弱法師(読み)よろぼうし

精選版 日本国語大辞典 「弱法師」の意味・読み・例文・類語

よろ‐ぼうし ‥ボフシ【弱法師】

[1] 〘名〙
① よろよろした法師。よろよろした乞食坊主。よろぼし。
※説経節・説経しんとく丸(1648)下「『これなるこつがいにんな、物おくはぬか、よろめくは。いざやいみゃうおつけん』とて、よろほうしとなおつけ」
近世に行なわれた遊戯。縄を二人の足に結びつけ、互いに引きあって勝負を争うもの。
※日次紀事(1685)正月「或繋縄於両人之而互引之、是謂透逃子(ヨロホウシ)
[2] 謡曲。四番目物。各流。観世十郎元雅作。クセは世阿彌作。河内高安の里の左衛門尉通俊は、ある人の讒言(ざんげん)を信じて子の俊徳丸を追い出すが、後になってあわれに思い、子の二世安楽を念じて天王寺で施行をする。俊徳丸は今は盲目のこじきとなって弱法師と呼ばれているが、折りしも天王寺を訪れこの寺の縁起などを語る。それを見て通俊はわが子と気づくが、人目をはばかって夜になってから親子の名乗りをあげ、ともに高安に帰る。よろぼし。

よろ‐ぼし【弱法師】

(「よろぼうし(弱法師)」の変化した語)
[1] 〘名〙 =よろぼうし(弱法師)(一)①
※世阿彌筆本謡曲・弱法師(1429頃)「これにいでたるこつかいにんは いかさまれいのよろほしか」

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デジタル大辞泉 「弱法師」の意味・読み・例文・類語

よろぼし【弱法師】[作品名]

謡曲。四番目物観世元雅作。大坂の天王寺で高安通俊が、諦観に身を置く弱法師という盲目の乞食こじきに会い、それがわが子の俊徳丸と知る。よろぼうし。
日本画家、下村観山の代表作。絹本金地着色による六曲一双の屏風びょうぶの一場面で、盲目の俊徳丸が四天王寺で日想観を行う姿を描いたもの。大正4年(1915)制作で、再興第2回院展の出品作。国指定重要文化財。
三島由紀夫の戯曲。モチーフとする1幕の近代劇。昭和35年(1960)、「声」誌に発表。昭和40年(1965)初演。「近代能楽集」の8作目。

よろ‐ぼし【法師】

よろぼうし」の音変化。
「これに出でたる乞丐人こつがいにんは、いかさま例の―か」〈謡・弱法師
[補説]作品名別項。→弱法師

よろ‐ぼうし〔‐ボフシ〕【弱法師】

よろよろ歩く法師。よろぼし。
「―わがかど許せもちの札/其角」〈猿蓑

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「弱法師」の意味・わかりやすい解説

弱法師
よろぼし

能の曲目。「よろぼうし」ともいう。四番目物。五流現行曲。金春(こんぱる)流は明治初期の復曲。他流も元禄(げんろく)(1688~1704)ころに再興したものとされる。世阿弥(ぜあみ)の長男、観世元雅(かんぜもとまさ)作。ただしクセの部分は世阿弥の作。河内(かわち)国(大阪府)高安の里の高安通俊(みちとし)(ワキ)は、人の讒言(ざんげん)を信じわが子を追放したことを悔い、天王寺で7日間の施しをしている。彼岸会(え)のにぎわいのなかに、盲目となり、乞食(こじき)の身となった俊徳丸(しゅんとくまる)(シテ)が現れ、梅の香にひかれつつ施行(せぎょう)を受け、天王寺の縁起を語る。彼岸中日の落日に極楽を念ずる日想観(じっそうかん)に続き、心眼に映る難波(なにわ)の景色に興奮した俊徳丸は、人々に突き当たり、盲目の境涯を思い知る。わが子と気づいていた父に伴われ、彼は故郷へと帰ってゆく。逆境にありながら、梅の香りのような詩心と、澄んだ諦観(ていかん)を失わぬ少年(青年の風貌(ふうぼう)の能面もある)として演出されるが、創作当時は妻を伴って出る脚本であった。影響を受けた後世浄瑠璃(じょうるり)に『弱法師』『摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』などがある。

[増田正造]

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改訂新版 世界大百科事典 「弱法師」の意味・わかりやすい解説

弱法師 (よろぼし)

能の曲名。四番目物観世元雅(もとまさ)作。ただしクセは世阿弥作らしい。シテは俊徳丸。河内の高安に住む高安通俊(みちとし)(ワキ)は,人の告げ口でわが子の俊徳丸を追い出したが,それを後悔して,功徳のため天王寺で7日間の施しを行った。その施行(せぎよう)の場に,弱法師と呼ばれている盲目の少年(シテ)が来て施しを受ける。弱法師は乞食の身ながら,梅の匂いに気持ちを通わす清純な心の持主で,天王寺の縁起を説く曲舞(くせまい)を語って聞かせる(〈クセ〉)。日暮れになると,弱法師は入り日の方角の西方極楽浄土を拝み,難波の浦の美しい景色の数々を心眼に受けとめて悟りきったようすだが,盲目の悲しさに時に物狂おしいていも見せるのだった(〈中ノリ地・ロンギ〉)。通俊は弱法師が俊徳丸のなれの果てと気づき,父と名のって家へ連れ帰る。盲目の少年を描くが悲惨さはほとんどなく,むしろ澄みきった心境を強調しているかに見える。聞きどころのクセが美しい。人形浄瑠璃《摂州合邦辻(せつしゆうがつぽうがつじ)》等の原拠となった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「弱法師」の意味・わかりやすい解説

弱法師
よろぼし

能の曲名。四番目物 (→雑物 ) 。各流現行。観世十郎元雅作。季は春。河内国高安の里の左衛門尉通俊 (ワキ〈素襖上下,小刀〉) は,人の告げ口でわが子の俊徳丸を追出したが,のちになって気にかかり,天王寺で7日間の施行を行う。満参の日にあたり,供人 (間狂言〈長上下,小刀〉) になお施行を命じる。悲しみのあまり盲目となり乞食に身を落し,弱法師と呼ばれていた俊徳丸 (シテ〈弱法師の面,黒頭,水衣,杖〉) は,おりしも寺に来て施行を受け,寺の縁起などを語るうち,父はわが子と気がつくが,昼は人目もあり,観法の一つ,日想観 (にっそうかん) を子にすすめる。弱法師は見えぬ目であたりの風景を賞しながら狂い舞う (イロエ) 。夜ふけて訪れた通俊は,親子の名のりをし,俊徳丸の手をとって高安の里へ帰っていく。小書 (こがき) に「盲目之舞」 (観世,金剛) ,「双調之舞」 (宝生) ,「舞入」 (喜多) などがある。典拠未詳。巷説による創作か。浄瑠璃その他へ影響した。

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百科事典マイペディア 「弱法師」の意味・わかりやすい解説

弱法師【よろぼし】

能の曲目。〈よろぼうし〉とも。四番目物。狂乱物。観世元雅作。クセは世阿弥作。五流現行。讒言(ざんげん)で家を追われ,盲目となって天王寺の乞食の群れに身を投じながら,清らかさと風流心を失わぬ少年俊徳丸を描く。心眼に映る難波の浦の落日に興奮して狂うところが見せ場。人形浄瑠璃《摂州合邦辻》の原作。
→関連項目狂乱物

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世界大百科事典(旧版)内の弱法師の言及

【能面】より

…平太(へいた)と中将は特に武将の霊に用い,頼政や景清,俊寛など特定の人物への専用面も現れた。喝食(かつしき),童子など美貌若年の面のなかにも,蟬丸や弱法師(よろぼし),猩々(しようじよう)といった特定面ができてくる。(4)は最も能面らしい表現のものといわれ,若い女面として小面(こおもて),増(ぞう),孫次郎,若女の4タイプがあり,それぞれ現在は流派によって使用を異にしている。…

【信徳丸】より

…純粋に仏教的な霊験を語る話ではあるが,継母の讒言や奸計によって盲目となる太子には,後の信徳丸の面影がある。能の《弱法師(よろぼし)》もまた忘れてはならぬ作である。さる人の讒言とあって継母の姿はないが俊徳丸の名が見え,天王寺の西門,右の鳥居を舞台とする日想観(につそうかん)信仰が取り入れられ,盲目の俊徳丸の心眼に映る四方の景観が,そのまま悉皆(しつかい)成仏の浄土を思わせる美しさに輝く。…

※「弱法師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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