小説家。本名明正(あきまさ)。朝鮮生まれ。終戦(第二次世界大戦)の冬、祖母と父を失い、翌年福岡県に引き揚げた。早稲田(わせだ)大学露文科在学中、全国学生小説コンクールに『赤と黒の記憶』(1955)が入選し『文芸』に掲載。卒業後、博報堂を経て平凡出版(現マガジンハウス)に勤め、『関係』(1962)、『人間の病気』(1967)などによって認められた。1968年(昭和43)同社を辞し、文筆活動に専念。日常生活のなかでの他者との関係や、自己の内面を描き、「内向の世代」ともよばれる。作品集『何?』(1970)、現在から過去の記憶へと脱線し続ける思考をユーモアの漂う饒舌(じょうぜつ)体で描いた長編『挟み撃ち』(1973)、エッセイ集『円と楕円(だえん)の世界』(1972)、紀行『ロシアの旅』(1973)、新手法による実験の集大成ともいえる長編『壁の中』(1986)などがある。また『夢かたり』(1976)で平林たい子文学賞、『吉野大夫』(1981)で谷崎潤一郎賞、1987年(昭和62)の食道癌(がん)による手術後、『首塚の上のアドバルーン』(1990)で芸術選奨文部大臣賞を受賞した。89年(平成1)より近畿大学教授を務め後進の育成にあたった。
[柳沢孝子]
『『新鋭作家叢書 後藤明生集』(1972・河出書房新社)』▽『『壁の中』(1986・中央公論社)』▽『『挟み撃ち』(講談社文芸文庫)』▽『『夢かたり』『吉野大夫』(中公文庫)』▽『『首塚の上のアドバルーン』(講談社文芸文庫)』▽『蓮実重彦著『文学批判序説――小説論=批評論』(1995・河出書房新社)』▽『古屋健三著『「内向の世代」論』(1998・慶応義塾大学出版会)』
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