精選版 日本国語大辞典 「復活」の意味・読み・例文・類語
ふっ‐かつ フククヮツ【復活】
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死んだイエスが甦(よみがえ)ったという主張で,キリスト教の使信の中核をなす考え方。もっとも死人が再び甦るという思想はキリスト教に限られているわけではなく,仏教においてもみられるし,さらに新約聖書においても,イエスに限らず何人かの甦りについて語られている(《マルコによる福音書》5:21以下,6:14,《ルカによる福音書》7:11以下,《ヨハネによる福音書》11:17以下,《マタイによる福音書》27:52)。しかし新約聖書は,イエスの復活はそれらとは異なって,まったく新しい生命への甦りの〈初穂〉であったと主張する。その最古の証言は,パウロの《コリント人への第1の手紙》15章3節以下に記されている初代教会の宣教の短い要約であり,福音書に記されている実体的な復活の詳細な描写の成立は,福音書成立がかなり遅い時期であることからしても明らかなとおり,それに後続するものであろう。注目すべきことに,パウロは上掲の個所で,みずからの〈内に〉啓示されたイエスの復活のできごと(《ガラテヤ人への手紙》1:16)を,他の使徒たちが体験した復活のイエスとの出会いのできごとと同一視している。このことは,イエスの復活のただ実体的な理解のみでなく,内面における〈信仰的・実存的〉な理解の必要を示していると言ってよいであろう。さらに,十字架刑(磔刑)に処せられた1人の人物の復活という思想の中には,その無残な死とそれに至るまでのイエスの生涯に対する神の〈肯定〉が語られているのだ,との新約聖書の主張が正しいものだとするならば,そこではその復活と生前のイエスの使信との間の有機的な関連こそまず問われなくてはならないであろう。
執筆者:青野 太潮
〈復活〉は初期キリスト教美術においては,〈磔刑〉と同じように,象徴的にしか表現されていない。石棺の浮彫には,クリスモンと月桂冠を飾った十字架の両側に,2人の眠る兵士(イエス・キリストの墓を見守るためにつかわされた兵士)を配し,〈復活〉の図像であることを示唆する表現が見いだされる。また新約聖書の〈ラザロの復活〉,旧約聖書のダニエルやヨナの物語などが〈復活〉の予型として用いられることもある。墓を訪れる2人または3人の聖女たちによってこの主題を間接的に表す方法は,西欧中世において早くから用いられた。墓の前に天使が座り,右手を挙げて,没薬や乳香をもって訪れて来た聖女たちにキリストの復活を告げている。番兵たちはその周囲で眠るか,意識を失ったように倒れている。また復活後,マグダラのマリアの前に現れるキリスト(〈ノリ・メ・タンゲレNoli me tangere(我に触るるな)〉)によっても〈復活〉が示唆されることがある。ビザンティン美術においては,〈キリストのリンボへの降下(アナスタシス)〉が〈復活〉に代わって用いられた。西欧においては,中世後期から,墓の中から復活するキリスト自身を明示する表現が主流となる。キリストは墓(石棺)の中に立つか,縁石に足をのせるか,墓をまたぐか,墓の前に立つか,あるいは石棺の蓋石の上に立つかのいずれかの動作を行っている(時として兵士の一人の上に足をのせていることもある)。その手には十字架のついた旗が握られている。さらに14世紀のイタリアでは,キリストが石棺の上空に光り輝いて浮かびあがる表現が誕生する。グリューネワルトの〈復活〉のキリスト(《イーゼンハイムの祭壇画》)は〈変容〉のときのように燦然(さんぜん)と輝く光輪に包まれて中空に舞い上がっている。反宗教改革期以後,神学者たちはキリストの復活の奇跡を強調するために,墓の蓋は閉じられていなければならないと主張したが,芸術家たちは必ずしもこの忠告に従ってはいない。
執筆者:荒木 成子
ロシアの作家L.N.トルストイの長編小説。友人の法律家A.F.コーニから聞いた実話に基づき,1889年《コーニの話Konevskaya povest’》という表題で書き始められた。一時中断していたが,ドゥホボル派信者のカナダ移住のための基金を得る目的で,99年週刊誌《ニーワ》にレオニード・パステルナーク(詩人B.L. パステルナークの父)の挿絵入りで連載発表され,同時にドイツ,イギリス,フランスで翻訳出版され,世界的な反響を呼んだ。貴族ネフリュードフは青年時代,伯母の小間使カチューシャ・マースロワを誘惑して捨て,そのため彼女は堕落して売春婦となり,法廷の手続ミスのためシベリア送りとなる。罪の意識を覚えたネフリュードフは彼女を救うために努力し,自らもシベリアに赴く。《復活》の評価は,メロドラマと見る大衆的な受入れ方から,傾向的な教訓小説とする見方まで,多様である。だが,この作品の特徴は,当時のロシア社会のあらゆる部分に光があてられていることで,裁判所,教会など既成の権力に対する厳しい批判が随所に見える。この宗教批判が原因となって,トルストイは1901年に正教会から破門されたのであった。
日本では,早くも1905年に内田魯庵訳の《復活》が発表されている。ついで14年,島村抱月の翻訳・脚色で帝国劇場で上演(主演は松井須磨子と横川唯治)され,空前の成功を収めた。カチューシャの名を冠した髪形,櫛,絵はがきまでが作られた。とくに劇中で歌われた《カチューシャの唄》(中山晋平作曲)は,〈歌謡曲の誕生〉といわれるほどの流行ぶりを示した。
執筆者:川端 香男里
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…しかし,われわれが現在何の抵抗も感じないで使っている言葉のなかには〈世俗化〉されたキリスト教の用語が多くふくまれている。代表的なものとして〈十字架〉〈復活〉〈福音〉〈バイブル(聖書)〉〈三位一体〉〈洗礼〉〈終末〉〈天国〉などを挙げることができよう。これらの言葉がしばしばキリスト教的起源をはっきり意識しないで用いられている事実(たとえば苦痛や犠牲を〈十字架〉,必読書を〈バイブル〉などと比喩的に呼ぶ場合)は,ある意味でキリスト教の土着化のしるしとみなされよう。…
…しかし,魚は,古くから生命の豊饒,とりわけ海や川の幸の象徴として用いられてきたのであり,そのことは地中海世界やナイル川流域に限らず,広く世界の民俗学的事実として知られている。したがって,キリスト教象徴主義の影響は,魚を単に生命原理としてではなく,復活のイエスの象徴としてそこに新たな意味を添加した点に求められるべきであろう。魚と復活のキリストとの結合については,《ヨハネによる福音書》の21章に関連記事がある。…
…かつて遊女であったが,悔い改めイエスに献身的に仕えた。イエスの処刑,埋葬に立ち会い(《マタイによる福音書》27:56,《マルコによる福音書》15:47),墓を訪ねて復活したイエスに接した(《マルコによる福音書》16:1~8)。またイエスは復活後最初に彼女の前に現れた(《ヨハネによる福音書》20:11~18)。…
…【西村 俊昭】
[図像]
後者のヨナの物語は,初期キリスト教美術に最も多く見られる題材のひとつである。この物語が死と復活を暗示するところから,石棺浮彫などの葬祭芸術にしばしばとりあげられた。3世紀末の石棺(ラテラノ美術館,ローマ)には,旧・新約の諸場面とともに,舟から海に投げ込まれて大蛇のような魚に呑まれるヨナ,陸に吐き出されるヨナ,トウゴマの下に裸体で横たわるヨナの場面が見られる。…
…エルサレム郊外のベタニアに住む。《ヨハネによる福音書》第11章によれば,病のため死去したが,その4日後,布教先から帰ったキリストが,墓の前で祈り呼びかけると,奇跡的に蘇生した(ラザロの復活)。キリストの死後も福音伝道に尽くし,伝説上の殉教地は,西方ではマルセイユ,東方ではキプロス島とされる。…
…聖書の正典中には明確に語られていないが,新約外典の《ニコデモによる福音書》に詳述されているイエス・キリスト伝中の説話。キリストは〈埋葬〉と〈復活〉の間に〈リンボ〉に降り,彼が福音をもたらす以前に生きた正しき人々を救い出して,天国に連れのぼる。なお,リンボとは〈縁〉を意味するラテン語のlimbusに由来し,地獄と天国との中間にある霊魂の住む場所をいう。…
…島村抱月との恋愛で協会を除名され,大学教授の座を追われた抱月と芸術座という劇団を1913年(大正2)に結成,女座長として以後毎公演の主役を演じ続けた。劇中歌を歌うのがその演出の特色で,特に《復活》のカチューシャ(〈カチューシャ可愛や〉の歌),サロメが評判であった。中村吉蔵の創作劇や自宅に隣接した芸術俱楽部での小公演は,芸術的な活動であった。…
※「復活」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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