形成手術(読み)けいせいしゅじゅつ(英語表記)plastic operation

精選版 日本国語大辞典 「形成手術」の意味・読み・例文・類語

けいせい‐しゅじゅつ【形成手術】

〘名〙 やけどによるケロイド、手足の変形などの形態的修復を目的とする手術。
※他人の顔(1964)〈安部公房〉黒いノート「たぶん形成手術を受けたあとなのだろう」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「形成手術」の意味・わかりやすい解説

形成手術
けいせいしゅじゅつ
plastic operation

形成外科で行われている手術手技のことで、成形術ともいう。広義には美容外科で行われる手術手技も含まれる。

[水谷ひろみ]

沿革

形成外科が専門分野として独立したのは近年であるが、形成手術そのものの歴史は古く、紀元前から行われていた。古代エジプト第3王朝時代の最初の医師イムホテプImhotep(前2980―前2900)が書いたというパピルスには外鼻外傷の診断と治療が、また前1550年ごろに書かれた「パピルス・エーベルス」には組織移植の記載まであるという。また、インドでは前600年ころ、局所皮弁による造鼻術が発達していたのも事実である。その後、中世封建制の暗黒時代を経て、形成手術がふたたび栄えたのは16世紀に入ってからである。そのころ、イタリア式造鼻術の創始者として知られるタリアコッツィGasparo Tagliacozzi(1546―99)が形成外科手術手技の基本ともいえる記載を多数残している。

 現代に及ぶ具体的手術手技の進歩は19世紀に入ってから始まった。遊離植皮術が成功した最初の例は、1804年ヒツジを用いた実験で、皮膚に脂肪や筋肉などをつけずに移植すれば生着するという植皮術の基本原理が発見されたわけであるが、臨床的に広く認められるようになったのは19世紀末のことである。1886年にチールシュThierschが薄い分層植皮術を、93年にはクラウゼKrauseが全層植皮術をそれぞれ発表するなど、現在もその名称が残っている有名な手術手技が続出し、今日の植皮術の基礎が確立した。

 その後20世紀にかけては、皮膚だけではなく、骨、軟骨、神経、筋、粘膜など種々の組織の移植も開発され、とくに第一次および第二次世界大戦はそれぞれ従来と比較にならないほどの重症戦傷者を多数出したため、これに対処する技術としての形成手術が飛躍的に発達した。なかでも植皮片を採取するダーマトームdermatomの発明は、広範囲の植皮術を可能にし、現在でも熱傷者救命に大きな威力を発揮している。このダーマトームは1936年(昭和11)に日本の藤本忠雄が創案し、3年後にパジェットPagettらの考案によるものが出されて普及した。第二次大戦後は麻酔法の進歩、抗生物質の発見などで発展したが、とくに移植免疫の研究、口唇・口蓋裂(こうがいれつ)の手術のほか、顕微鏡や拡大鏡を使うマイクロサージャリー(microsurgery微小外科)による組織の移植や再接合などの面で著しく発達した。

[水谷ひろみ]

基本的手技

一般外科的手術と同じ手技である切開、切除、縫合なども、形成手術では、術後の瘢痕(はんこん)ができるだけ目だたず、きれいなものになるように種々のくふうがなされている。おもなポイントをあげると、(1)創痕が「しわ」に一致して残るようにするなど、切開線の方向を慎重に決めること、(2)周辺の皮下を剥離(はくり)したり補助切開を入れるなど、創縁への張力を減らすこと、(3)止血をていねいに行うこと、(4)各層を別々に縫合して死腔(しくう)をなくすこと(真皮縫合がよく用いられる)、(5)表皮縁がまくれ込まないように注意深く縫合すること、(6)縫合は強く締め付けないこと、(7)縫合糸や針の材質も重要で、特別の非外傷性針atraumatic needle(糸と針が接続しているので、皮膚を傷つけることが少ない)や組織反応を少なくした絹糸、ナイロン糸、テトロン糸、テフロン糸などが用いられる、(8)抜糸後にサージカルテープを貼(は)って創面を保護することも、創痕をきれいにするほか、ケロイドを予防するためにも重要である。

 以下、代表的な形成手術である植皮術および植毛術を中心に、削皮術やクラニオフェイシャル・サージャリーなどの手技について述べる。

[水谷ひろみ]

植皮術

皮膚欠損部を皮膚で補填(ほてん)する手技で、他人の皮膚を移植する同種植皮術と自家植皮術とがある。通常、永久生着するのは後者のみである。

[水谷ひろみ]

同種植皮術

1942年イギリスのメダワーらが、熱傷患者に同じ提供者からの同種植皮を2回行ったところ、2回目は非常に早く脱落することを発見して以来、移植免疫学の進歩が目覚ましく、同種植皮の生着延長を図る方法などもいろいろ研究されてきた。臨床的に応用されている同種移植は、広範囲の熱傷創を生理的に生体に近い包帯で覆うという意味でのバイオロジカル・ドレッシングと、有茎皮弁採取部への利用などであるが、最近はブタの皮膚などの人工皮膚のほうが多用されている。なお、同種植皮が永久生着する特殊な例として、一卵性双生児間の植皮や真性無γ(ガンマ)-グロブリン血症患者への植皮などがある。

[水谷ひろみ]

自家植皮術

これには遊離植皮術と有茎植皮術がある。

〔1〕遊離植皮術 個体から完全に切り離した皮膚片を他部の皮膚欠損部補填に用いる術式である。人体における最初の成功例は、1823年ユンガーJüngerによって行われた大腿部(だいたいぶ)から鼻部への皮膚移植である。植皮術の方法論は19世紀末にすでに確立されていたが、20世紀に入ると化学療法や麻酔法などの進歩と相まって成功率が著しく高まり、近年では単に生着させるだけでなく、美容上の高度な要求にも応じられるよう種々の配慮がなされている。ダーマトームの発明以後は、適応範囲も非常に拡大されてきた。

 遊離植皮片は、ごく初期には移植床から体液を吸収して生きているが、まもなく両者(植皮片と移植床)間の小血管どうしが直接吻合(ふんごう)して血液循環が始まる。だいたい移植後、数時間から2~3日かかる。その後、移植床に無数の毛細血管が新生して、これが植皮片内に侵入することによって完全に生着する。これまでに5~8日かかる。結局、植皮片に新しい血行が完成するのは約10日目である。このように遊離植皮片が生着するためには、移植床に十分な血行があること、植皮片が移動せずに移植床と密着していること、感染のないことなどが基本的条件となる。また、植皮片は薄いほど生着率が高い。植皮片を移植床に密着させる方法としては、通常、タイオーバーtie over法とよばれる圧迫固定法が用いられている。なお、止血を確実に行い、血腫(けっしゅ)などを生じさせないこと、術後の包帯法や安静保持なども重要なポイントである。

 遊離植皮術は、切り取る移植片の厚さにより全層植皮と分層植皮に大別され、分層植皮の特殊なものとして網状植皮がある。おのおのの適応は、疾患の種類、植皮の生着率および整容的・機能的効果の兼ね合い(たとえば、薄い皮膚片ほど生着率は高いが、整容的には色調や柔らかさなどに問題が多く、耐久力に乏しいなど)、患者の年齢、体力、生活条件などを考慮に入れて決められる。

 全層植皮術は、皮膚の全層(表皮と真皮全体)を含む植皮で、厚いために血行再開が遅く、生着率の点では分層植皮に劣る。しかし、いったん生着したものは生理的機能も外観も優れているので、顔面をはじめ、手足の指や関節部の植皮などに用いられる。採皮部は通常、創痕の目だたない部位をなるべく選ぶ必要から、鼠径部(そけいぶ)などを使うが、とくに植皮部の皮膚の性状に似た部分を選ばなければならない場合、たとえば顔面には耳介の前・後面、鎖骨部、前腕内側などの皮膚が使われる。採皮後は一次的に縫合することが多い。

 分層植皮術は、真皮の中間の層で切り取った皮膚の移植で、現在の遊離植皮術の主流となっている。とくにダーマトームの発明以来、植皮片は好みの厚さのものをすばやく均等に採取できるようになり、適応範囲も著しく拡大されている。分層植皮は植皮片の厚さにより、0.012インチ(約0.3ミリメートル)以下の薄い分層植皮(チールシュ法)、0.015~0.025インチ(約0.4~0.6ミリメートルで、真皮の2分の1以上)の中間分層植皮、0.030インチ(約0.8ミリメートルで、真皮の4分の3)以上の厚い分層植皮に分けられる。薄い分層植皮は肉芽面に対して粘膜の代用に使われ、採皮部には瘢痕を残さない。中間分層植皮は種々の潰瘍(かいよう)や腫瘍切除後など広範囲の皮膚欠損部に適応され、比較的厚いものは採皮部に瘢痕を残す。厚い分層植皮は顔面の広範囲に及ぶ植皮に適応し、採皮部にはケロイドを生じやすい。いずれにしても分層植皮の採皮部は自然に治癒するので、全層植皮術のときのように縫合する必要はない。

 分層植皮術の場合の採皮部としては通常、大腿部内側が用いられるが、そのほか前胸部、背部、腹部、臀部(でんぶ)など、露出部や関節部以外ならほとんどの部位から採取可能である。また、表皮形成が完了して治癒するまでの期間は採皮の厚さにより異なり、約10~20日間を要するが、その間、通常はソフラチュール、フシジンチュール、LPS(凍結乾燥豚皮)などを貼布(てんぷ)する。非常に厚い植皮片を採取した場合には、薄い分層植皮や網状植皮を用いることもある。

 網状植皮術は、分層植皮片に多数の小切開を交互に入れて七夕(たなばた)の紙細工「網」のようにし、植皮片を引き伸ばして用いるもので、特殊な網状裁断器を使用する。植皮片は3~5倍に拡大するので、広範囲の皮膚欠損部に用いられる。網目状を呈しているため、患部を開放状態に保ち、炎症産物や化膿(かのう)菌を障害なく外表へ誘導流出させる、いわゆるドレナージ効果が大きく、また上皮化が四方の皮膚から始まるので、表皮形成も早い。移植床に多少の凹凸がある場合や、感染を伴う場合にも生着しやすいなどの利点があるが、網目状の瘢痕が目だち、外観はやや劣る。

〔2〕有茎植皮術 皮膚と皮下組織をいっしょに、血行を保ちながら移動させて皮膚欠損部を補填する方法で、つねに一つの循環系が存在していることが必要条件となっている。接続部を有茎皮弁の茎(けい)といい、移植床からの血行再開まではこの茎を通じて皮膚の栄養が維持される。骨、腱(けん)、神経などが露出している深部まで達した創面などに用いられる方法であるが、ある程度の形成外科的熟練を必要とする。有茎植皮が生着するための条件としては、血行がよく保たれていること、感染のないこと、患者の全身状態がよいこと(貧血、低タンパク血症、植皮術直後の血圧降下などのないこと)などが重要な因子となる。具体的には有茎植皮のデザインがしっかりしていることが成功への第一の鍵(かぎ)で、とくに過度の緊張やねじれを避けるほか、遊離植皮術の場合と同様に、止血を十分に行い、血腫は早期に発見して取り除くこと、過剰圧迫を避けて術後の管理を慎重に行うことなども重要である。生着が危ぶまれる場合には、一次的に移植を行わず、皮弁を原位置に戻し、血行障害の回復を待ってから移植を行うこともある。

 有茎植皮術の種類は多種多様であるが、次のような分類法がある。(1)流入血管の型による分類では、主軸血管皮弁と乱軸血管皮弁に分けられ、(2)茎の数による分類では、単純茎皮弁、双茎皮弁、多茎皮弁に分けられ、(3)皮弁の構成要素による分類では、皮膚皮弁と複合皮弁(たとえば筋皮皮弁や軟骨皮膚皮弁など)に分けられる。(4)皮膚提供部位による分類では、側頭皮弁、頭皮弁、額皮弁、口唇ねじり皮弁、鼻唇溝皮弁をはじめ、胸三角筋皮弁、胸腹壁皮弁、腹部皮弁、鼠径部皮弁などが含まれる。(5)皮弁と植皮床との関係による分類では、局所皮弁と遠隔皮弁に大別され、遠隔皮弁はさらに直達皮弁と介達皮弁に細分される。

 局所皮弁は、色調や質感の調和がよく、手術回数が少なくてすみ、老人でも応用できるなどの利点があるが、欠損部周辺にかなり目だつ瘢痕を生ずることがある。Z形成術、T形成術やV・Y形成術などを含む伸展皮弁をはじめ、回転皮弁、はめ込み皮弁、横転皮弁、皮下組織皮弁、凧(たこ)型皮弁、まさかり型皮弁などが含まれる。

[水谷ひろみ]

Z形成術

皮膚にZ状の切開を加えて三角皮弁を2個つくり、その位置を交換することによって皮膚の延長を図る術式である。線状瘢痕の修正、索状瘢痕拘縮の除去、脱毛斑の位置交換などに用いられる。

 遠隔皮弁のうち、直達皮弁には巨大皮弁、筋皮皮弁、遊離皮弁、動脈系皮弁、島状皮弁、交叉(こうさ)皮弁などが含まれ、介達皮弁にはジャンプ皮弁、ワルツ皮弁、匍匐(ほふく)皮弁、反転皮弁、スイッチ皮弁などが含まれる。遠隔皮弁は、皮膚欠損がどこにあってもカバーでき、採皮部の瘢痕は被覆すれば目だたないという利点があるが、介達皮弁のように長期間無理な体位を強要される方法は最近あまり用いられなくなっている。一方、近年とくに脚光を浴びている筋皮皮弁は、皮下の骨格筋をいっしょにつけて用いる皮弁で、筋肉から皮膚へ入る穿通枝(せんつうし)を含むため、血行が温存されて生着しやすいこと、可動域が広く十分に大きな皮弁を動かすことができるなどのほか、遊離皮弁のような特殊技術を必要としないことなど、数多くの利点がある。遊離皮弁は、皮弁に含まれる栄養動静脈を切断し、一時完全に遊離したものを移植床においてその動静脈とそれぞれ吻合する方法なので、1回で大量の組織をどこからでも自由に移動でき、茎をもたないため組織にむだが出ないこと、治療日数を著しく短縮できることなど利点が多いが、顕微鏡下の特殊な技術(マイクロサージャリー)を必要とするため、だれもがすぐに実施できるものではない。なお、マイクロサージャリーは手術用双眼顕微鏡を使って行う手術で、形成外科領域では遊離皮弁をはじめ、切断指の再接合、四肢や顔面の神経外科などに利用されている。この分野ではとくに日本の形成外科医の業績が目だっている。

[水谷ひろみ]

植毛術

無毛部に有毛部からの毛を移植する方法で、主として美容的な目的から行われる。毛の供給源は当人の有毛部(普通は頭部)で、他人の毛では成功しない。形成外科的には次の4法がある。

〔1〕局所皮弁を用いる方法 有茎植皮術の術式を応用して植毛するもので、瘢痕性脱毛や頭皮欠損症に用いられる。おもに使われる皮弁は、回転皮弁、横転皮弁、伸展皮弁、双茎皮弁などである。瘢痕が広範囲に及ぶ場合にはこれを切除せず、有毛部と交叉して入れ替えることにより隠しやすい部分に移動させたり、小さく点在させたりして外観を整えるくふうをする。頭皮は厚くて伸展性も少ないため、皮弁の移動はかならずしも期待どおりにいかないこともあるので、その場合には周囲の頭皮を広範囲にわたって剥離する。剥離は帽状腱膜と骨膜との間の疎性結合織で行うと、出血はほとんどなく容易である。皮弁に緊張がかかりすぎると、術後脱毛の原因になるので無理をしないこと、また毛流を考えて、なるべく自然に近くなるようにデザインすることもたいせつである。生え際には、皮弁で植毛してから1~2か月後に皮膚柱植毛や単一毛植毛を併用すると、より自然な状態をつくることができる。

〔2〕動脈皮弁法・島状皮弁法 頭皮は血管が豊富なので多くは局所皮弁で十分に生着するが、皮弁を強く捻転(ねんてん)移動する場合や著しく細長いものを要するときは、皮下動静脈を含めた血管皮弁を作図することが望ましい。とくに茎が動静脈だけの島状皮弁の場合は、回転角度に制限がなくなるのでドッグイアができず、むだがないこと、毛流を自然に近く再建できることなどの利点がある。眉毛(びもう)の形成に対しては、浅側頭動脈の分枝を使った島状皮弁を皮下のトンネルをくぐらせて用いることもある。

〔3〕遊離含硬毛植皮術 眉毛の形成に主として用いられる術式で、耳後部の頭皮を毛根を含めて眉毛の形に切り取り、これを眉毛部に皮切を加えて植え込む方法。皮片の幅が1センチメートルを超えると術後に中心部で脱毛がおこるので、幅5~7ミリメートル程度のものが安全である。

〔4〕皮膚柱植毛術および単一毛植毛術 硬毛を含む皮膚柱を、あらかじめ移植部につくった多数の小孔に、田植のように挿入していく術式で、前述の〔1〕から〔3〕までの植毛術の総仕上げ的な意味で用いることが多い。たとえば、もみあげや生え際などには局所皮弁でおおよその形をつくり、その後さらに整容的に本法を付加して行う。また、陰部無毛症や難治性尋常性白斑(はくはん)の治療にも応用されることがある。手術の手順は、(1)金属性皮膚トレパン(円錐(えんすい)形メス)を使って移植部にあらかじめ小孔を多数あけ、圧迫止血する。トレパンの直径は2.5~3.5センチメートルのものを使う。(2)適当量の硬毛を含む皮片を頭皮より切除し、これを使用したトレパンの大きさより直径0.5~1ミリメートル大きめに細切する。トレパンで採皮することもある。(3)皮下脂肪を除去するが、毛根を損傷しないよう注意する。(4)この皮膚柱を(1)の小孔に植毛用ピンセットで押し込み、圧迫固定する。通常、1回の手術ではまばらな植毛しかできないので、2、3回繰り返し行われることが多い。また、単一毛植毛術は同様の植毛を直径1ミリメートルのトレパンを使い、1、2本ずつの毛を含む植皮片で行うもので、生着率が高い。なお、1本ずつの配置を自由にコントロールできるため、気長に反復移植すればよい結果が得られるが、非常に時間がかかるので普通はあまり行われない。

 以上、植毛術についてまとめると、瘢痕性脱毛症や頭皮欠損症には種々の局所皮弁と、生え際には皮膚柱移植の併用を行う。眉毛部に対しては遊離含硬毛植皮術または島状皮弁植毛術を行い、ときに単一毛植毛術も行われる。まつげの形成には眉毛部からの遊離含硬毛植皮術または単一毛植毛術を行い、陰部無毛症には皮膚柱植毛術と男性ホルモン療法の併用などが行われる。適応の決め方は患者の年齢、精神状態、職業などを考慮し、症例によっては義髪(かつら)を用いることも念頭に入れて慎重に検討する必要がある。

[水谷ひろみ]

真皮脂肪移植

顔面半萎縮(いしゅく)症、瘢痕による陥凹や植皮後の陥凹など種々の皮膚陥凹部に対して行う手術で、かつては脂肪のみを移植する方法が行われたが、移植された脂肪組織はまもなく結合織で置換されてしまうため、近年は真皮をつけて移植する方法がおもに用いられている。ただし、眼瞼(がんけん)部には脂肪だけの遊離脂肪移植が生着するという説がある。この真皮脂肪移植術は、(1)移植予定部よりすこし離れた部位に皮切を入れ、剥離刀で移植部皮下を剥離する、(2)止血を十分に行う、(3)臀部などの採皮部から薄い分層植皮の要領で皮膚表面を剥離し、露出した真皮を皮下脂肪とともに採取する、(4)この移植片を移植部に挿入して縫合閉鎖する。移植片は真皮面を上にしても下にしてもかまわない。術後は軽く圧迫固定する、(5)感染をおこさないよう細心の注意をする、(6)移植片は術後にかなり縮小するので、容量は30~40%増で手術を行う。

[水谷ひろみ]

遊離総合組織移植

皮膚とともにその下層の軟骨などをまとめて移植する方法で、鼻翼の補修などに用いられ、その場合は耳介の皮膚と軟骨を鼻翼の形にあわせて切り取り利用する。

[水谷ひろみ]

粘膜移植

形成外科領域では結膜、眼窩(がんか)、鼻腔粘膜などに用いられ、供給源としては口腔粘膜が多く、とくに頬(ほお)の内側は粘膜が薄いので好んで使われる。2.5センチメートル×5センチメートルまでの移植片なら採取部位に瘢痕拘縮をおこすことがない。また、粘膜採取用の小型電動式ダーマトームも考案されている。なお、有茎粘膜片移植術は、赤唇の形成や結膜の形成などで局所皮弁として、また上下口唇間あるいは上下眼瞼間のジャンプ皮弁などとして用いられる。

[水谷ひろみ]

そのほかの移植と形成外科的適応

骨移植、軟骨移植、神経移植を形成外科領域からみると、骨移植の場合は、硬い支持組織を必要とする場合や輪郭をつくる場合など、たとえば前頭骨欠損、眼窩変形、鞍鼻(あんび)、下顎(かがく)骨欠損変形、頤(おとがい)部変形のほか、四肢骨とくに指骨などの移植に利用される。骨採取部は通常、腸骨、脛骨(けいこつ)、肋骨(ろっこつ)である。軟骨移植の場合の適応は、頭蓋骨、眼窩床や眼窩縁の変形、頬骨(きょうこつ)変形、外鼻変形、耳介欠損、小顎症などで、通常は肋軟骨を用い、特殊な場合には鼻中隔軟骨や耳介軟骨をも用いる。神経移植の場合には顔面神経や指神経の修復などに用いられる。

[水谷ひろみ]

削皮術

皮膚病巣を高速グラインダー(毎分3000回転)で削り取る手術で、現在おもに用いられているのはシュロイスSchreusの装置である。歴史的には1905年クロメイヤーKromayerが歯科用の器械でにきびや痘瘡(とうそう)(天然痘)後の瘢痕を治療したことに始まり、30年代からはサンドペーパーを用いる方法がもっぱら行われ、50年代から現在のような器械が普及している。おもな適応症は母斑細胞母斑(とくに播種(はしゅ)状のもの)、遅発性扁平(へんぺい)母斑、表皮母斑、プリングル母斑症、ボーエン病、色素性乾皮症、老人性角化腫、いれずみ、ポイツイェガース症候群、アミロイド苔癬(たいせん)、汗孔角化症、ダリエ病、家族性慢性良性天疱瘡(てんぽうそう)、限局性リンパ管腫、鼻瘤(びりゅう)、各種の限局性色素沈着、痤瘡(ざそう)(にきび)や痘瘡後の瘢痕などである。

 皮膚を削り取ったあとの創面は1、2週後には表皮の新生が完了して治癒するが、真皮網状層を越える深さまで一気に削り取ると、瘢痕ケロイドを生じやすく、浅く削りすぎると再発する。病状に応じて削り取る組織の深さを調節し、整容的にもできるだけ目だたないようにするためには、かなりの熟練と経験を要するため、ごく限られた施設でのみ行われている。

[水谷ひろみ]

クラニオフェイシャル・サージャリー

形成外科領域で近年とくに進歩が著しく注目されている手術で、骨切り術を主体として顔面頭蓋の形態を再建する顔面頭蓋再建術をいう。つまり、顔の骨をばらばらにして組み立て直し、顔かたちをつくり変える手術である。症例によっては脳外科、眼科、口腔外科など関連各科との共同作業が必要で、高度のテクニックを要する手術といえる。おもな適応疾患は、頭蓋狭窄(きょうさく)症、眼窩隔離症、クルーゾン病、アペルト症候群、鰓弓(さいきゅう)症候群、交通事故などの外傷による顔面変形、腫瘍摘出後の顔面変形などである。手術は、種々の形の骨切り術のほか、突出部を削る骨切除術、陥凹部や欠損部を補充する骨移植や、人工物による補填術なども含まれ、同時に軟部組織の修正も行われる。

[水谷ひろみ]

その他

口唇裂や口蓋裂のほか、手の形態異常(いわゆる奇形)の手術などについては、「美容外科」をはじめ、「奇形」など各項目の解説を参照されたい。

[水谷ひろみ]

『倉田喜一郎著『遊離植皮術〈形成外科手術手技シリーズ〉』(1973・克誠堂出版)』『福田修著『新しい縫合法〈形成外科手術手技シリーズ〉』(1977・克誠堂出版)』『池田重雄・水谷ひろみ著『あざの治療〈形成外科手術手技シリーズ〉』(1981・克誠堂出版)』

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