日本大百科全書(ニッポニカ) 「広報」の意味・わかりやすい解説
広報
こうほう
政府、行政機関、企業、労働組合、学校、PTAなど諸団体が、国民、消費者、住民など社会のいろいろな人々に向けて、自らの考え方、計画、実際の諸活動を知らせること。
広報=PR(public relations)としても用いられるが、これは、第二次世界大戦直後から数年にわたり、連合国最高司令部(GHQ)がわが国民主化政策の一環として行政機関にPRオフィスの設置を指示した際、行政機関の多くが、PRの理念・概念の理解や広聴活動に注目する以上に、情報伝達としてPRを受け入れたこと、また、GHQが広聴活動の重要性を指摘しながらも、とくにパブリック・インフォメーションの意義を強調していたことにも原因がある。広報は、当初「弘報」と書かれたが、当用漢字制限上「公報」へ、さらに公報に上意下達的な語感があったことから、1950年代にはしだいに「広報」とされるようになった。
[小倉重男]
情報の真実性
広報活動では、提供する情報の真実性がつねに問題とされる。すでに1954年(昭和29)小山栄三は、事実の歪曲(わいきょく)、虚偽、誘導は「その名に値しない」と論じた。67年井出嘉憲(よしのり)は、このコミュニケーションについて、(1)真実性、(2)公共利益合致、(3)相互過程(ツー・ウェイ・コミュニケーション)、(4)人間的接触、の4原則を示した。しかし、広報活動では、真実の提示の重要性は認められながらも、自己利益になる情報は流しても、都合の悪い情報は隠すという傾向が強く、また、情報伝達により世論操作を行おうとする動きも存在し、広報活動が疑念をもたれる例も多い。
この点から、アメリカで1967年から施行された情報自由法による政府情報の公開制度は、社会に大きな影響を及ぼし、政府機関の広報活動にも重要な意味を添えた。市民の請求があれば原則としてどのような政府情報も公開しなければならなくなったことは、政府に不利な情報も制度的に隠しえなくなったことである。この制度と広報活動の結合により、情報の提供活動の実際は、真実性の理想に向かって大きく踏み出したことになる。民主主義が真実の情報のもとにつくりあげられる世論を基盤とすべきことは、政府とともに今日、社会的影響力の絶大な産業界の情報公開の制度化にもつながる。この課題は、先進民主主義国共通の課題であり、わが国の政府、自治体、産業界もまた例外ではない。
[小倉重男]
活動手段
広報活動の手段として次のものがあげられる。パブリシティー(報道機関への情報提供)、マスコミ広告、PR紙・誌、PR映画、VTR、スライド、ポスター、パンフレット、リーフレット、カレンダー、掲示板、報告書(営業、年次など)、株主総会、オープン・ハウス(工場見学など)、講演会、討論会(シンポジウム)、懇談会、展示会、博覧会、催事、文化・慈善・教育事業、ロビイングなど。広報活動は組織の内外に向けて行われる。このような広報活動は、情報、意見の取り入れ活動である世論調査、内外のデータ(統計、報告、実情)収集、提案制度、意見・苦情受付(投書、電話、来訪)などの広聴手段とともに、PRにおけるコミュニケーションの二大手段である。
直接人間同士の接触が保てる方法を広報・広聴手段から取り出し、「参加・交流」手段とする分類もある。その典型は討論会(シンポジウム)である。広報、広聴の諸手段は、人間の直接的な接触や媒体、制作物を結合することによって、コミュニケーション活動の相乗効果を高めることを可能とする。
[小倉重男]
『小山栄三著『広報学』(1954・有斐閣)』▽『井出嘉憲著『行政広報論』(1967・勁草書房)』▽『小倉重男著『PRを考える』3版(1983・電通)』▽『村上好重著『企業広報学入門』(1982・紀尾井書房)』▽『松岡紀雄著『海外広報の時代』(1982・経済広報センター)』