頃か)六「仏法を伝へむ志深くして」
(ニ) 失敗などをしないように注意を集中させること。また、気を配る心。
※伊勢物語(10C前)四一「心ざしはいたしけれど、さるいやしきわざもならはざりければ、うへのきぬの肩を張り破(や)りてけり」
(ホ) 信心や、芸道をめざす気持のあついこと。信仰・修行の方面でつとめはげむこと。
※観智院本三宝絵(984)序「恩をいただけること山よりも重く、志を懐ける事海よりも深き宮人也」
② 相手に好意を寄せる心の働き。
(イ) 相手に寄せる好意。相手のためになるような計らい。厚意。親切。配慮。
※土左(935頃)承平四年一二月二九日「医師(くすし)ふりはへて屠蘇(とうそ)、白散、酒くはへて持て来たり。こころざしあるに似たり」
(ロ) ある特定の人に対して抱く恋情。愛人をしたう気持。恋愛の情。思慕の気持。
※竹取(9C末‐10C初)「世のかしこき人なりとも、深き心ざしを知らではあひがたしとなん思ふ」
(ハ) 親子兄弟など肉親の間の情愛。親子の情。
※観智院本三宝絵(984)下「子を思ひける親の心ざし已にねむごろなりき。親をみちびく子の心ざし、今日争かおろそかならむ」
(ニ) 先方の厚意を感謝する気持。お礼の気持。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「ありがたき御はぐくみを思し知りながら、何事につけてかは、深き御心ざしをもあらはし、御覧ぜさせ給はむ」
(ホ) 死んだ人を悲しみ悼む気持。
※増鏡(1368‐76頃)一一「万里小路大納言などは、とりわき御心ざし深くて、御だ火の果つるまで、墨染めの袖を顔におし当てつつさぶらひ給ふ」
③ 性質。人柄を表わすような心の働き。
※書紀(720)垂仁即位前(北野本室町時代訓)「壮(おとこさかり)に及りて、倜儻(すく)れ大(おほ)いなる度(みココロサシ)います」
④ 死者への追善供養冥福を祈るための仏事。
曾我物語(南北朝頃)二「国王、未来の因果を悲みて多くの心ざしを尽くして、かの苦をまぬかれ給ひけるとかや」
⑤ 気持を表わすための金品。
(イ) 謝意や好意を表わすために贈ったり奉納したりする金品。お礼の品。
※土左(935頃)承平五年二月一六日「いとはつらく見ゆれど、こころざしはせんとす」
(ロ) 故人追善供養のための金品。喜捨。布施(ふせ)
浮世草子好色一代男(1682)五「夜もあけて、別れさまに、旅の道心者の、こころざし請度(うけたき)といふ」

こころ‐ざ・す【志】

(「心指す」で、心がその方へ向かうの意)
[1] 〘自サ五(四)〙 心の中で行動の目標、目的などを思い決める。
(イ) 心に思い立つ。ある事をしようと思う。
貫之集(945頃)六「こころざせる女のあたりにまかりていひ入れける」
(ロ) ある目標をめざす。めざして行動する。めがける。
※観智院本三宝絵(984)下「彼浄土を心さしもとむる人は、かならず厭ひ願ふ心を発すべし」
徒然草(1331頃)一七四「一たび道を聞きて、これにこころざさん人、いづれのわざかすたれざらん」
[2] 〘他サ四〙
① 好意、謝意などの気持を表わすために物などを贈る。
※貫之集(945頃)八「あふげどもつきせぬ風は君がためわがこころざす扇なりけり」
② 死者の霊をとむらう。追善供養する。法要を行なう。多く「こころざす日」の形となる。
※咄本・醒睡笑(1628)一「いや、けふは心ざす先祖の頼朝の日なり」

し【志】

〘名〙
① 事件を記した書。記録。
② 紀伝体の歴史書の中で、本紀、列伝とは別に天文、地理、礼楽、政刑などを記述した部分。
※童子問(1707)下「文以詔奏論説要、記序志伝次之」
③ 令制で、兵衛府・衛門府の主典(さかん)
※令義解(718)職員「大志二人、少志二人」
④ こころざし。こころざしや誠意のあること。
※屋代本平家(13C前)抜書「是皆希有難想の思ひを凝し、随喜渇仰の志(シ)を尽し給ふ作法なり」
⑤ イギリスの旧貨幣単位シリングを表わす当て字。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「志」の意味・読み・例文・類語

こころ‐ざし【志】


㋐ある方向を目ざす気持ち。心に思い決めた目的や目標。「を遂げる」「事、と異なる」「を同じくする」「青雲のを抱く」
㋑心の持ち方。信念。志操。「を高く保つ」
相手のためを思う気持ち。厚意。「を無にする」「おはありがたいが、辞退します」

㋐謝意や好意などを表すために贈る金品。「ほんのですが、御笑納ください」
㋑香典返しや法事の引き出物、僧への布施の包みの表に書く語。→寸志
心を集中すること。注意。
「―はいたしけれど、…上のきぬの肩を張り破りてけり」〈伊勢・四一〉
相手を慕う気持ち。愛情。
「一夜のほど、あしたの間も恋しくおぼつかなく、いとどしき御―のまさるを」〈・若菜上〉
死者の追善供養。
「未来の因果を悲しみて、多くの―を尽くして」〈曽我・二〉
[類語]抱負大志謝礼返礼報礼謝儀礼物礼金謝金報謝報酬薄謝薄志謝辞

し【志】[漢字項目]

[音](呉)(漢) [訓]こころざす こころざし しるす さかん
学習漢字]5年
心がある目標をめざして動く。こころざす。「志学志願志向志望
こころざし。「意志弱志初志寸志大志闘志同志篤志微志有志立志
書き記す。書き記したもの。「三国志
志摩しま国。「志州
[名のり]さね・むね・ゆき

し【志】

紀伝体の歴史書で、天文・地理・礼楽などを事項別に分類して記した部分。
律令制で、衛門府えもんふ兵衛府ひょうえふ検非違使庁けびいしちょう主典さかん

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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