当・中(読み)あたる

精選版 日本国語大辞典 「当・中」の意味・読み・例文・類語

あた・る【当・中】

[1] 〘自ラ五(四)〙
[一] 人、物が、他の人、物に接触する。ぶつかる。
① 勢いよくぶつかる。
※古今(905‐914)物名・四五七「かぢにあたる浪のしづくを春なればいかがさきちる花とみざらむ〈兼覧王〉」
※源氏(1001‐14頃)須磨「雨のあし、あたる所通りぬべくはらめき落つ」
② 軽く触れる。さわる。くっつく。
※浜松中納言(11C中)四「すべり入てさぐり給へば、息の通ふけしきもなく、かひななどもひややかにあたる」
③ 物事や人の言葉などによって、はっと気づく。思い当たる。
徒然草(1331頃)四一「かほどのことわり、誰かは思ひよらざらんなれども、折からの、思ひかけぬ心地して、胸にあたりけるにや」
④ 光がある範囲に照りそそぐ。
更級日記(1059頃)「荒れたる板屋の隙(ひま)より月の洩り来て、ちごの顔にあたりたるが」
⑤ 光、風、矢などを身にうける。身をさらす。
※古今(905‐914)春上・八「春の日の光にあたる我なれどかしらの雪となるぞわびしき〈文屋康秀〉」
※徒然草(1331頃)一七「風にあたり湿に臥して」
⑥ 暖をとる。あたたまる。
※草根集(1473頃)一一「出ん日や袖さへかねん炭竈を焼火にあたる小野の山人」
⑦ ある状況や時期に直接に対する。ある物事に出くわす。
※古今(905‐914)雑下・九六二・詞書「田むらの御時に事あたりて津の国の須磨といふ所にこもり侍りけるに」
※源氏(1001‐14頃)須磨「かく思ひかけぬ罪にあたり侍るも」
⑧ 人に接する。待遇する。良く扱う場合にも用いたが、ひどく扱う場合に用いることが多くなる。「あたりちらす」
※今昔(1120頃か)三「其の人の為に太子、懃(ねむごろ)に当り給ふ事有れども、思知たる心无(な)し」
※隆信集(1204頃)物名「つらしとて我さへつらくあたるまに人の恨も残しつるかな」
⑨ 物事に探りを入れる。交渉する。また、比べて確かめる。
※玉塵抄(1563)一八「牧がそこをあたっていましめて荑を送たり」
西洋道中膝栗毛(1874‐76)〈総生寛〉一二「東京中のかもじ屋へあたりて、〈略〉、結ってもらったんだから」
⑩ 飲食物や暑気寒気、毒などが体調に害を与える。
※大智度論天安二年点(858)「故に失命の毒薬に中(アタラ)ず」
浄瑠璃心中重井筒(1707)中「此ごろ酒があたって」
⑪ 果物などがいたむ。腐る。
⑫ (「当たっている」という形で) 野球で、ヒットがよく打てる状態である。
⑬ 釣りで、魚が釣り針のえさに食いついた手ごたえがある。
※落語・佃島(1900)〈初代三遊亭金馬〉「其方(そっち)浮標(うき)は、モウ当ッてゐますぜ」
[二] 関係、状態、時期、方角、能力、役目などがちょうどあてはまる。相当する。
① ちょうどそういう関係、順位、資格、価値である。そういう状態に相当する。
※源氏(1001‐14頃)東屋「中にあたるなん、姫君とて、守いとかなしうし給ふなるときこゆ」
平家(13C前)四「やにはに八人きりふせ、九人にあたるかたきが甲(かぶと)の鉢にあまりに強う打あてて」
② ちょうどその時期である。その日時に相当する。「卒業するにあたり」
※源氏(1001‐14頃)澪標「五月五日にぞ五十日(いか)にはあたるらむと」
③ ちょうどその方角にある。その方向に面する。
蜻蛉(974頃)下「車の後(しり)のかたにあたりたる人の家の門より」
※源氏(1001‐14頃)賢木「ことに建てられたる御堂の西の対南にあたりて」
④ 同じくらいの力で張り合う。対抗する。匹敵する。
※書紀(720)神武即位前(北野本訓)「皇師(みいくさ)の威(いきほひ)を望見(おせ)るに、不敢敵(えアタルまじきこと)を懼(お)ぢて」
※源氏(1001‐14頃)若菜下「師とすべき人もなくてなむ好み習ひしかど、猶あがりての人にはあたるべくもあらじをや」
⑤ 仕事、役目など引き受けて行なう。担当する。割り当てられる。従事する。
※承応版狭衣物語(1069‐77頃か)三「乗るべき車は〈略〉めでたうして参らすべきよし、受領どものあたりて、我も我もと心を尽したる」
※栄花(1028‐92頃)歌合「女房の装束、裳、唐衣、表著(うはぎ)、童の装束など人々あたり」
⑥ ((二)①の意で、特に否定的な表現の中で用いる) ある事をする必要がある。
※わかれ道(1896)〈樋口一葉〉中「其様(そん)な処へ帰るに当(アタ)るものか」
[三] ねらいや望みにぴったり合う。
① 矢や弾丸などがねらった所にぶつかる。命中する。
※大鏡(12C前)五「『道長がいへよりみかど、きさき立ち給ふべきものならば、この矢あたれ』と仰せらるるに、おなじものを中心にはあたるものかは」
② 真理や規範などに合う。正しくあてはまる。
※徒然草(1331頃)一九三「くらき人の、人をはかりて、その智を知れりと思はん、さらにあたるべからず」
③ 言ったり考えたりしたことが、事実とぴったり合う。予想どおりになる。的中する。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「両方から指を出して数が当(アタ)ったら勝で能ささうな物だ」
④ 物事がうまくゆく。事業、商売、興行などが成功したり、果物、穀物などがよく実ったりする。
散木奇歌集(1128頃)恋上「とかりするさつをのゆつるうちたえてあたらぬ恋に病(やま)ふ頃哉」
洒落本・傾城買指南所(1778)「近年は、するほどの事あたらぬ事なく、天地(あめつち)も動す勢なりしに」
⑤ くじや懸賞の催しなどで、選ばれる。
日葡辞書(1603‐04)「クジガ ataru(アタル)
[2] 〘他ラ五(四)〙 (髪やひげを)剃(そ)る。東京の商家などで「剃(す)る」というのをきらっていう語。
※玄武朱雀(1898)〈泉鏡花〉七「私が行く処に床屋があるんだ。〈略〉名人といって可いんだね。其代(そのかはり)余程折がよくないとあたっちゃくれないが」

あたり【当・中】

〘名〙 (動詞「あたる(当)」の連用形の名詞化)
① 物や人にぶつかること。また、ぶつかり具合。
※浮世草子・好色一代男(1682)六「大じんわざと酔狂して、あたりあらく踏立(ふみたて)
② 物や人に触れた感じ。感触。
※宇治拾遺(1221頃)三「近くよりて髪をさぐれば、氷をのしかけたらんやうに、ひややかにて、あたりめでたきこと、限りなし」
③ 人に接する態度。しむけ。扱い。
※虎寛本狂言・朝比奈(室町末‐近世初)「扨々ゑんま王あたりのあらい罪人じゃ」
④ 自分を痛い目にあわせた相手に仕返しをすること。返報。復讐(ふくしゅう)
※宇治拾遺(1221頃)五「さきに行綱に謀られたるあたりとぞいひける」
⑤ はっきり言わないで、何かにかこつけて悪く言ったり、ひどく扱ったりすること。あてつけ。
※評判記・難波鉦(1680)四「あたりのことばはさしあたるといふ事で、うらみことなどあてていふ事」
⑥ 隠れた事情や理由。いわく。
※洒落本・通言総籬(1787)二「まづでへ一チこの枕の紋所も気にくわねへ。此きものの裾もようのあたりもはくじょう仕てしまへ」
⑦ 物事を行なうときの目当てや手がかり。心あたり。→当たりが付く当たりを付ける
※洒落本・五大力(1802)三「『源様はどうなさったへ』『源様とはへ』『夫さ源五兵衛が事よ』ト少し当りをいってみる」
⑧ 矢や弾丸や玉などが、ねらった所に命中すること。
※浮世草子・本朝桜陰比事(1689)二「私近年弓のけいこを仕り、当(アタ)りこまかに罷成、狐猫などを討留(ゐとめ)申候事たびたびにて御座候」
⑨ 物事がうまくいくこと。
(イ) 事が思いどおりにうまくいくこと。商売、興行などが成功すること。
※浮世草子・新色五巻書(1698)五「殊に二月よりの替狂言、傾城浅間嶽と云ふは〈略〉百廿日のあたりは近年めづらしいと、都人も脳(なづき)をさげぬ」
(ロ) 作物などの出来がよいこと。
※仰臥漫録(1901‐02)〈正岡子規〉一「蕎麦の花もそろそろ咲出し候田の出来は申分なく秋蚕も珍しき当りに候」
⑩ みごとな答。真実をついた言葉。
※咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)上「しゃうじ一大事、味噌で御座候。味噌がわるければ、生じのしたてはならぬと申た。さてさて是ほどなるあたりは、達磨(だるま)もいかが」
⑪ くじや懸賞などで、選ばれること。また、あたりくじ。
※俳諧・宗因七百韵(1677)「さし出す順のこふしの手をひろけ さてこそつきのあたりじやみたか」
⑫ 飲食物や暑気などが、からだに障ること。多く「食当たり」「暑気当たり」などと、熟して用いられる。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「五つ月過れば何をたべてもあたりは致さぬけれど、鱝(あかゑい)などは決しておあげなさいますな」
⑬ 果物などのいたんだ部分。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「あたりのある桃なら五つか、ズットはづめば、西瓜の安売三十八文でも遣らんならん」
⑭ 能楽で、文句と拍子との取り方。また、謡の修飾的な節(ふし)で、呼気を短く中断させ、突きあたるようにうたうもの。謡本では、ゴマ節に「ア」を添えて示す。
⑮ 囲碁で、次の一手で相手の石が取れる状態。また、その状態にする一着。「両当たり」「当たりをかける」
※雪中梅(1886)〈末広鉄腸〉下「盤上に石を下す音バチバチ。『サア当りだ』『一寸お待ち下さい』『生死の界(さかひ)になって、俟(ま)って堪るものか』」
⑯ 釣りで、魚がえさにさわること。また、えさを引く時、手や竿などに伝わる感じ。
※自然と人生(1900)〈徳富蘆花〉湘南雑筆「鰺(あぢ)はあたりが軟(やはらか)で」
⑰ 猟師が山で自分の行き先を仲間に知らせるため、立ち木の皮をむいて印をつけておくもの。長野県の一部でいう。
⑱ 野球で、打撃の調子。また、打った球の飛び具合。「当たりが出る」「鋭い当たり」
※胡桃割り(1948)〈永井龍男〉「打者は、その新しい球の、第一球を打った。よい当りであった」
⑲ (単位を示す語の下に付けて接尾語のように用いる) 割当ての意を示す。…についての割合や平均。
※遣唐船(1936)〈高木卓〉四「唐朝からの年費絹二十五匹にしたところで月当り二匹やそこらでは、成程物価も一般には安かったらうが」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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