広益国産考(読み)こうえきこくさんこう

改訂新版 世界大百科事典 「広益国産考」の意味・わかりやすい解説

広益国産考 (こうえきこくさんこう)

江戸後期の農書。著者は同時代の農学者大蔵永常。1859年(安政6)に全8巻が版行された。著者最晩年の書で,幕末から明治初期の農業技術の発達に大きく寄与した。永常は,ハゼノキ栽培・加工を説いた処女作《農家益》の版行以来,ハゼノキ,カンショ,綿,イグサアブラナなどの特用作物の栽培・加工に関する著作を多数ものしているが,本書はこれら特用作物にとどまらず,諸国の特産物となるべき樹木果樹,茶,養蚕,養蜂,製紙,ノリ,土人形製造などの技術も詳述した,永常農学の集大成である。永常の農学思想は,本書総論に〈国を富しむるの経済ハ,まづ下民を賑し,而して後に領主の益となるべき事をはかる成べし〉とあるように,まず農家経済を改善したうえで一国の繁栄を企図する点に最大の特色がある。本書はこの思想を具体化する諸技術の集大成であったともいえる。岩波文庫,《日本農書全集》所収
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「広益国産考」の意味・わかりやすい解説

広益国産考
こうえきこくさんこう

農学書。著者は大蔵永常(おおくらながつね)。彼の生涯最後の集大成である。全8巻よりなり、1859年(安政6)に刊行された。ただし、この第1および第2巻にあたる部分は、『国産考』上下として1842年(天保13)に出版されており、全巻の執筆を終えたのが1844年(弘化1)である。一之巻では、国産(特産)奨励を述べた総論のあとに、紙、コウゾ(楮)をはじめ、30余りの特産の解説と、その加工についての記述が続く。二之巻はスギヒノキ、マツそして砂糖、三之巻はイグサ、イチビ、四之巻はヤマイモワラビカキなど、五之巻は醤油(しょうゆ)、灯油、蝋(ろう)綿、養蚕など、そして六之巻では、特産は作物に限らないとして、人形の作り方などが紹介されている。また海苔(のり)、茶もここで扱われる。七之巻は主として織物であるが、養蜂(ようほう)なども書かれている。八之巻は果樹の仕立てが主である。大蔵永常の説明は、彼が実際に試みた体験などがもとになっており、きわめて具体的である。挿絵も美しく、宮崎安貞の『農業全書』とともに江戸時代二大農書といわれる。

[福島要一]

『飯沼二郎編『日本農書全集14 広益国産考』(1978・農山漁村文化協会)』


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百科事典マイペディア 「広益国産考」の意味・わかりやすい解説

広益国産考【こうえきこくさんこう】

江戸時代の農学者大蔵永常の晩年の著書。初め《国産考》2巻として1842年刊。後これを含めた《広益国産考》8巻として1859年刊。永常は工芸作物に関心をもち,各藩における殖産興業政策の要請と相まって,製糖,製蝋,繊維・油料・染料作物や果樹などの栽培から製品に至る技術を図入りで説明。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「広益国産考」の解説

広益国産考
こうえきこくさんこう

大蔵永常(ながつね)の農学書。8巻。第1・2巻は既刊の「国産考」にあたり,全巻脱稿は1844年(弘化元)。永常死後の59年(安政6)に全巻刊行。1巻は特用作物と農具一覧,2巻以下に栽培・加工を説明。日用の食用作物・果実・嗜好作物のほか,養蚕・織物・砂糖・紙・櫨蝋(はぜろう)などに関する60種に及ぶ産物とその加工技術を詳述。農家の自立経営の安定向上が一国の利益になるとする農学思想のもと,加工原料作物の栽培,国産の奨励をして殖産興業をめざす。近世後期から進展めざましい商品貨幣経済に対応した商業的農業を提唱するすぐれた技術論である。「岩波文庫」所収。

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旺文社日本史事典 三訂版 「広益国産考」の解説

広益国産考
こうえきこくさんこう

江戸後期,大蔵永常の農学書
8巻。初め『国産考』として1842年出版,その後『広益国産考』と改題し,'59年全巻刊行。商品経済の発達に対応して,農家経営の安定向上をはかり,それを通じて広く国益の増進をはかろうとした当代の農学思想の一異彩である。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「広益国産考」の意味・わかりやすい解説

広益国産考
こうえきこくさんこう

大蔵永常著。8巻8冊。『国産考』ともいう。天保 13 (1842) 年より刊行。各地の工芸作物の栽培を奨励し,特産品として発展すると,農家の経営が豊かになる点を述べている。『岩波文庫』所収。

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