復(覆)刻(読み)ふっこく

改訂新版 世界大百科事典 「復(覆)刻」の意味・わかりやすい解説

復(覆)刻 (ふっこく)

すでに印刷用原版が失われている出版物を再刊するとき,印刷方式をはじめ文字,組体裁,装丁紙質などすべてにわたって原本の姿を忠実に再現して作製することをいう。木版印刷の場合は,原本の刷本を版下として用いて復刻用の板木を彫り,再刊する方法がとられたが,これを〈かぶせぼり〉とも称する。近年は木版活版による原本でも,オフセット印刷によって精巧な復刻が行われるが,厳密な意味では復刻とはいいがたい。いずれにしても復刻は,原本のもつ資料的価値,希覯(きこう)性にもとづいて行われる。

 なお,復刻にあたって原本を製作した版元の復刻本製作に対する権限が存在するかどうかが争われる事件が起こり,関係者の注目を浴びた。これは1979年に日本リーダーズダイジェスト社が製作した漱石初版本復刻セットに対して,原本の製作・販売元である近代文学館,ほるぷ,春陽堂書店,岩波書店それぞれが東京地方裁判所に販売禁止の仮処分命令を申請した事件で,最終的には裁判所の勧告により和解が成立した。和解条項の中でとくに重要なのは,復刻本製作にあたって初版(原本)版元がこれを許諾もしくは拒否する権利を有することを日本リーダーズダイジェスト社が認めたことである。この事件は,結局,裁判所の判断は示されることなく終わり,したがって判例として確立されなかったが,ここに示された和解条項は初版(原本)版元の権限に関する慣行の確立に重要な寄与をなしたといえる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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