精選版 日本国語大辞典 「彼方」の意味・読み・例文・類語
あっ‐ち【彼方】
〘代名〙 (「あち(彼方)」の変化した語)
※杜詩続翠抄(1439頃)二「大雨水両涯漫々としてあっちのきしの馬牛不可弁也」
※虎明本狂言・末広がり(室町末‐近世初)「まだそこにおるか。あっちへうせおれ」
② 名詞的用法。
(イ) 冥土(めいど)。あの世。
※歌舞伎・籠釣瓶花街酔醒(1888)四「十に八九は冥土(アッチ)の者」
(ロ) 遊里。
※人情本・英対暖語(1838)初「あれが里(アッチ)の癖だアナ」
(ハ) 外国。
※浮世草子・好色一代男(1682)八「いにしへ安部仲麿は、古里の月を、おもひふかくは読れしに、我はまた、あっちの月、思ひやりつると」
あち‐ら【彼方】
〘代名〙
[一]
① 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向、場所を指し示す(遠称)。また、二つのもののうち、話し手、聞き手から遠いほうを指す。
※玉塵抄(1563)二四「死して為レ隣とよむか。又死を為レ隣の心か。となりはあちらなり。死せうすことがちかいと云心か」
② 他称。話し手、聞き手両者から離れた人を指し示す(遠称)。
※洒落本・遊子方言(1770)霄の程「兄(あに)さん、其三味線箱、あちらへ上げてくんなんし」
[二] 名詞的用法。外国、特に欧米を指す。
※開化のはなし(1879)〈辻弘想〉初「万民を救護さるる、神聖なる人だと西土(アチラ)の書籍(ほん)に記してあるといはれました」
か‐な‐た【彼方】
〘代名〙
① 他称。話し手、相手両者から離れた方向を指し示す(遠称)。また、現在を起点として過去・未来の時間を示す。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)七「今より以往(カナタ)は永に復作らずして当来に所有(あらえ)む罪障を防護せむ」
※徒然草(1331頃)一一「かなたの庭に大きなる柑子の木の、枝もたわわになりたるが」
② 他称。物に隔てられて見えない側を指し示す(遠称)。むこう側。
※今昔(1120頃か)一九「箭を放つ、鹿の右の腹より彼方(かなた)に鷹胯を射通しつ」
あ‐ち【彼方】
〘代名〙 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向を指し示す(遠称)。また、二つのもののうち、話し手、聞き手両者から遠い方。あちら。あっち。⇔こち。
※神楽歌(9C後)早歌「〈本〉安知(アチ)の山背山、〈末〉背山や背山」
※宇治拾遺(1221頃)一一「集(つど)ひたるものども、こち押し、あち押し、ひしめきあひたり」
あの‐かた【彼方】
〘代名〙 他称。話し手、聞き手両者から離れた人を指し示す(遠称)。上位者に用いる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「全体あの方は洋行なすった事があるのですかな」
あっち‐ら【彼方】
〘代名〙 (「あちら(彼方)」の変化した語) 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向などを指し示す(遠称)。
※歌謡・松の葉(1703)三・馬方「歩めや歩め、歩まにゃならぬ、あっちらな、こっちらな」
あっ‐ちゃ【彼方】
〘代名〙 (「あちら(彼方)」の変化した語) 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向などを指し示す、近世上方の語(遠称)。
※雑俳・銭ごま(1706)「浜中はすっきりあっちゃ贔屓(びいき)なり」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報