当事者能力(読み)とうじしゃのうりょく

精選版 日本国語大辞典 「当事者能力」の意味・読み・例文・類語

とうじしゃ‐のうりょく タウジシャ‥【当事者能力】

〘名〙 民事訴訟で、原告・被告などの当事者となることのできる一般的な能力自然人・法人はすべて認められ、法人でない社団または財団でも代表者または管理人の定めがあるものには認められる。

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デジタル大辞泉 「当事者能力」の意味・読み・例文・類語

とうじしゃ‐のうりょく〔タウジシヤ‐〕【当事者能力】

訴訟法上、訴訟の当事者となることができる能力。原則として、自然人法人はすべてこれを有し、権利能力のない社団または財団でも代表者または管理人の定めがあるものは認められる。

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改訂新版 世界大百科事典 「当事者能力」の意味・わかりやすい解説

当事者能力 (とうじしゃのうりょく)

(1)民事訴訟法上,訴訟当事者(原告または被告)となることのできる一般的能力をいう。当事者能力は,実体法上の権利能力権利義務の主体となりうる一般的能力)とパラレルな概念であり,具体的事件を離れて抽象的にだれが訴訟の当事者となれるか,の問題である。その点で,特定具体的紛争を有効適切に解決するにはだれをその訴訟の当事者とすればよいか,の問題である当事者適格とは異なる。当事者能力は,このように民事訴訟における原告または被告となりうる一般的能力を意味するが,転じて,ある者を交渉の相手方として扱ってよいか,その者が組織上独立に決断しうるか否かを問題とする場合にも用いられる。

 民事訴訟における当事者能力はだれに認められるか。第1に,自然人(個人)は,老若男女を問わず,すべて当事者能力を有する。第2に,法人も,公法人であれ私法人であれ,当事者能力をもつ。国や公共団体も,私法上の取引を行うから,民事訴訟の当事者となることができる。行政庁は,処分の取消しや裁決の取消しのような行政事件については被告能力を認められているから(行政事件訴訟法11条),国や公共団体でなく,行政庁を相手に訴えることができる。第3に,法人格のない社団または財団でも,代表者または管理人の定めがあるものは当事者能力がある(民事訴訟法29条)。これは,民法上は法人格のない社団や財団であってもその名で取引をすることのある社会の実情にかんがみ,紛争の解決においてもその名において当事者となることを認めたものである。民法上の組合(数人が出資をし,共同して事業を営む契約。民法667条)も当事者能力があると解されている。原告または被告が当事者能力を欠いている訴訟は不適法であり,その補正ができなければ,訴えが却下される。

(2)刑事訴訟法上も同義(ただし,もっぱら被告人について問題となる)。自然人だけでなく,法人も当事者能力を有する(刑事訴訟法27条参照)。また,法人格のない社団にも当事者能力が認められる場合がある(独占禁止法95条2項,所得税法4条,244条,法人税法3条,164条)。被告人の当事者能力が欠けたときは,公訴を棄却しなければならない(刑事訴訟法339条1項4号)。
権利能力なき社団 →法人
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「当事者能力」の意味・わかりやすい解説

当事者能力
とうじしゃのうりょく

民事訴訟において当事者となりうる一般的能力をいう。具体的な訴訟事件の内容とは無関係な一般的な能力であって、当事者適格(具体的事件における特定の訴訟物との関係で本案判決を受けるに適する資格をいう)とは異なる。

 訴訟で争われるのは実体法上の権利・義務であるから、訴訟当事者たりうるのは、実体法上の権利・義務の主体たりうる者でなければならない。このゆえに、当事者能力は民法の規定に従うとされ(民事訴訟法28条)、結局、実体法上の権利能力と同様に考えられる。それゆえ、実体法上の権利能力者たる自然人、法人は当事者能力を有する。このほか、国、地方公共団体も当事者能力を有する。さらに、民事訴訟法は、実体法上は権利能力を有しない、権利能力なき社団または財団のうち、代表者または管理人の定めあるものに当事者能力を認めた(同法29条)。たとえば、同窓会、青年団、法人格をもたない労働組合などがこれに該当するが、社会で現実に法主体として活動していることの訴訟面への反映である。当事者が当事者能力を有することは訴訟要件であり、裁判所は職権でもって調査しなければならず、これの欠缺(けんけつ)あるときは、裁判所は訴えを不適法として却下しなければならない。

[本間義信]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「当事者能力」の意味・わかりやすい解説

当事者能力
とうじしゃのうりょく
Parteifähigkeit

(1) 民事訴訟法上は,当事者となることができる一般的能力。いかなる権利あるいは法律関係が争いとなっているかに関係なく,一般的に定められ,特定の争いに関して本案判決を求めることのできる資格である当事者適格と区別される。実体法上で権利能力を認められている自然人,法人は当然当事者能力を認められるが,法人でない社団または財団についても,代表者または管理人の定めがあるときは,当事者能力が認められる。当事者能力の有無は,裁判所の職権調査事項である。 (2) 刑事訴訟法上は,特に被告人となりうる能力をいい,自然人,法人で権利能力を有する者は当事者能力をもつものとされる。法人格のない団体でも,その団体に犯罪能力または受刑能力が認められている場合には当事者能力を有する。

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世界大百科事典(旧版)内の当事者能力の言及

【訴訟当事者】より

…何を基準として確定するかにつき,当事者らしい行動とする説,当事者たる意思とする説,訴状の表示とする説(通説),訴訟開始時には訴状の表示を基準とし,判決確定後は前訴の全訴訟過程を総合して判断すべしとする説が対立している。 訴訟当事者たるためには当事者能力と当事者適格がなければならない。当事者能力は,具体的紛争を離れておよそ一般的に自己の名で訴訟をする資格であり,原則として民法の権利能力とパラレルに考えられている。…

※「当事者能力」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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