(読み)いまわしい

精選版 日本国語大辞典 「忌」の意味・読み・例文・類語

いまわし・い いまはしい【忌】

〘形口〙 いまはし 〘形シク〙 (動詞「いまう(忌)」の形容詞化)
① よくない事が起こる前兆のようで、縁起が悪い。不吉である。
平家(13C前)三「あの御浄衣のよにいまはしきやうに見えさせおはしまし候」
② いやな感じである。好ましくない。不愉快である。
浄瑠璃・都の富士(1695頃)二「ヤア聞たくもなきかんげんいまはしし勝重」
いまわし‐が・る
〘他ラ四〙
いまわし‐げ
〘形動〙
いまわし‐さ
〘名〙

き【忌】

〘名〙
① 凶事をきらい避けること。
② 喪(も)にこもって忌み慎む一定の日数。いみ。忌中。喪中。
③ 死者の命日。「一周忌」「三回忌」「七年忌」などと熟して使うことが多い。
※観智院本三宝絵(984)中「七七日(なぬかなぬか)の忌の間は此の寺に来て一日に一鉢をまうけて、一人一巻を講ぜむ」 〔周礼‐春官小史

いまし・い【忌】

〘形口〙 いまし 〘形シク〙 いまいましい。忌み嫌うべきことである。腹立たしい。残念である。
仮名草子・見ぬ京物語(1659)下「いましひ所業をすてて、浄土専念の宗旨をひろめ給へり」

いま‐・う ‥ふ【忌】

〘他ハ四〙 (動詞「いむ(忌)」の未然形に、接尾語「ふ」の付いたもの) 嫌って避ける。
※平家(13C前)一一三位をこそし給ふべかりしかども、平家のし給ひたりしをいまうてなり」

いまわいまはし【忌】

〘形シク〙 ⇒いまわしい(忌)

いも・う いまふ【忌】

〘他ハ四〙 ⇒いまう(忌)

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デジタル大辞泉 「忌」の意味・読み・例文・類語

き【忌】[漢字項目]

常用漢字] [音](漢) [訓]いむ いまわしい
いやなこととして避ける。恐れはばかる。「忌諱きき・きい忌憚きたん忌避禁忌嫌忌猜忌さいき
死者の命日。「忌日きにち遠忌おんき年忌一周忌桜桃忌三回忌
喪に服する期間。「忌中忌引きびき忌服きぶく
[難読]忌忌いまいましい

いみ【忌(み)/斎】

《動詞「い(忌)む」の連用形から》
(斎)心身を清浄に保ち、けがれを避けて慎むこと。
(忌み)死・不浄など、はばかりのあること。
(忌み)人の死後、近親者が、しばらくの間家に慎みこもること。喪。喪中。。「―が明ける」
(忌み)陰陽道おんようどうなどで、ある方角・日取りなどをはばかって避けること。物忌み。かたたがえ。
「―もたがへがてら、しばしほかにと思ひて」〈かげろふ・中〉
他の語の上に付いて複合語をつくり、汚れを清めた、神聖な、の意を表す。「―火」「―殿どの
[類語](2忌服服喪忌み明け

き【忌】

死者の喪に服して慎む一定の日数。忌中。喪中。いみ。「にこもる」
死者の命日。「一周」「芭蕉」→忌日[補説]

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改訂新版 世界大百科事典 「忌」の意味・わかりやすい解説

忌/斎 (いみ)

日本古来の宗教文化に基本的な神聖観念および習俗の一つ。《古事記》《日本書紀》その他の古典で,典型的には〈斎〉と〈忌〉とに表記上使い分けられる。現代では禁忌ないしタブーに比定されるが,古典的には異常な神聖に対する消極的な忌避の態度や習俗ばかりでなく,積極的な交渉や謹慎のそれをも含む。原始古代の神聖観念には,崇高,清浄,偉大,強力など畏敬すべき神聖のほかに危険,邪悪,汚穢(おわい)など忌避すべき不浄な神聖も含まれており,基本的には異常な神秘として日常から隔離され俗的扱いを禁止される意味をもつ。その意味から日本語でいう〈清浄〉も〈不浄〉も単なる衛生観念ではなく,共に事象の神聖なあり方をさし,それへの対処には宗教的に特別の配慮を要する。〈いみ〉という観念・習俗と〈いむ〉という態度・行為とがそれである。したがって逆に〈いみ〉の表現と〈いむ〉行為とは,特定の対象が神聖(清浄ないし不浄)であることを指示し,さらにそれを聖化し,聖別するとも考えられる。これらを総称して〈ものいみ〉・斎戒というが,これは一般に神聖性を対象化する意味にほかならない。古典の用語例をみると,〈いみ〉の場合,忌(斎)服屋(いみはたや),忌(斎)部(いむべ)/(いみべ),斎食(いもひ)/(いみひ),忌神(いみのかみ),斎戒・諱忌(ものいみ),忌(斎)火,忌柱(いみはしら),物忌(職掌名),事忌(こといみ)(忌言葉)など多く複合語としてほとんど神祇祭祀にかかわるもので,関連する事象がすべて非日常的に聖別されたものであることを示している。動詞形〈いむ〉の場合,夜の一つ火を忌む,笠蓑を着たり草束を背負って他人の家に入ることを諱む,生者を死人と見誤るのを悪む(以上〈神代紀〉),長雨を禁む(《万葉集》),斎こもる(《祝詞式》)など〈いむ〉を忌・斎ばかりか諱・悪・禁・畏などと表記しているが,これらは異常な事態を恐れ避ける傾向をうかがわせる。後代に〈忌中(きちゆう)〉のように不浄を忌むとする意と,〈潔斎〉〈斎主(さいしゆ)〉のように浄化して神を〈斎(いわ)う〉意とが分化してくるのである。
穢れ(けがれ)
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「忌」の意味・わかりやすい解説


いみ

日本における禁忌の意。忌は日本人の精神生活において重要な意義をもち,通常,相異なる清浄の忌と穢れの忌とがある。前者は主として神事の儀礼に関する忌で,穢れを取去り,身を清めることをいい,後者は死や出産,婦人の月事などにみられる。この2つの忌の区別は外国にもあるが,一般にタブーといわれているものが日本の忌と同一のものであるかどうかについては疑問視されている。清浄の忌にせよ,穢れの忌にせよ,忌に服する者は普通の人と接触しないという禁制があるため,別居別火の生活をすることがあった。たとえば祭りの忌に服する人のこもる精進屋や,出産,月事の忌を避ける産屋 (うぶや) ,月小屋などである。忌の種類によってそれぞれ服する期間が決っており,それから出るときには忌明けの儀礼を行なった。また個人や家族だけでなく,特に神事や凶事については村民全体が服するという村忌の習俗もある。このほかの忌としては,一定の日を忌む忌日,方角の忌の方違 (かたたがえ) ,ある種の動植物を口にしない食栽禁忌,特定の言葉や数を避ける忌言葉忌数などがあり,特に凶事の作法を日常は行うことを避けるという傾向は一般的にみられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「忌」の意味・わかりやすい解説


忌(い)むべき状態。とくに人の死によって、近親者などが受ける穢(けが)れた状態をいう。忌には神聖であるために近づきにくいものと、穢れているために遠ざかるべきものとがあり、正反対であるのに一括して受け止めている。後者の最大のものは死と出血だと考えられてきた。血の忌は、出産、月経、傷の出血などを忌むものであるが、なかでも死の忌は、死者に対する哀惜や追悼の気持ちに結び付き、文明社会にも根強く残っている。忌はこのように、死者との関係によって自動的に入る状態をいい、その忌に対して慎みの気持ちを表す儀礼や方式を「喪(も)」という。ただし両者はしばしば混同され、また忌の期間や命日(めいにち)の意味にも使われる。

[井之口章次]

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旺文社日本史事典 三訂版 「忌」の解説


いみ

汚れたもの,あるいは神聖なものに近づくことを避ける古代の宗教的風習
「斎」とも書く。陰陽 (おんみよう) 道・仏教・易などに基づき特定の日時・所・方角・行為・対象物などを汚れたもの,あるいは神聖なものとし,これに接近・接触を禁じる風習。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【忌服】より

…服忌ともいい,死が発生してのち一定期間,喪服(凶服)を着て家に忌みこもること。〈忌〉は死のけがれにより家に謹慎することであり,〈服〉とはもと素服(そぶく)を着ることである。…

【葬制】より

… 現在の人類社会において葬制の意味するところは単なる死体の処理を超えてはるかに広い。それは,たとえば人間は霊魂をもつという観念のなかに端的に見られるように,個人の人格は肉体の存在とは別の文化的表象をもっており,それによって死および死者にかかわる儀礼は死の直後だけでなく,服喪の順守や年忌・法事の執行に現れているように長期間にわたって継続される可能性があるからである。さらに重要なことは,このようにして表象された死者は社会的な存在であるということである。…

【穢】より

…本来は宗教的な神聖観念の一つ。罪と災いとともに日本古代の不浄観念を構成し,これを忌避する,忌(いみ)または服忌(ものいみ)の対象をいう。記紀には穢,汚,汚垢,汚穢,穢悪などと表記され,またケガラワシともキタナシとも読まれる。穢と罪とはきわめて密接な関係があって,多く罪穢(つみけがれ)と熟して用いられるが,罪が広く社会の生業を妨害し規範を犯して集団の秩序を破壊する意図的な危険行為を指すのに対し,穢は人畜の死や出血や出産など異常な生理的事態を神秘的な危険として客体化したものである。…

【タブー】より

…文化人類学などにおいては,タブーという語は次のような限定された意味で用いる。すなわち,ある事象(事物,人,行為など)を,感染性の危険を帯びているとみなして,それに触れたり,さらにその行為をしたりすることを禁じる規則があり,その規則に違反したものは自動的に災厄に見舞われると考えられているとき,そのような規則をタブーと呼ぶ。タブーを侵犯した者は,自分自身が災厄に見舞われるだけでなく,自分の周囲の人々や共同体にも災厄をもたらす。…

※「忌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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