心神耗弱(読み)しんしんこうじゃく

精選版 日本国語大辞典 「心神耗弱」の意味・読み・例文・類語

しんしん‐こうじゃく ‥カウジャク【心神耗弱】

〘名〙 心神喪失より程度軽いが、精神機能の障害により、事の善悪を識別し、また、それによって行動することの著しく困難な状態。刑法上、刑が減軽される。

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デジタル大辞泉 「心神耗弱」の意味・読み・例文・類語

しんしん‐こうじゃく〔‐カウジヤク〕【心神耗弱】

統合失調症感情障害などの疾患や、薬物・アルコールの摂取などにより、善悪を判断し、それに基づいて行動する能力がきわめて低下した状態。心神喪失より軽いものをいう。刑法上は刑が減軽される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「心神耗弱」の意味・わかりやすい解説

心神耗弱
しんしんこうじゃく

精神の障害により、善悪を判断する能力(是非弁別能力)またはこの善悪の判断に基づき自己の行動を抑制する能力(行動制御能力)が著しく劣っている場合をいう。このような場合には、限定責任能力者の行為として、刑が必要的に減軽される(刑法39条2項)。たとえば、精神病、知的障害による場合のほか、酩酊(めいてい)、薬物中毒睡眠催眠の状態などにより、判断能力や自己抑制能力が通常人よりも著しく劣っている者の行為がこれにあたる。これに対して、これらの能力が欠ける場合を「心神喪失」とよび、責任無能力者の行為として、責任が阻却される(同法39条1項)。心神耗弱にあたるか否かは、精神科医精神鑑定を尊重して、最終的には裁判所が判断する。なお、かつての刑法第40条は、聾唖(ろうあ)者の行為につき、これを無罪とするか刑を減軽するものとしていたが、1995年(平成7)の刑法一部改正によって、本条は削除された。また、民法上、心神耗弱者被保佐人旧民法準禁治産者)として、民法第13条が定める法律行為をなすにあたっては保佐人の同意を必要とする(ただし、かつて民法11条の条文中にあった「心神耗弱者」の語は、差別的な印象を与えるとして、1999年の改正により、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」という表現に改められた)。

[名和鐵郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「心神耗弱」の意味・わかりやすい解説

心神耗弱 (しんしんこうじゃく)

心神喪失のように意思能力を完全に失うまでには至らず,不完全ながら理非善悪を判断し,その判断に従って一応意思決定をすることもできるが,その能力の減退がいちじるしい状態をさす概念。民法上は準禁治産の原因(民法11条),刑法上は刑の減軽事由(刑法39条2項)となる。心神喪失との差は量的なものにすぎないから,禁治産宣告の申立てが行われた場合に準禁治産を宣告することも,その逆の処理もともに可能と解されている(通説。判例は前者の事例について通説と同じ,後者の事例についての判例はなし)。病的な精神障害によるものであることを必ずしも要せず,また,準禁治産の原因としては継続的なものであることを要するが,刑の減軽事由としてのそれは一時的なものであっても差し支えない。過労,精神的窮境,酒精酩酊,集団暗示,内因性気分変調,月経なども刑の減軽事由としては問題となりうる。
準禁治産者
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百科事典マイペディア 「心神耗弱」の意味・わかりやすい解説

心神耗弱【しんしんこうじゃく】

精神機能の障害により,是非善悪を弁別することの著しく困難な状態をさす概念。神経衰弱,酩酊(めいてい)あるいはアルコール中毒,老衰等による。刑法では限定責任能力者としてその刑を減軽する(刑法39条2項)。従来,民法上は準禁治産者となし得るとされてきたが,1999年の法改正による成年後見制度導入に伴い,〈心神耗弱者〉の語は〈精神上の障害に因り事理を弁識する能力が著しく不十分なる者〉と改められ,準禁治産者は〈被保佐人〉と改称された。→心神喪失
→関連項目精神鑑定責任能力

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「心神耗弱」の意味・わかりやすい解説

心神耗弱
しんしんこうじゃく

精神の障害により,是非善悪を弁別し,またはその弁別に従って行動する能力が著しく低い状態。心神耗弱者の行為は刑法 39条2項により,限定責任能力者として刑が減軽される。飲酒による酩酊や神経衰弱,知的障害,老衰などがある。いわゆる精神病質が責任能力の有無,程度に影響するかどうかについては争いがある。

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世界大百科事典(旧版)内の心神耗弱の言及

【責任能力】より

…14歳未満の者は責任無能力である(刑法41条)。精神障害者については,心神喪失者は責任無能力となり(39条1項),心神耗弱(こうじやく)者は限定責任能力となる(同条2項)。判例によれば,心神喪失とは精神の障害により自己の行為の理非善悪を弁識できず,または理非善悪を弁識してもそれに従って行動を制御できない精神状態をいう。…

※「心神耗弱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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