(読み)ヒサシ

デジタル大辞泉 「庇」の意味・読み・例文・類語

ひ‐さし【×庇/×廂】

建物の窓・出入り口縁側などの上部に張り出す片流れ小屋根のき
帽子の、額の上に突き出た部分。つば。
庇髪ひさしがみ」の略。
寝殿造りで、母屋もやの外側に張り出して付加された部分。周囲に妻戸などをたて、外に縁を巡らす。庇の。入りがわ
[類語]屋根ルーフドーム屋上いらか板屋草屋根鉄傘丸天井丸屋根円蓋

ひ【庇】[漢字項目]

人名用漢字] [音]ヒ(呉)(漢) [訓]かばう ひさし
上からおおうようにして守る。かばう。「庇蔭ひいん庇護高庇
ひさし。「雪庇せっぴ

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精選版 日本国語大辞典 「庇」の意味・読み・例文・類語

かば・う かばふ【庇】

〘他ワ五(ハ四)〙
① 他から害を受けそうなもの、また、他から悪く思われそうなものを、そうならないように守ってやる。いたわり守る。
平家(13C前)八「各々は誰(たれ)をかばはんとて、軍をばし給ふぞ」
② 大事にしまっておく。外から隠して大事にする。〔俚言集覧(1797頃)〕
和英語林集成初版)(1867)「ダイコンヲ ツチニ kabatte(カバッテ) オク」

かばい かばひ【庇】

〘名〙 (動詞「かばう(庇)」の連用形名詞化) かばうこと。いたわり守ること。また、倹約すること。
洒落本・やまあらし(1808)一「こいつがあるとわたし舟と仮橋で二文かばいができるし」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「庇」の意味・わかりやすい解説


ひさし

ときに廂の字をあてる。二義あり、(1)は寝殿造などにおいて身舎(しんしゃ)(本屋)の周辺に張り出した建築空間をいい、(2)は建築物において出入口、窓などの上に日差しや雨水を遮るために部分的に設けられた突出物をいう。(1)古代住居はおしなべて単室(これが身舎にあたる)であるが、日本のように架構式木造建築方式をとるところでは、その平面を拡大しようとしても梁(りょう)間の関係からおのずから限度があり、身舎の周辺に一段低く縁側状の床を設けてその目的を達しようとした。そのような古い例は奈良時代の藤原豊成(とよなり)邸ですでにみられる。その床の周囲を吹放しとせず蔀(しとみ)や妻戸を建て込んだ空間が寝殿造などでいう庇である。そして、さらに広い空間を必要とするときは庇を二重に張り出すこととし、その部分を孫庇(まごびさし)、又庇(またびさし)などとよぶ。庇の周囲にはさらに濡縁(ぬれえん)を巡らし、高欄(こうらん)を取り付けるのが普通である。庇は身舎の一方だけに設けることもあれば二方向以上に設けることもあり、それぞれの方向によって南庇、北庇などといい、身舎をも含め南側空間は公式行事の場、北側は私生活の場というような機能分化も行われるようになる。京都御所紫宸殿(ししんでん)は江戸末期の復原ではあるが、このような寝殿造のもっとも完成した形を示している。(2)庇の屋根は身舎の屋根の延長ではなく、それよりも一段低く勾配(こうばい)も緩くして張り出されるのが本来の形で、これは一般建築における開口上部の突出物と同じ扱いであるから、その点で第二の意味と語義が共通する。一般建築にいう庇の構造は雨水に対する配慮から屋根と同じ扱いになるが、日照調整のためには夏至(げし)および冬至の太陽高度(東京付近では正午真南に対し73度および30度近辺)を基本として庇の深さや勾配を決めるとよい。なお窓上に設ける、とくに小さい庇を霧庇(きりびさし)とよぶことがある。これらの庇は躯体(くたい)(柱や壁体)から水平に突出した腕木で支えるのが普通である。したがって腕木は根本では固定されるが先端では持ち放しとなり、庇に重い積雪があった場合などには垂れ下がるおそれがあるので構造上の注意を要する。

 帽子の額上に差し出した部分をも「ひさし」とよぶが、その効用も一般建築における庇と似ている。

[山田幸一]

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改訂新版 世界大百科事典 「庇」の意味・わかりやすい解説

庇 (ひさし)

現在では雨よけのための差掛け屋根を庇と呼ぶが,元来,殿舎の主体部分である母屋(もや)の周囲をめぐる空間を庇といった。用語としては奈良時代後期の文献が初出である。平安時代前期までの住宅は切妻造が主流で真屋(まや)と呼ばれ,寄棟造である東屋(あずまや)よりも格式の高いものとされていた。切妻造の殿舎では構造上,梁間(はりま)2間(6m前後)が一般的であったので,広い空間を造ることは困難だった。そこで殿舎の前後,または左右に庇を取り付けることによって内部空間の拡大がはかられるようになる。平安時代の貴族住宅である寝殿造では,母屋の四周に庇がめぐらされ,母屋・庇による空間構成の完成した姿をみせている。庇を付けてもなお内部空間が足りない場合は,さらに孫庇(まごびさし)が付加された。吹放しの孫庇は広庇(ひろびさし)と呼ばれ,東西の対屋(たいのや)の南端はこの形式が多い。

 一方,中国から伝えられた仏教建築は当初から母屋・庇による空間構成を持っていたが,それに対応する古い建築用語は伝わっていない。あるいは初期の仏教建築においては,内部空間を二つの部分に分けて把握することは行われていなかったのかもしれない。中国系の仏教建築と日本古来の住宅建築とは系統を異にしながら併存するが,住宅建築も庇の発達によって,平安中期には母屋・庇による構成をその基本とするようになって,仏教建築の構成と同一化する。そして逆に仏教建築も,内部空間を母屋と庇の2部分に分けて把握されるようになる。なお,母屋は平面の中心部を占め,また内部空間も庇よりは一段高くなるから,一般には庇よりも格式の高い空間として位置づけられる。たとえば仏堂などで庇は化粧屋根裏なのに対して,母屋は格天井(ごうてんじよう)をはるといった例が多くみられる。
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家とインテリアの用語がわかる辞典 「庇」の解説

ひさし【庇/廂】

➀玄関など建物の出入り口や窓の上部に部分的に設けた小屋根。雨や日差しを防ぎ、壁面や開口部を守る。
寝殿造りなどで「母屋(もや)」と呼ばれる建物の中心部分の外側に張り出した部分。その外側にさらに「孫庇」「又庇」「広庇」などと呼ばれるものを巡らせることもある。庇の床は母屋と同じ高さになっているが、その外周は一段低くなっていた。「孫庇」「又庇」は外側に建具を備え、部屋としてしつらえるが、「広庇」は普通、吹き放ちとした。

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リフォーム用語集 「庇」の解説

開口部の上に取り付けられる雨よけ用の小型の屋根のこと。日本建築では、主にモルタル壁等の近代的な壁仕上げの家によく見られる、ろく庇と、日本の伝統工法に多く用いられ、意匠的に造られることも多い腕木庇がある。また、近年では、アルミやステンレス製で出来た、簡単に取付ける事の出来る金属製のものもある。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【間面記法】より

…建物の平面規模を表す方法の一つで,平安時代に用いられた。当時の建物は内部空間が母屋(もや)(身舎)と(ひさし)から構成されており,母屋の桁行(けたゆき)が何間で,その何面に庇が付くかによって全体の規模がわかる。母屋の梁間は2間が普通であるから,とくに表示する必要はない。…

【社寺建築構造】より

…それ以上の6間,7間のものは,もとは奥行4間の建物の前に礼堂(らいどう)や拝殿のような礼拝用の建物を双堂の形式で建てていたのが,後に一つ屋根の下に納めるようになったものである。仏堂,社殿の平面のうち,中心部の柱の高いところを母屋(もや)と呼び,その外側にある柱の低いところを(ひさし)と呼ぶ。母屋は桁行3間あるいは5間に梁行2間の規模のものが多く,これに庇がつく。…

【母屋】より

…古くは身屋,身舎と書く。(ひさし)に対する語で,殿舎または仏堂の中央部分をさす。古代から中世にかけての仏堂や,平安時代の寝殿造住宅などは,中央部の高い空間を持つ母屋と,その周囲をとりまく一段低い空間の庇によって構成されるのが原則だった。…

※「庇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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