精選版 日本国語大辞典 「御」の意味・読み・例文・類語
お【御】
〘接頭〙
① 体言(まれに用言)の上に付いて、尊敬の意を表わす。現在では、相手に対する敬意とともに、それが相手のもの、相手に関するものであることを示す。「お手紙を拝見する」など。「お前」「お坐(まし)」「お許(もと)」→おん・み。
※正法眼蔵(1231‐53)示庫院文「いはゆる粥をば、御粥とまをすべし」
③ 女性の名まえ(男性の場合は童名)の上に付けて、尊敬、親愛の気持などを表わす。中世以後の用法。「おきく」「お千代」など。
※太平記(14C後)二二「菊亭殿に、御(ヲ)妻(さい)とて、〈略〉なまめきたる女房ありけり」
④ (動詞の連用形を伴い、その下に「遊ばす」「ある」「なさる」「なる」「になる」「やす」「やる」などを添えた形で) その動作の主を敬っていう尊敬表現となる。→お(御)…遊ばす・お(御)…ある・お(御)…なさる・お(御)…になる・お(御)…やす・お(御)…やる。
⑤ (「お…なさい」の省略形) 動詞の連用形の上に付いて、目下の者に対する軽い命令を表わす。
※洒落本・郭中奇譚(1769)船窓笑語「その盃づっとこれこふおまはし」
(イ) (相手や第三者の属性、状態を表わす語に付けて) その人に対する敬意、同情などを表わす。現代では主に女性が用いる。
※とはずがたり(14C前)一「御いたはしければ、御つかひな給そと申たれば」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「ゆふべはおねむかったらうね」
(ロ) (自分の心情を表わす語に付けて) 謙譲、卑下の意を表わす。
※古活字本毛詩抄(17C前)一「男は祝着に候など云へば、女はをうれしう候など云と同事ぞ」
(ハ) ある状態を丁寧に表わす。「今日はお寒いですね」
(ニ) (形容動詞の語幹や動詞の連用形を伴い、その下に「さま」を添えた形で) 相手に対する同情や慰めの気持を表わす尊敬表現となる。「お気の毒さま」「お疲れさま」など。
(ホ) (名詞、形容詞、また形容動詞などの上に付けて) からかい、皮肉、または自嘲の気持を表わす。「お熱い仲」「お粗末でした」「お寒い限りだ」
ご【御】
[1] 〘名〙
※土左(935頃)承平五年二月七日「淡路のごの歌におとれり」
※宇津保(970‐999頃)祭の使「とのもりのごを家にむかへて」
② 「ごたち」の形で、婦人や上級女房の敬称。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「うちに、ごたち、うなゐども、襲(かさね)の裳、唐衣、汗衫(かざみ)ども着て」
[2] 〘接頭〙 主として漢語の名詞の上に付いて、尊敬の意を表わす。まれに和語に付くこともある。
① 他人の行為、持物などを表わす語に付いて、それをする人、それを持つ人に対して尊敬の意を加える。「御免」「御殿」「御本」「御家族」「御成功」「御沙汰」など。
※竹取(9C末‐10C初)「ふとみゆきして御覧ぜんに」
※信心録(ヒイデスの導師)(1592)二「Christam ノ go(ゴ) ヲキテ」
② 他人に対する行為を表わす漢語名詞の上に付けて、その行為の及ぶ相手を敬う。「御説明しましょう」「御案内いたします」など。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「ハバカリ ナガラ goiquen(ゴイケン) マウシタイ コトガ アル」
③ ものの名に付けて丁寧にいう。「御酒」「御膳」「御飯」「御幣」など。
[3] 〘接尾〙 (「御前」の略されたかたち) 人物を表わす名詞に付いて、軽い敬意を添える。
※太平記(14C後)一一「母御(ゴ)いづくへ行き給ふぞ」
おん【御】
〘接頭〙 (「おおん」の略。「おむ」とも書く)
① 体言(まれに用言)の上に付き尊敬の意を表わす。「おん身」「おん方々」
※源氏(1001‐14頃)横笛「おほやけの御近きまもりを、わたくしの随身に領ぜむと争ひ給ふよ」
※発心集(1216頃か)三「日比も御恋しく思ひ奉りつれど」
② (下に来るべき体言を省略して) 「おん」だけで名詞的に用いる。平安時代の用法。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「野山をわけても御をばつかうまつらん。これ御たからとなり給はんともしらず」
[語誌](1)中古における「おほ(お)ん」が院政期ごろ音韻変化したものと考えられ、中古の例は「おおん」と読むべきだともいわれている。多くは字訓語に付くが、「おん曹司」「おん博士」「おん礼」など字音語に冠する例も見られる。「ロドリゲス日本大文典」では、「おん」「お」「み」は字訓語、「ゴ」「ギョ」は字音語に冠するとしているが、キリシタン資料や国内資料でも通則に合わない例が相当数確認される。また、同じ訓の「み」とは、かなり厳密な使い分けがされている。
(2)「おん」は次第に「お」に変化していくが、狂言や浄瑠璃などには「おん」の形がのこる。現代語においては「おビール」「おリボン」など外来語に冠する例は「お」の形のみであまり多くはみられないが、キリシタン資料では、「おんクルス(十字架)」「おんアニマ(魂)」「おんオラショ(経)」など外来語に冠する例もある。→「おおん(御)」の語誌
(2)「おん」は次第に「お」に変化していくが、狂言や浄瑠璃などには「おん」の形がのこる。現代語においては「おビール」「おリボン」など外来語に冠する例は「お」の形のみであまり多くはみられないが、キリシタン資料では、「おんクルス(十字架)」「おんアニマ(魂)」「おんオラショ(経)」など外来語に冠する例もある。→「おおん(御)」の語誌
ぎょ‐・す【御】
〘自他サ変〙 ⇒ぎょする(御)
おお‐む おほ‥【御】
〘接頭〙 ⇒おおん(御)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報