座繰製糸(読み)ざぐりせいし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「座繰製糸」の意味・わかりやすい解説

座繰製糸
ざぐりせいし

座繰器による製糸方法のこと。座繰器とは、歯車仕掛けの木製の簡単な繰糸(くりいと)の道具である。煮繭鍋(にまゆなべ)から繭の糸目を枠にかけて手で回すと、糸枠回転して糸を巻き取る。座繰器には俗に毛撚(けよ)りとよばれる付属品がついており、4、5粒の繭を1本の生糸にした。座繰製糸は、近世末期には手繰(てぐ)りにとってかわり支配的な生糸の生産方法となり、近代に入ると器械製糸の普及に対応して改良座繰(足踏み法)が出現し、農家副業の道具として普及した。とくに碓氷(うすい)社など組合製糸の普及した群馬県などでは明治中期まで主要な製糸道具として用いられ、その後も器械製糸に対抗しつつ長く存続した。

[春日 豊]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

山川 日本史小辞典 改訂新版 「座繰製糸」の解説

座繰製糸
ざぐりせいし

生糸生産の技術形態の一つ。繰糸工が繰糸と同時に糸枠を回転させる点が器械製糸と異なるが,回転をベルト(奥州座繰)や歯車(上州座繰)で加速させる点が在来の手挽(てびき)と異なる。数人以上の座繰マニュファクチュアもあったが,家内工業として行われるのが普通だった。幕末開港以後,各地に座繰技術が普及し,器械製糸が普及してからも両者の生産力格差が大きくないことから,明治末期まで生産量は増加し続けた。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「座繰製糸」の解説

座繰製糸
ざぐりせいし

幕末から明治初期に普及した生糸の製法
開国後の輸出で生糸需要が増大したのに対応し,木製で繰りわくが歯車で回転し,従来の胴繰りや立作業の手挽きを能率化した。動力人力,まれに水力による。明治中期,機械製糸に移行

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世界大百科事典(旧版)内の座繰製糸の言及

【片倉兼太郎】より

…信濃国諏訪郡川岸村の豪農片倉市助の長男に生まれ,1876年家督を継いだ。73年に10人繰りの座繰製糸を始め,78年には32人繰り器械製糸所を設立した。翌79年に製糸結社開明社を平野村の尾沢金左衛門,林倉太郎らと作り,横浜と直接取引をしつつ経営を拡大した。…

【産業革命】より


[製糸業]
 工業のなかで最多数の工場労働者を吸引した製糸業は,欧米の生糸需要に誘引されて1870年代後半から工場生産を開始し,90年代以降は対アメリカ輸出依存度を高めつつ急速に発達し,1905‐09年にはアメリカ市場においてヨーロッパ糸および中国糸を凌駕して,日本の貿易収支を支える最大の輸出産業としての地位を確立した。この間,初期の官営模範工場の富岡製糸場や小野組の器械製糸会社が不振に陥ったのに代わって,洋式器械を模造した繰糸器と蒸気力または水力を用いた工場制の器械製糸と,在来の座繰器を改良し,揚返しまたは荷造り工程だけを工場化した問屋制または組合組織の座繰製糸という,二つの形態が各地に発展したが,1890年代以降の生糸輸出の発展を主導したのは器械製糸,とくに長野県諏訪地方を中心とする緯糸用普通糸を作る器械製糸であった。1900年代後半には,片倉製糸など諏訪糸大製糸による普通糸の優良化と,それまで普通糸生産の周辺にあった郡是製糸などの優等糸生産とが相まって経糸市場へも進出し,アメリカ市場を制覇していった。…

※「座繰製糸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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