役夫工米(読み)やくぶたくまい

精選版 日本国語大辞典 「役夫工米」の意味・読み・例文・類語

やくぶたく‐まい【役夫工米】

〘名〙 (「やくぶだくまい」とも) 中古以来、伊勢神宮内外両宮の式年造営費用として徴収された造営料。鎌倉時代までは朝廷賦課し、造営使が官符宣旨を奉じて諸荘園配符を送り徴収にあたったが、室町時代には催徴権は幕府に移った。役夫作料米。役夫工作分。役夫工功粮。役夫工料。やくぶくまい。やくむたくまい。やくぶたくむまい。〔吾妻鏡‐文治四年(1188)一二月二四日〕

やくぶく‐まい【役夫工米】

※新札往来(1367)下「役夫公米事。諸国平均」

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デジタル大辞泉 「役夫工米」の意味・読み・例文・類語

やくぶ‐くまい【役夫工米】

平安時代以降、伊勢神宮内宮外宮の造営の際、その費用として全国に課された臨時税米。やくぶたくまい。

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改訂新版 世界大百科事典 「役夫工米」の意味・わかりやすい解説

役夫工米 (やくぶくまい)

平安後期から室町期にかけ,伊勢神宮の20年1度の式年遷宮の造営費として,諸国の公領・荘園から臨時に徴収した米。〈やくぶたくまい〉ともいう。もともと,伊勢遷宮の造営費は朝廷の官庫物および神宮の神郡,神田,神戸からの神税をあて,労働力は伊勢,美濃尾張三河遠江5ヵ国から徴発した役夫によっていたが,11世紀中ごろからの中世的収取体系の成立以降,その費用,労働力を全国的規模で賦課,徴収する役夫工米制に変わった。役夫・工徴収を代米の形態で全国に拡大し,造営費としたと考えられ,そのおこりは1076年(承保3),78年(承暦2)の内・外宮の式年遷宮時と推定されている。勅事の臨時課役として諸国の公領・荘園に賦課されたが,大宰府管内には賦課されなかったらしい。その催徴は造宮使(神宮側の造営総括責任者)配下の催使(役夫工使などとも呼ばれ,神宮の下級神官)が諸国に散開し,各国衙官人とともに国衙作成の配符(国衙所在の土地台帳を基礎に各公領・荘園ごとの田積別賦課高が記載されたもの)によってこれに当たった。役夫工使らによる課徴は厳しく,とくに院政期には〈役夫工使滅亡諸国〉などといわれた。そのため,その免否をめぐり荘園側と国衙・役夫工使との激しい争いがみられた。鎌倉期には一部の地域で銭納もみられるようになり,南北朝期以降は銭納が一般的となる。また鎌倉末期になると,国衙機構の実質を掌握するようになった守護がその徴収に関与するようになる。さらに南北朝後期以降,それまで朝廷にあった役夫工米の課徴権および免除権が室町幕府に移るとともに,守護(使)と催使が鎌倉期以来の大田文記載田積をもとに課徴するようになる。しかし幕府権力の弱体化にともない,その課徴も困難となり,1462年(寛正3)内宮の正遷宮時を最後に,以後本格的に徴収されることはなかった。
一国平均役
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百科事典マイペディア 「役夫工米」の意味・わかりやすい解説

役夫工米【やくぶくまい】

伊勢神宮の20年に1度の式年(しきねん)遷宮の造宮費用として諸国の荘園公領に課せられた臨時課税。〈やくぶたくまい〉とも。律令制下では労働力は伊勢・美濃・尾張・三河・遠江の5国の役夫,造営費用や役夫の食料は神税や正税(しょうぜい)をあてた。1076年・1078年の内・外宮の式年遷宮頃から役夫工米制が採用された。国々に一定量が割り当てられ,国衙(こくが)が作成した賦課田数などを記した配符(はいふ)を基に,国衙官人や造宮使配下の催使(役夫工使)が徴収した。厳しい課徴に荘園側の抵抗も強まった。鎌倉末期には守護が徴税に関与するようになり,銭納化も進む。室町時代には賦課および免除権が幕府に移ったが,本格的な徴収は1462年の遷宮が最後。→段銭
→関連項目国役

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「役夫工米」の意味・わかりやすい解説

役夫工米
やくぶくまい

「やくぶたくまい」ともいう。平安~鎌倉時代に,伊勢内宮,外宮の式年造営の費用を調達するため,公領,荘園など全国に課せられた公事夫役の代りに米を徴収したので,この称がある。室町時代には銭で徴収している。

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