心理アセスメント(読み)しんりアセスメント(英語表記)psychological assessment

最新 心理学事典 「心理アセスメント」の解説

しんりアセスメント
心理アセスメント
psychological assessment

心理アセスメントとは,臨床心理学的援助を必要とする事例について,その人格,状況,規定因などに関する情報を系統的に収集・分析し,その結果を総合して事例への介入方針を決定するための作業仮説生成する過程をいう。心理アセスメントの目的は,①臨床過程においてクライエントを理解するうえで役立つ資料を提供すること,②問題を引き起こし,維持させている要因を分析すること,③介入を適切なものにするための基礎を提供すること,④介入の効果を検証すること,が挙げられる。

【臨床的データの収集と活用】 心理アセスメントにおいて,データを収集する方法には以下のようなものがある。

面接法interview method 会話を通してデータを得る方法。臨床場面では,構造化の程度が低く,クライエントの話を共感的に聴くことを通して情報を収集していく臨床面接法が用いられることが多いが,より構造化の程度が高く,系統的に情報を収集することを目的とする調査的面接法も開発されつつある。たとえばDSM用構造化臨床面接,すなわちSCID(structured clinical interview for DSM)のような診断面接基準は後者の例である。なお,DSMは『精神障害の診断と統計の手引き』を指す。

観察法observational method 行動を見ることで情報を得る方法。日常場面を観察する自然観察法と,観察場面の条件を統制する実験観察法がある。臨床場面では,援助者がクライエントにかかわりながら観察を行なうことが多いため,参加観察の形態を取ることが多くなる。

質問紙法questionnaire method 質問項目を用いて人の意識や行動を測定しようとするデータ収集法。心理アセスメントに用いられるものとしては,矢田部-ギルフォード性格検査YG性格検査)やミネソタ多面人格目録MMPI)などのパーソナリティ測定の尺度や,抑うつや不安を測定する自己記入式の心理尺度などが代表的である。

知能検査法intelligence test 知的機能を測定し,知能指数(IQ)という数値で表示する方法。代表的な方法としては,ビネー式知能検査とウェクスラー式成人知能検査がある。前者はさまざまな能力の総体としての一般知能の測定を目的とし,後者は知能をいくつかの次元から構造的にとらえ,知能を診断的にとらえることを目的としている。

投映法projective technique 被験者に曖昧な刺激を与え,それに対する自由な反応をデータとして収集する心理検査の方法。これは,曖昧な刺激に対しては被験者の無意識が投映されるという仮定に基づいている。ロールシャッハテストTAT絵画統覚検査)などが代表的である。

神経心理学的検査法neuropsychological test 神経心理学は,脳機能障害を対象として発展してきた,脳と心の対応関係を探る研究領域である。神経心理学的検査法は,認知症の認知機能の異常,学習障害・注意欠陥多動性障害・広範性発達障害などの認知行動機能の未発達や遅れ,精神疾患による認知行動機能異常などの測定のための方法として発展してきた。言語・知覚認知・行為・記憶・注意・遂行などの諸機能を測定する。標準失語症検査(SLTA),レーブン色彩マトリクス検査(RCPM)などが使用される頻度の高い検査である。

脳画像検査brain imaging 人間の脳の構造や機能を測定し視覚化して示す方法。脳の構造を画像化する方法としては,X線コンピュータ断層法(CT)や,磁気共鳴画像(MRI)といった方法が用いられる。また,脳の機能を画像化する方法としては,脳波(EEG),脳磁図(MEG),陽電子断層法(PET),機能的磁気共鳴画像(fMRI)などがある。

 心理アセスメントにおいては,上記のような方法を,必要に応じて複数組み合わせて用いることで,多元的な臨床的データを収集し,仮説生成に活用することとなる。

【データ分析】 実践的に意味のある情報を得るためには,単にデータを集めるだけではなく,収集したデータを集約し,再構成する適切なデータ分析の過程が必要である。この仮説を立てる過程をケース・フォーミュレーションcase formulation(事例定式化)という。ブルックBruck,M.によると,ケース・フォーミュレーションは以下のような手順で行なわれる。

①問題の明確化:まずクライエントから何が問題であるかを聞き,明確化する。また,援助の目標をどのように定めるかを共有する。

②仮説探索:次に臨床的データに基づいて,問題を構成する要素やそれらの関連性についての仮説を探索する。仮説を立てる際には,そのアイデアを検証するために,前述したような多様な方法を用いて,さらに臨床的データを収集することも行なわれる。

③フォーミュレーション:こうした過程を経て,ある程度の仮説が生成されたら,クライエントに提示し,妥当なものであるかどうかを確認する。そして,クライエントの意見を取り入れながら必要に応じて仮説を修正し,より問題状況を説明できる精緻なものに発展させていく。援助者とクライエントとの間で妥当な仮説を生成できたと合意したら,仮説に基づいて介入方法を提示する。

④介入:クライエントと話し合って介入方法を決定し,実行する。介入が行なわれた後は,その結果についてクライエントから報告を受け,介入の効果について評価を行なう。

⑤評価:さらに,介入の効果を定期的に評価することを続け,クライエントの変化をモニターする。クライエントに継続的な変化が生じるように,適宜仮説を修正し,発展させていく。

【心理アセスメントの意義と留意点】 適切な心理アセスメントは,より正確なクライエントの理解をもたらすのみならず,クライエントの動機づけを高め,介入の効果を高めることにも貢献する。また,他職種のスタッフや関係者とのチームワークにおいても,心理職の専門性を伝え,作業を円滑に行なうことに役立つ。

 心理アセスメントの際の留意点としては,以下の2点が挙げられる。第1に,アセスメントは,理論や方法ありきで行なわれるのではなく,個々の事例の特性を尊重しながら,その事例にとって有益な仮説と介入方法を見いだすために行なわれなければならない。このためには,さまざまな知識や理論を活用して,さまざまなデータを包括的に収集し,統合していくことをめざす必要がある。臨床実践を行なう者には,自らの仮説生成の背景にある理論や知識を意識し,偏りや見落としが生じないように,心理アセスメントにかかわる知識や方法を更新していく姿勢が求められる。第2の留意点は,心理アセスメントは援助者とクライエントとの協働作業によって成り立つということである。援助者が一方的に仮説を立てて介入方法を決定するのではなく,問題の明確化から目標の共有,仮説の生成,介入方法の決定と実行,評価まで,すべての過程においてクライエントと方向性を確認し合い,合意しながら進めていくことが重要である。このためには,援助者が適切な形でクライエントと情報を共有することが必要となる。たとえば,心理アセスメントのために,あるデータ収集方法(検査など)を用いたいと考える場合は,クライエントに対してその方法を用いる目的や意義を告げ,結果についてもわかりやすくフィードバックすることが大切である。また,報告書の作成も含め,心理アセスメントの結果をだれにどのように伝えるかということには十分な配慮が必要である。心理アセスメントはクライエントの利益のために行なわれるということを忘れてはならない。 →観察法 →質問紙法 →知能 →調査法 →投映法 →臨床神経心理学 →臨床心理学研究法
〔藤川 麗〕

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