精選版 日本国語大辞典 「形而上学」の意味・読み・例文・類語
けいじじょう‐がく ケイジジャウ‥【形而上学】
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翻訳|metaphysics
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哲学の諸分野,諸原理の最高の統一に関する理論的自覚体系。語源的には,アリストテレスの講義草稿をローマで編集したアンドロニコスが,《自然に関する諸講義案(タ・フュシカ)》すなわち自然学の後に(メタ),全体の標題のない草案を置き,《自然学の後に置かれた諸講義案(タ・メタ・タ・フュシカ)》と呼び,これがメタフュシカmetaphysicaと称されたことに基づく。内容的には,第二哲学としての自然学に原理上先立つ存在者の一般的規定を扱う第一哲学,自然的存在者の運動の起動者としての神を扱う神学を含む。ここから,自然的存在者の諸分野,諸原理を超えた(トランス)最高の原理,実在を扱う超自然学と解され,のち一般に経験的現象を超越した実在,原理あるいは仮説,想定に関する理論的考察という意味に使用される。邦訳語の形而上学は《哲学字彙》(1881)以来で,有形の器すなわち自然の形象を超えた無形の道すなわち原理の学の意味であり,形而上の出典は《易経》である。
西洋で哲学の分野に一般形而上学と特殊形而上学との区分を導入したのは,スアレスの影響下の17世紀のデュアメルJean-Baptiste Duhamel以来とされ,この区分はC.ウォルフに引き継がれる。一般形而上学は第一哲学の系統をひき,存在者一般に共通な普遍的規定を扱い,ウォルフはこれを存在論と呼ぶ。特殊形而上学は神学,宇宙論,霊魂論に分かれ,神,世界,人間を対象とする。カントはウォルフを含めて在来の形而上学は存在者の認識の可能性を無視した独断的形而上学とし,認識の起源,範囲,権能を人間理性の自己吟味に求め,理性能力の批判的画定を予備学として,自然と道徳の両面にわたり形而上学を学として建設しようとした。客観を観想する形而上学はここに主観に基づく形而上学へと転換するが,ドイツ観念論の形而上学的諸体系はカントの拒否する知的直観を絶対者に適用し,ヘーゲルの絶対的観念論へと転化する。このヘーゲルの体系を消極哲学すなわち合理主義的本質主義と断じ,意志に対してのみ出現する個別的現実存在を原理とするシェリング晩年の積極哲学は,ショーペンハウアーとニーチェとの意志の形而上学の先駆となるとともに,19世紀後半以降の現実存在ないし実存の哲学への端緒でもある。19世紀後半は実証主義の隆盛による形而上学の衰退と特徴づけられるが,二つの世界大戦は認識論的な反形而上学の立場から,有限な人間の人間本性の展開に基づく人間の形而上学を復活させた。ベルグソン,シェーラー,ハイデッガー,ヤスパースなどの試みがそれである。他方,後期ハイデッガーは西洋の歴史を形而上学の歴史とし,その極を技術すなわち原子力時代の形而上学と見,形而上学の克服は在来の形而上学の始原とは別の始原の到来によるほかはないとする。日本では明治以来,現象即実在論が説かれ,また西田幾多郎,田辺元,和辻哲郎,高橋里美のように,何らかの形で無を原理とし弁証法に訴える型の形而上学が企てられてきたが,われわれの風土の精神的自覚体系への試みはまだ途上である。
執筆者:茅野 良男
アリストテレスの主著の一つ。原題の〈メタフュシカ〉は本来〈自然学(フュシカ)の後に(メタ)あるもの〉という意味で,彼の死後2世紀余を経てその講義用論文が集められて〈著作集〉に編まれた際の配列に由来すると伝えられる。この名称は,この書の内容のゆえに〈自然学を超えてあるもの〉と解されるようになり,一般にある学問をそれを超えた視点からとらえて基礎づけを行う学問を〈メタ~学〉と呼ぶ〈メタ〉の用法もここから生じた。この書は全14巻からなり,著作時期も意図も異にする幾つかの部分が先述の編集によって寄せ集められたもので,彼の哲学の中心を形づくる重要な概念が集約して現れている。哲学の求めるべき〈知〉はどのようなものであるかがこの書の中心問題である。彼は〈理論(観想)的学問〉を,〈実践学〉や〈製作学〉から区別したうえでさらにその研究対象の違いによって〈自然学〉〈数学〉〈第一哲学〉の三つに分ける。この〈第一哲学〉は〈永遠で不動な独立存在〉について研究するもので,いわゆる〈形而上学〉にあたり,彼自身〈神学〉とも呼ぶものである。彼の〈第一哲学〉は〈存在を存在という資格で普遍的に考察する〉ということと,自然界の動の第一原因である〈不動の動者〉としての神を考察することという二重の課題を負わされている。この書にはこのほか,彼以前の哲学説に関する記述や,哲学用語の検討など多彩な内容が含まれている。
執筆者:藤澤 令夫
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…彼の哲学を完結した体系として扱う後世の研究態度はここに由来する。〈著作集〉中の主要な作品を伝統的な配列に従って列挙すると,(1)〈オルガノン〉(〈道具〉の意)と総称される論理学的著作:《カテゴリアイ(範疇(はんちゆう)論)》《命題論》《分析論前書》《分析論後書》《トピカ(論拠集)》《ソフィストの論駁法》,(2)自然学:《自然学講義》《天体論》《生成消滅論》《気象学》《デ・アニマ(心魂論)》《自然学小論集》《動物誌》《動物部分論》《動物運動論》《動物進行論》《動物発生論》,(3)第一哲学:《形而上学》,(4)実践学・製作学:《ニコマコス倫理学》《エウデモス倫理学》《政治学》《弁論術》《詩学(創作論)》となる。これとは別に最初から公表を意図して書かれた作品もあったが,以後しだいに忘れられるようになり,今日では《魂について(エウデモス)》《哲学のすすめ(プロトレプティコス)》《哲学について》などの一部が,後世の人が断片的にまたは要約して引用した形で残されているにすぎない。…
…ここでは,西洋のこの哲学知の基本的概念装置を検討し,この知の本質的性格と,それを原理に形成された西洋文化の特質を洗い出してみたい。
【自然(フュシス)と形而上学(メタフュシカ)】
ギリシアの古典時代にソクラテスやプラトン,アリストテレスらの思想のなかで生まれ形をととのえたこの〈哲学〉と呼ばれる知は,当時のギリシア人の一般的なものの考え方に対していかなる関係にあったのか。それを昇華し純化するものであったのか,それともそれとはまったく異質のものであったのか。…
…彼の哲学を完結した体系として扱う後世の研究態度はここに由来する。〈著作集〉中の主要な作品を伝統的な配列に従って列挙すると,(1)〈オルガノン〉(〈道具〉の意)と総称される論理学的著作:《カテゴリアイ(範疇(はんちゆう)論)》《命題論》《分析論前書》《分析論後書》《トピカ(論拠集)》《ソフィストの論駁法》,(2)自然学:《自然学講義》《天体論》《生成消滅論》《気象学》《デ・アニマ(心魂論)》《自然学小論集》《動物誌》《動物部分論》《動物運動論》《動物進行論》《動物発生論》,(3)第一哲学:《形而上学》,(4)実践学・製作学:《ニコマコス倫理学》《エウデモス倫理学》《政治学》《弁論術》《詩学(創作論)》となる。これとは別に最初から公表を意図して書かれた作品もあったが,以後しだいに忘れられるようになり,今日では《魂について(エウデモス)》《哲学のすすめ(プロトレプティコス)》《哲学について》などの一部が,後世の人が断片的にまたは要約して引用した形で残されているにすぎない。…
…ギリシア語の〈在るものon〉と〈学logos〉から作られたラテン語〈オントロギアontologia〉すなわち〈存在者についての哲学philosophia de ente〉に遡(さかのぼ)り,17世紀初頭ドイツのアリストテレス主義者ゴクレニウスRudolf Gocleniusに由来する用語。同世紀半ば,ドイツのデカルト主義者クラウベルクJohann Claubergはこれを〈オントソフィアontosophia〉とも呼び,〈存在者についての形而上学metaphysica de ente〉と解した。存在論を初めて哲学体系に組み入れたのは18世紀のC.ウォルフであり,次いでカントであった。…
※「形而上学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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