日本大百科全書(ニッポニカ) 「当麻」の意味・わかりやすい解説
当麻
たえま
能の曲目。五番目物。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)作。奈良・當麻(たいま)寺の曼陀羅(まんだら)伝説に取材した能。念仏の僧(ワキ、ワキツレ)が當麻寺に参詣(さんけい)する。老尼(前シテ)が侍女(ツレ)を先だてて登場し、阿弥陀仏(あみだぶつ)を賛美したのち、僧に向かって、中将姫がここに籠(こも)って生身の阿弥陀仏を拝んだ奇跡、また仏の力添えで蓮(はす)の糸で曼陀羅を完成した話をし、自分たちがその阿弥陀如来(にょらい)と観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)の化身と告げて消える。僧の祈りのなかに、中将姫の精魂(せいこん)(後シテ)が極楽の歌舞の菩薩の姿で現れ、美しく澄みきった舞を舞い、仏教を賛嘆して終わる。気品と霊気の表現に優れた特徴があり、老女物に準じて扱われ、至難の能である。宗教的雰囲気がそのまま舞台に形象化、音楽化された卓越した例である。
[増田正造]
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