彼岸(仏教、民俗)(読み)ひがん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「彼岸(仏教、民俗)」の意味・わかりやすい解説

彼岸(仏教、民俗)
ひがん

一般に梵語(ぼんご)のパーラムpāramの訳。「川の向こう岸」の意味。こちら側の此岸(しがん)は世俗の世界であるのに対し、彼岸は宗教的理想の境地、悟りの世界を表す。釈迦(しゃか)は、現実に増水した大河を前に右往左往する人々に対して、彼岸を比喩(ひゆ)的に語る詩句を残しているところから、後世、日常の世俗を超越した境地を表現する代表語となった。大乗仏教で「完成」を意味するパーラミターpāramitā(波羅蜜(はらみつ))を「到彼岸(とうひがん)」または「度彼岸」と通俗語源解釈するのが常識となったのは、この強調である。中国では善導(ぜんどう)の二河白道(にがびゃくどう)のたとえが有名となり、浄土教の伝播(でんぱ)とともに日本での解釈の中心となり、春秋2回の彼岸会(え)の略称として用いられてもいる。

[石上善應]

民俗

第二次世界大戦前は中日を春季皇霊祭(秋季皇霊祭)とよんで皇室が先祖を祭る日であった。いまは春分の日(秋分の日)と称して国民の祝日になっている。「暑さ寒さも彼岸まで」といわれるように、快適な気温であり、寺院では彼岸会を修して読経(どきょう)や法話を行い、参詣(さんけい)する人も多い。彼岸の入り(初日)を入り彼岸・初手彼岸(そてひがん)、最終日を送り彼岸・彼岸払いなどといい、墓参りをして団子を供えたりする。兵庫県の一部では、午前は日迎えといって東に向かい、午後は日送りといって西に向いて歩く行事があり、秋田県や新潟県には、墓や丘の高み藁火(わらび)を焚(た)いて先祖迎えをする所がある。そのほか盆の生見玉(いきみたま)と同じく、子が両親をもてなす風習の所もあり、盆行事との共通点が多い。

[井之口章次]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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