心房粗動(読み)しんぼうそどう(英語表記)Atrial flutter

六訂版 家庭医学大全科 「心房粗動」の解説

心房粗動
しんぼうそどう
Atrial flutter
(循環器の病気)

どんな病気か

 心房の興奮回数が1分間に240~450回で、電気的興奮が主に右心房(うしんぼう)内を大きく旋回する頻拍(ひんぱく)脈拍が速くなる)を心房粗動といいます。興奮波が右心房自由壁を上行し、右心房中隔を下行して解剖学的峡部(きょうぶ)伝導遅延部位として通過する頻拍を通常型心房粗動といいます。

 12誘導心電図のⅡ、Ⅲ、aVF誘導で心房興奮が鋸歯状波(きょしじょうは)を示す場合には、前述粗動回路(そどうかいろ)を電気的興奮が旋回していると考えられます。

 また、心電図で心房興奮回数が240/分以上あり、心房興奮は明らかに規則正しく識別できても、心房興奮波の間に基線があって鋸歯状波が認められない場合には、希有型(けうがた)あるいは非通常型心房粗動といわれています。これは、前述の回路以外を興奮波が旋回していると考えられます。

 一般に心房粗動は、300/分の心房の興奮回数を示し、2対1~4対1房室伝導をすることが多いようです。

原因は何か

 これまでの説では、心房粗動はほとんどが器質的心疾患に合併するといわれていましたが、通常型心房粗動は器質的心疾患がなくても生じます。

 希有型心房粗動は手術に伴う切開創(せっかいそう)の周囲を興奮が旋回することで生じることがあります。

症状の現れ方

 心房粗動は、一般的には突然始まり長時間続くことが多いようです。自然に止まることもありますが、自然に止まらないことも多く、直流通電による電気ショックで止めることもしばしばあります。

 症状としては動悸(どうき)がする、胸部違和感がある、胸が(おど)るように感じる、胸が痛むなどがあります。

検査と診断

 12誘導心電図のⅡ、Ⅲ、aVF誘導で心房興奮が鋸歯状波を示していれば、通常型心房粗動と診断できます。

 多くの場合に2対1房室伝導をするので、心拍数は多くの例で150/分を示します。しかし、心拍数が150以上/分では鋸歯状波が見えにくくなり、上室性頻拍(じょうしつせいひんぱく)との区別が必要になります。この場合には迷走(めいそう)神経の刺激あるいはATP製剤の静脈注射静注)により房室結節(ぼうしつけっせつ)伝導を抑えると、鋸歯状波が確認できます。

 心房粗動の場合には、これらの刺激で粗動は止まりません。正確な診断には心臓電気生理学的検査が必要になります。

 心房興奮回数が350/分を超えて心房興奮が不規則になると心房細動(しんぼうさいどう)と区別がつきません。定義上は心房興奮回数が450/分を超えれば心房細動と考えられています。また、心房興奮回数が220あるいは230/分に満たなければ心房頻拍(しんぼうひんぱく)と呼ばれます。

 心電図による分類では、心房の興奮回数だけで鑑別診断が行われています。

治療の方法

 心房粗動をすみやかに止める場合には直流通電による電気ショックを行います。

 電気ショックによる心房粗動停止率は90%以上です。心房頻回ペーシングによる心房粗動停止率も90%以上ですが、抗不整脈薬による停止率は20%くらいです。興奮波の伝導を抑えるナトリウムチャネル遮断薬による停止率は10~20%ですが、粗動回路の不応期(ふおうき)を延長させるカリウムチャネル遮断薬(ベプリジルあるいはアミオダロン)による停止率は50%くらいです。

 一方、純粋なナトリウムチャネル遮断薬のIc群抗不整脈薬(ピルジカイニド)による予防率は50%くらい、カリウムチャネル遮断薬群による予防率は70%くらいです。

 通常型心房粗動に対しては高周波カテーテル・アブレーションコラム)による根治が可能で、根治率は90%以上です。カテーテルアブレーション非薬物療法による心房粗動の予防になります。

病気に気づいたらどうする

 心房粗動は自然に止まることが少ないので、心房粗動が生じたら最寄り病院循環器内科を受診することがすすめられます。

 その前に心房粗動を予防するためには、お酒の飲みすぎ、疲労、睡眠不足、ストレスを避けることが大切です。

関連項目

 期外収縮

杉 薫

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「心房粗動」の解説

心房粗動(上室頻脈性不整脈)

d.心房粗動(atrial flutter)
概念
 粗動では心房は規則正しい220〜370拍/分の興奮に陥っている.
分類
 タイプIの心房粗動は,ペーシングで停止または補足可能でレートは240〜300拍/分と比較的遅い.さらに心電図所見から通常型と稀有型に分類される.タイプⅡは,ペーシングが無効な粗動で,レートは340〜440拍/分と速い.
原因・成因
 心房粗動は基礎心疾患に合併することが多い.通常型心房粗動の機序はリエントリーで,三尖弁輪を下からみて反時計方向に興奮が右心房を旋回する(図5-6-10).同一例で旋回方向が逆になる例もある.心臓手術後の心房切開部位を旋回するマクロリエントリーも同一に扱われる.稀有型心房粗動では不明点が多い.
疫学
 心房細動の1/7〜1/20と頻度は少ない.
病態生理
 粗動時は2:1,4:1房室伝導を示すことが多い.まれに房室伝導が異常に亢進している例があり,1:1伝導をきたし生命も危険となる.
臨床症状
 動悸を伴う.房室伝導が良好な例では,頻脈のために血圧低下やショックをきたす.
診断
 心電図で心房粗動は規則正しいF波を認める.F波のレートは220〜370拍/分である.通常型ではⅡ,Ⅲ,aVFで鋸歯様の下向きのフレは認めるが(図5-6-11A),三尖弁を時計方向に旋回した場合は上向きのフレとなる.稀有型では鋸歯状のフレはみられない(図5-6-11B).心房細動と粗動は互いに移行しあう例がある.
経過・予後
 基礎心疾患によって規定される.
治療
 停止には伝導を抑制するNaチャネル抑制薬(プロカインアミド,ジソピラミド,シベンゾリン,アプリンジン,ピルジカイニド)を用いる.迷走神経遮断作用を有する抗不整脈薬を用いると粗動のレートが低下しても停止しない限り,房室伝導が亢進するために心室レートが上昇する危険があり逆説的頻拍とよばれる.その回避には房室伝導の抑制薬(ジギタリス,Ca拮抗薬,β遮断薬)を併用する.
 予防は上記の抗不整脈薬以外,不応期を延長させる抗不整脈薬を用いる.薬剤治療の困難なことが多い.
 通常型心房粗動は三尖弁輪と下大静脈の間の峡部を興奮旋回路とすることから(図5-6-10),この部位をカテーテルアブレーションすることで治癒させることができる.ほかの粗動でも起源が同定できればカテーテルアブレーションは有効である.[相澤義房]
■文献
Cappato R, Calkins H, et al: Updated worldwide survey on the methods, efficacy, and safety of catheter ablation for human atrial fibrillation. Circ Arrhythm Electrophysiol, 3: 32-38, 2010.
Connolly SJ, Ezekowitz MD, et al: Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med, 361: 1139-1151, 2009.
児玉逸雄,他:不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版),日本循環器学会,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_h.pdf
奥村 謙,他:不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版),日本循環器学会,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「心房粗動」の意味・わかりやすい解説

心房粗動
しんぼうそどう

心房が毎分250~400の頻度で規則正しく収縮している状態をいうが、心拍数は房室ブロックがあるために毎分60~100に保たれている。心電図では心房筋の興奮を示すP波がなく、鋸歯(きょし)(鋸(のこぎり)の歯)状の細かい波が規則正しく認められる。細かい不規則な波を示す心房細動のf波に対してF波とよばれる。心房細動が健常な心臓にも出現することがあるのに対し、心房粗動はほとんどの場合、動脈硬化性疾患や心筋症などの器質的心疾患に伴って出現する。心房粗動の心房収縮は、ときに心室へすべて伝導されて頻拍となることがあり、この場合には急激に心不全状態に陥る危険がある。ジギタリス剤によって心房細動に移行させ、投与を中止すると洞調律に戻る場合が多い。急いで洞調律に戻す必要がある場合には電気的除細動を行う。

[井上通敏]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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