弁慶物語(読み)べんけいものがたり

改訂新版 世界大百科事典 「弁慶物語」の意味・わかりやすい解説

弁慶物語 (べんけいものがたり)

御伽草子。鬼子(おにご)としての弁慶出生から,御曹司(おんぞうし)義経の供をして奥州へ下るまでの物語。熊野別当弁心が熊野権現若王子(にやくおうじ)から賜った若一(にやくいち)が,成長して比叡に登山し,乱暴をはたらき,みずから武蔵坊弁慶を名乗る。山を追い出されてから洛中を暴れまわり,いさかい修行のため諸国を巡る途次,越前平泉寺や播磨書写山で乱暴をし,京の町で御曹司と再三邂逅(かいこう)し,ついに主従の契約をなす。捕らえられた師の慶俊の身替りとして六波羅方に捕らえられて大力を発揮して戦い,洛中に居て迷惑をかけるよりはと,御曹司の供をして奥州へ下って行く。主人公たちをめぐって,弁慶の育ての親五条大納言,叡山の老僧俊海,三条の小鍛冶,金(こがね)細工の吉内左衛門延貞,腹巻細工の三郎左衛門吉次,徳人(とくにん)の行春,その女房,平泉寺の長吏,太政入道浄海,小松の重盛,瀬尾十郎,家臣の吉内左衛門,その子五郎兵衛などが登場する。穂久邇文庫蔵の絵巻《武蔵坊弁慶物語》(仮題。1巻)は残闕(ざんけつ)ながら,最古伝本とされ,熊野信仰背景とする長大な語り物が室町初期から存したことをうかがうことができ,後の〈自剃(じぞり)弁慶〉〈橋弁慶〉などの短編母胎ともなった。室町期の絵巻,写本をはじめ伝本も比較的多く,結びの奥州下りが《義経記》とも《十二段草子》とも異なるのをはじめ,義経を〈小男〉とし,具体的な兵法の描写に富むなど,重要な問題点を多く含む作品である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「弁慶物語」の意味・わかりやすい解説

弁慶物語
べんけいものがたり

室町時代の物語草子。作者,成立年未詳。2巻。源義経伝説の主要人物である弁慶の出生から出家,千人切りを経て義経の家来となるまでを記す。巨人出生説話や千人切りなどを含む武勇談。『義経記』巻三の弁慶伝と同材。なお類似の作に『橋弁慶』『じぞり弁慶』がある。

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