心的外傷後ストレス障害(PTSD)(読み)しんてきがいしょうごすとれすしょうがいぴーてぃーえすでぃ(英語表記)Post-traumatic Stress Disorder

家庭医学館 の解説

しんてきがいしょうごすとれすしょうがいぴーてぃーえすでぃ【心的外傷後ストレス障害(PTSD) Post-traumatic Stress Disorder】

[どんな病気か]
 阪神はんしん)・淡路大震災(あわじだいしんさい)の後、心的外傷後ストレス障害ということばがよく知られるようになりました。これは、大きなショックの直後ではなく、約1か月くらいたって、災害などの直接的危険が去った後に生じるものをいいます。PTSDをひきおこすのは、生命に危険がおよぶほどの大きな事故、災害、戦争拷問(ごうもん)などで、自分自身がこのような体験をするだけでなく、他人がこのような目にあうのを目撃することでも発症します。
[症状]
 おもに3つの種類があります。1つは、侵入的想起(しんにゅうてきそうき)、あるいは再体験(さいたいけん)という症状で、心的外傷を受けたときの情景を、あたかももう一度その場に戻ったかのようにありありと体験したり(フラッシュバック)、突然その情景がくり返し頭の中に浮かんだりするという症状です。
 2つめは、回避(かいひ)、感情(かんじょう)まひと呼ばれる症状で、フラッシュバックをひきおこしそうな場所には行けなくなったり、外傷を受ける前と後では自分がちがってしまって、人には自分の気持ちが通じない、自分は他の人とちがってふつうの生活は今後もできないと思ってしまう症状です。
 悪夢や、ちょっとした刺激に大きな反応がおこってしまう「驚愕反応(きょうがくはんのう)」など覚醒亢進状態(かくせいこうしんじょうたい)が、3つめの症状です。
 これらの症状があると、閉じこもりがちの生活となり、社会生活に大きな支障をきたします。いやな症状から逃れるため、アルコールを大量に飲むようになることもあります。
[治療]
 まず、正しく診断がついていることがなによりもたいせつです。大震災など人々の注目を集めるものとはちがって、個人的な自動車事故などでは、本人が黙っていると、症状が見過ごされることもあります。いやなことを話すのは回避したいという症状のため、医者の前でも心的外傷のことを話さない人も多いのです。
 診断がきちんとついたら、食事、睡眠など安心できる環境を提供することがまず大事です。睡眠障害(すいみんしょうがい)などには、薬物療法も有効です。
 いやな体験を忘れようとすればするほど、その体験がフラッシュバックとなってよみがえる場合は、精神療法認知療法などを用います。いやな体験について、つらくても思い出し、語り直す必要があることも多いものです。
 症状が消失するには時間がかかることもありますが、家族はあせらず見守る態度が必要です。「もう忘れなさい」と叱責(しっせき)したり、励ましすぎると、孤立感を強めてしまうことが多いのです。
 消防隊救急隊員など、大惨事(だいさんじ)の現場ではたらく職種の人は、心的外傷後ストレス障害になる率が高いため、毎日の仕事の後に、グループミーティングをして気持ちを整理することが予防になるという報告もあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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