当・中・充・宛(読み)あてる

精選版 日本国語大辞典 「当・中・充・宛」の意味・読み・例文・類語

あ・てる【当・中・充・宛】

〘他タ下一〙 あ・つ 〘他タ下二〙
[一] 人や動物、物に、他のあるものを接触させる動作・行為全般をいう。この場合、その速度・強さは大きい場合もあれば、小さい場合もある。
① 勢いよくぶつける。打ちつける。
※大智度論天安二年点(858)一〇〇「執金剛神杵を以て之に擬(アツ)
平家(13C前)一一「馬にあてられじと引き退いて、みな船へぞ乗りにける」
② 触れさせる。くっつける。あてがう。
※土左(935頃)承平五年二月六日「ひたひに手をあてて喜ぶことふたつなし」
③ 風、光、熱などにさらす。
古事記(712)中・歌謡「三栗のその中つ土(に)を 頭(かぶ)(つ)く 真火には阿弖(アテ)ず」
※枕(10C終)二九二「ただ『あらずとも』と書きたるを、廂(ひさし)にさし入りたる月にあてて、人の見しこそをかしかりしか」
④ ある状態に直面させる。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「もしかかること世にきこえば、きんぢらをさへ罪にあてむといましめ給ひて」
⑤ 人を扱う。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)二「幼少より、兄弟子の太夫達に、つらくあてられた事なく」
⑥ 他のことにかこつけたりして遠まわしに悪口を言う。非難する。あてこする。
日葡辞書(1603‐04)「Atete(アテテ)、または、atetçuqete(アテツケテ) ユウ」
⑦ 交渉してととのえる。調達する。
歌舞伎・法懸松成田利剣(1823)大詰剣菱を五合、青蕃椒の奴豆腐で、一杯けづらう。其うち、夕河岸も来るであらう。ちょっと五合、あてて来さっし」
⑧ 飲食物や寒、暑、毒、不快な事や言葉などが、からだや気持に害を与える。多く「あてられる」の形で用いる。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)一「種々の毒薬に中(アテ)らるることを被(かが)ふらむに」
⑨ 相手の急所を打って一時気絶させる。当て身をくわせる。
浄瑠璃・唐船噺今国性爺(1722)上「きうび先の息合にはたと当(アテ)たる当身のこぶし」
⑩ 男女が、仲のよいところを見せつける。また、のろけ話を聞かせる。多く「あてられる」の形で用いる。
※歌舞伎・鼠小紋東君新形(鼠小僧)(1857)三幕「『腹の中に箒を立てておきなすって』『当(ア)てられましたかね』」
⑪ (②の意から)
(イ) 座ぶとんを敷く。「どうぞおあてください」
(ロ) 測るために物さしなどを物にあてがう。
※笠懸聞書(1792)「定木をあつるに中くほなる処定木ありにくき程に、定木を中くほにたむる也」
(ハ) 剃刀(かみそり)で毛をそる。
文明開化(1873‐74)〈加藤祐一〉初「決してあたまに剃刀はあてぬがよい事で厶(ござ)る」
⑫ 人に損をかけることをいう、芝居関係者の言葉。
[二] ある物や人などを、ある状態、用途、方角などに対応させて用いる。また、ある役目、作業などを指示する。
物事をある目的に使うようにあてはめる。物をある目的、用途に使う。充当する。
※南海寄帰内法伝平安後期点(1050頃)一「凡そ水に浄触を分つ〈略〉浄をは非時の飲用に擬(アツ)
※平家(13C前)八「羶肉(なまぐさきしし)・酪(らく)のつくり水もって飢渇にあつ」
② うまく対応するようにする。また、対応するように分け配る。
落窪(10C後)三「経一部を一日にあてて、九部なんはじめたりける」
③ ある役目や仕事などを担当させる。
※宇津保(970‐999頃)祭の使「かくて、その日の御節供(せっく)、よき御庄ある国々の受領(ずりゃう)にあてられたり」
④ 場所がある方角にあるように位置をとる。
※平家(13C前)七「山をうしろにし、山をまへにあつ」
⑤ (「目をあてる」の形で用いる) ある物に視線を向ける。多く打消を伴って用いる。
方丈記(1212)「くさき香(か)世界にみち満ちて、変りゆくかたちありさま、目もあてられぬこと多かり
⑥ 何かをやらせたり、質問に答えさせるために指名する。
※彼岸過迄(1912)〈夏目漱石〉風呂の後「中(ア)てられさへすれば、必ず起立して訳をつけた」
⑦ 郵便物の送り先の人を指定する。
※油地獄(1891)〈斎藤緑雨〉一「出席の由を幹事へ宛(ア)てて申入れた」
[三] ねらいや望みをその通りに実現する。
① 矢や弾丸などをねらった所にうまくぶつける。命中させる。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「柳の葉を百(もも)たび射あてつべき舎人(とねり)どもの」
② 事実を正しく推測したり計算したりする。また、正しい答えを考えつく。
※洒落本・跖婦人伝(1753)「十露盤(そろばん)にあてて見れば」
③ 物事をうまくいかせる。事業、商売、興行などを予定どおりに成功させる。
※評判記・役者口三味線(1699)京「どのしばゐにも、一あてづつあてる事、是藤十郎をまなぶにあらずや」
④ くじや懸賞の催しで、当籤(とうせん)する。
※「佐久間ダム見学記について」について(1955)〈杉浦明平〉「バクチで当てることをのぞんではならぬ」

あ・つ【当・中・充・宛】

〘他タ下二〙 ⇒あてる(当)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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