後天性胆道閉塞(狭窄)

内科学 第10版 「後天性胆道閉塞(狭窄)」の解説

後天性胆道閉塞(狭窄)(良性胆道閉塞(狭窄))

定義・概念
 胆管閉塞は,胆管内腔が完全に閉じていることを示し,壁の病変による場合はocclusion,内腔内に存在する障害物による場合はobstructionが用いられるが,区別はできないこともある.胆管結石症ではobstructionに近い病態にもなるが,後天性の良性の病態では,胆管の完全閉塞例はほとんどなく,多くは不完全閉塞(incomplete occlusion)例である.それらは臨床的に胆管狭窄(stenosis,stricture)と呼称され,病因,病態により治療方針も異なるため鑑別診断が重要である.
分類
 肝細胞から排出された胆汁十二指腸に流出するまでの全排泄経路を胆道とよび,肝外では,肝外胆管,胆囊,乳頭部に区分される.胆管狭窄は,その部位により肝内胆管狭窄,肝外胆管狭窄に分類される.頻度の高い後者はさらに肝門部,上部,中部,下部胆管狭窄に分類され,一般に乳頭部胆管狭窄も加えて肝外胆管狭窄として扱われる.肝門部胆管は,左右肝管とその合流部下縁まで,上部および中部胆管は肝門部胆管の下縁から膵上縁までの部分を2等分して区分し,下部胆管は膵上縁から十二指腸壁までの部分と定義される.乳頭部では,胆管はOddi筋に囲まれ,十二指腸壁を貫いた(乳頭部胆管)後,膵管と合流して共通管を形成している.
原因・病因・病態生理
 以下のようにさまざまな原因や病因により胆管狭窄をきたすことが知られている.
1)胆管の炎症性病変による胆管狭窄:
 a)原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC,【⇨9-7】):肝内,肝外胆管に多発性の線維性狭窄を生じる進行性の原因不明の慢性炎症性疾患で,病態が進行すると,胆管像は特徴的な数珠状変化や偽憩室様所見を呈する.胆汁うっ滞の結果,肝硬変から肝不全へ至るため予後不良であるが,近年では肝移植による根治も期待できる.わが国の肝移植なしでの5年生存率は75%と報告されている.また,後述する結石外傷術後など原因が明らかなものは,二次性硬化性胆管炎として除外される. b)胆管結石症に伴う胆管炎:胆管結石は,肝内胆管に存在する肝内結石と肝外胆管に存在する総胆管結石を区別することが多い.総胆管結石例では胆管狭窄を伴うことは少なく,ほとんどが経乳頭的な内視鏡的結石除去術により治療される.一方,肝内結石は,下流側に非特異的炎症と線維性変化による胆管狭窄を伴い,経乳頭的治療困難例が多く,肝切除術が選択されることもある.また,肝内結石はしばしばPSCにも併発する.画像診断にて偶然発見される結石を有さない非特異的炎症性による肝内胆管狭窄例もまれにあるが,胆管癌と鑑別がつけば治療は要さない. c)Mirizzi症候群:胆囊頸部に嵌頓した結石が直接胆管の圧排狭窄をきたして,あるいは胆囊炎の炎症が波及して胆管狭窄をきたして,閉塞性黄疸や胆管炎を呈する病態である(図9-23-3).迅速な対応が必要で,胆管ドレナージ術の後,外科的に胆囊摘出術が実施されることが多い. d)IgG4関連胆管炎 (慢性膵炎【⇨8-9-3)】,IgG4関連疾患【⇨10-20】):血中IgG4値の上昇,病変局所の線維化とIgG4陽性形質細胞の浸潤などを特徴とする硬化性胆管炎で,狭窄を認めない部位にもしばしば同様の変化を認める.胆管像はPSCに類似し,胆管癌や膵癌とも鑑別を要する.自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)を高率に合併し,硬化性唾液腺炎,後腹膜線維症などを合併する例もある.閉塞性黄疸を発症することが多く,ステロイド治療が奏効する.
2)手術,外傷などに伴う胆管狭窄:
胆囊摘出術,胆管切開術,肝切除術,胆管消化管吻合術など肝胆道系の術後には,縫合不全,炎症性変化,虚血性変化に伴い胆管吻合部を含めた胆管狭窄をきたしうる.近年では,胆管胆管吻合術を実施する肝移植術が増加し,同術後には,吻合部胆管狭窄をしばしば発症する(図9-23-4).その他の医原性として,放射線照射後や,肝細胞癌に対するラジオ波あるいは肝動脈塞栓療法後の胆管狭窄があげられる.また,外傷後にも胆管狭窄をきたすことがある.
3)胆管周囲の疾患に伴う胆管狭窄:
 a)膵疾患:AIP,慢性膵炎,囊胞性疾患(仮性囊胞,囊胞性腫瘍)などの膵疾患に伴い下部胆管狭窄が起こる(図9-23-5).慢性膵炎例では,線維化の強い例や膵石合併例に多く,特に膵頭部に炎症性腫瘤を形成する例では腫瘤形成性膵炎とよばれ,膵癌やAIPとの鑑別が重要である. b)その他の疾患:リンパ節腫脹,肝囊胞,胆管周囲囊胞,後腹膜線維症などに伴うこともある.リンパ節腫脹は,悪性腫瘍の転移による肝十二指腸間膜内リンパ節腫脹が多く,良性リンパ節腫脹による胆管狭窄例はまれである.胆管周囲囊胞は,胆管周囲の付属腺が数mm大に囊胞状に拡張したもので,肝門部から上流側に数珠状に分布して肝内胆管拡張と認識されることもある.診断が得られれば治療は必要ない.
4)その他の胆管狭窄:
 a)胆管良性腫瘍:前癌病変を除く胆管良性腫瘍はきわめてまれである.胆管神経腫は,厳密には真の腫瘍とは異なるが,胆囊摘出術などの術後に発生する神経線維の損傷に続発する神経細胞および結合織の過剰再生で胆管狭窄の原因となる(Husseinoff,1928).
 b)乳頭部胆管狭窄:
 ⅰ)乳頭炎:乳頭部胆管または共通管の良性狭窄を呈する乳頭炎は,原発性と結石やほかの胆道病変に随伴する続発性に分けられる.組織学的には腺性,筋性,線維性増生を認めるが,発生機序は明らかでない.臨床的には,腫瘍,嵌頓結石,奇形などの異常を除外して診断し,内圧測定が用いられることもある.有症状例には内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)が実施されるが適応となる例は少ない. ⅱ)その他の疾患:EST後や乳頭部腫瘍に対する内視鏡的乳頭切除術後に瘢痕狭窄をきたすことがあり,胆管口を内視鏡的に追加切開する.まれに乳頭部腺腫による狭窄例もあるが,癌と鑑別困難であれば外科的治療が行われる.
臨床症状
 臨床症状は,胆管狭窄に伴う胆汁うっ滞に起因するため,悪性狭窄と異なり良性狭窄では黄疸に至る例は少なく,軽度の腹痛のみや無症状例も少なくないが,感染を伴うと化膿性胆管炎を併発して急を要する病態となる.総胆管結石症やMirizzi症候群では,閉塞性黄疸や化膿性胆管炎を併発しやすく,腹痛,発熱,黄疸などの症状による急性発症例が多い.IgG4関連胆管炎やAIPも同様に比較的急性の発症例が多い.
検査成績
 胆汁うっ滞の程度に応じて,ALP,γ-GTPなど胆道系酵素優位の肝障害を呈する.狭窄が高度の例では,直接型優位の高ビリルビン血症を認める.感染を伴った胆管炎を併発すると白血球やCRPが上昇する.また,疾患特異性に,IgG4関連胆管炎やAIPでは血中IgG4の上昇が特徴的である.
診断
 胆管狭窄の診断は,体外式超音波検査やCT検査による拡張した上流側胆管の指摘が先行することが多い.狭窄部を含む胆管像は,MRIやCTによる再構築画像,あるいは内視鏡的逆行性胆膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)や経皮経肝胆道造影による直接造影像として得られる.精度の高い直接造影は,ERCPが一般的で,引き続き胆管内超音波検査や胆管生検などの精密診断法に併せ,後述するドレナージ術などの治療も実施可能である.また,肝外胆管病変や胆管周囲の病変に対しては,超音波内視鏡検査も有用である.
治療
 狭窄に伴う胆汁うっ滞の改善を目的に,ドレナージ術を行うが,無症状例は悪性疾患が除外されれば治療は不要である.ドレナージは経皮経肝的にも可能であるが,現在では内視鏡を用いた経乳頭的が主流である.内視鏡的胆管ドレナージ術には,胆管ステント留置術(Cottonら,1979)と胆管内へチューブを経鼻的に留置する内視鏡的経鼻胆管ドレナージ術(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)とがある.ステントには,プラスチックステントとメタリックステントとがあり,良性狭窄には前者が用いられ,生理的な内瘻術で低侵襲なため,閉塞や逆行性感染をきたさない限り数カ月間の留置も可能である.一方,ENBDは感染胆汁を体外へ排出する外瘻術である点にすぐれるが,侵襲の問題から長期留置は困難である.
 術後など瘢痕性狭窄に対しては,バルーン拡張術も実施されるが,改善が得られなければ外科的治療が必要となる.また,種々の薬物治療も行われるが,IgG4関連胆管炎やAIPなどの副腎皮質ステロイド治療著効例を除くと有効例は少ない.
経過・予後
 PSCなどの進行性の疾患を除くと,基本的に良性疾患であるため,狭窄が解除され胆汁うっ滞が改善すれば生命予後は良好のことが多い.[伊藤彰浩]
■文献
Cotton PB, Burney PGJ, et al: Transnasal bile duct catheterization after endoscopic sphincterotomy. Gut, 20: 285-287, 1979.
Husseinoff D: Ueber einen Fall von Wucherung des Nervengewebes nach Wiederholten Operationen der Gallengange. Zentralbl Pathol, 43: 344-348, 1928.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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