律詩(読み)りっし(英語表記)lǜ shī

精選版 日本国語大辞典 「律詩」の意味・読み・例文・類語

りっ‐し【律詩】

〘名〙 漢詩の一体。八句からなり、第三句と第四句、第五句と第六句が原則として対句となるもの。七言五言とがある。律。
※中右記‐寛治八年(1094)九月一二日「文集古調詩は格詩也、新詩は律詩也者」 〔新唐書‐文芸伝・杜甫賛〕

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デジタル大辞泉 「律詩」の意味・読み・例文・類語

りっ‐し【律詩】

漢詩の一体。一定の韻律に従う8句からなる。第1・2句を起聯きれん(首聯)、第3・4句を頷聯がんれん(前聯)、第5・6句を頸聯けいれん(後聯)、第7・8句を尾聯(落句)といい、頷聯と頸聯とは対句法で構成される。偶数句に脚韻を踏む五言律と、第1句および偶数句に脚韻を踏む七言律とがある。律。
[類語]漢詩絶句

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改訂新版 世界大百科事典 「律詩」の意味・わかりやすい解説

律詩 (りっし)
lǜ shī

絶句とならぶ中国の今(近)体詩の一分野。略して律とのみいうこともある。第1聯と最終聯とをのぞいて,各聯がすべて対句で,4聯・8句以上から構成される。五言,七言,まれに六言がある。平仄ひようそく)の配列,押韻は原則として平韻で換韻しないことなどは今体詩の規則どおりで,五言ではふつう首句に押韻せず,七言では押韻することも五七言詩の通例にしたがう。第1聯と最終聯とは,対句である必要はないが,両方,あるいはどちらか一方を対句にすることは,さしつかえない。最小限の4聯のものが狭義の律詩で,ふつう律詩といえば,これをさす。5聯以上のものを排律あるいは長律という。排律はほとんど五言にかぎられる。

 律詩の4聯は,はじめから順次に,首聯,頷(がん)聯,頸(けい)聯,尾聯と呼ばれる。頷はあご,頸はくびの意である。4聯のあいだには起承転結の関係が成り立つものとされる。五言律詩はわりあいに作りやすく,七言律詩はややむつかしい。しかし《三体詩》が五七言律詩と七言絶句とを収めるように,この3種が,もっともポピュラーな詩型である。排律は長さに制限がなく,ときとして200句にも達することがある。換韻を許されないから,こういう長大な排律を作るには,詩人として非常な力量を要する。ふつうには12句あるいは16句である。

 律詩は絶句とともに初唐後期,則天武后時代(7世紀末~8世紀初)に完成した。この時は宮廷詩の全盛期で,宮廷で唱和するにふさわしい,均整の取れた,典雅華麗な詩型として律詩が発達したもので,王勃おうぼつ)や陽炯(ようけい)は五言律詩の完成に,宋之問(そうしもん)や沈佺期(しんせんき)は七言律詩の完成に力があった。応制詩と称して,宮廷の公式の席で,皇帝の命によって制作する詩は律詩または排律が原則であり,詩帖(しちよう)詩と称する,科挙の試験の課題として制作される詩は排律にかぎられた。

 盛唐期に入って,律詩は抒情,叙景の多方面に用いられるようになったが,ことに七言律詩は,杜甫によってその豊富な可能性をくみ出され,真の完成者は杜甫であるとまで言われている。

 風急天高猿嘯哀 風急に天高く猿嘯(えんしよう)         哀しく

 渚清沙白鳥飛廻 渚(なぎさ)清く沙(すな)白く鳥は         飛びて廻(めぐ)る

 無辺落木蕭蕭下 無辺の落木は蕭蕭(しようしよう)         として下り

 不尽長江来 不尽の長江は(こんこん)         として来たる

 万里悲秋常作客 万里悲秋常に客と作(な)         り

 百年多病独登台 百年多病独り台に登         る

 艱難苦恨霜鬢 艱難(かんなん)苦恨(くこん)霜鬢(そうびん)         繁く

 潦倒新停濁酒杯 潦倒(りようとう)新に停(とど)む濁         酒の杯 (杜甫《登高》)
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「律詩」の意味・わかりやすい解説

律詩
りっし

中国古典詩の詩体の一つ。唐代に定まったもので、近体詩に属する。8句からなり、1句が5字の「五言(ごごん)律詩」、7字の「七言(しちごん)律詩」の2種がある。律詩の起源は、六朝(りくちょう)の斉(せい)・梁(りょう)のころ、沈約(しんやく)らの「四声八病説(しせいはちびょうせつ)」を代表とする、詩の音声美への自覚の動きからおこった。句中の声調の均斉美とともに、形のうえでも、従来の20句から12句の中編の形式が、しだいに10句から8句と短くなって固定し、中間の4句に対句を用いる規則も定まった。だいたい初唐の四傑(王勃(おうぼつ)、楊烔(ようけい)、盧照鄰(ろしょうりん)、駱賓王(らくひんのう))の時代、7世紀後半に五言律詩がまず成立し、これにすこし遅れて、沈佺期(しんせんき)、宋之問(そうしもん)の時代、8世紀初頭に七言律詩が成立した。当初は、修辞性に重きが置かれ、応酬や題詠などにおもに用いられたが、真に芸術的に高度の内容をもつようになったのは杜甫(とほ)の出現による。その形式は次のようである。


 二句一聯で四聯からなり、中間の二聯はかならず対句を用いるのが特色である(他の二聯にも対句を用いてよい。四聯とも対句の構成をとるものを全対格という)。絶句の場合のひらめきや機知に対し、律詩の場合には、対句を中心とする均斉美や修辞の洗練さが見どころになる。律詩の変形として、中間の対句の部分が三聯、四聯と長くなったものを「排律」または「長律」とよぶ。長いものは100句以上にも及ぶが、これも杜甫が完成者である。その醸し出す重厚みは、公式の場の応酬などに適し、科挙の詩の科目には、12句の排律が用いられるのが習わしであった。なお、排律は五言が主で、七言のものは少ない。

[石川忠久]

『高木正一著『近体詩』(『中国文化叢書4 文学概論』所収・1967・大修館書店)』

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百科事典マイペディア 「律詩」の意味・わかりやすい解説

律詩【りっし】

中国の詩形の一種。8句からなり,おもに1句が五言で偶数句に脚韻する五言律詩と,七言で第1句と偶数句に脚韻する七言律詩があるが,両者とも3句と4句,5句と6句とが対句を形成する。ほかに10句,12句の排律もあり,絶句とともに唐代に確立された今(近)体詩で,厳密な平仄(ひょうそく)の規定がある。
→関連項目起承転結古詩沈【せん】期

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「律詩」の意味・わかりやすい解説

律詩
りっし
lüshi

中国,古典詩の詩体の一つ。絶句とともに,沈佺期宋之問らによってその韻律などの規則がほぼ確立された近体詩の一つで,1首が 8句からなるもの。1句が 5字からなるものを五言律詩,7字からなるものを七言律詩といい,それぞれ五律,七律と略称する。初めから 2句ずつをまとめ,首聯,頷聯,頸聯,尾聯と呼び,頷聯,頸聯は必ず対句で構成する。各句の 2字目と,4字目は異なり(二四不同),七言の場合,6字目は 2字目と同じになる(二六対)。そのほか,不三平,孤平,すべて近体詩の規則と同じである。なお 10句以上に上るものは排律と呼ばれる。

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