日本大百科全書(ニッポニカ) 「幽霊(イプセンの戯曲)」の意味・わかりやすい解説
幽霊(イプセンの戯曲)
ゆうれい
Gengangere
ノルウェーの劇作家イプセンの三幕戯曲。1881年発表。前作『人形の家』(1879)が結婚と家庭を破壊するものとの世間の非難に答えて、虚偽の結婚生活を続ければ、いかなる非惨な結果が生じるかをえぐった作品。主人公アルビング夫人は愛のない結婚に耐えかねて家を飛び出すが、牧師に説かれて戻り、身を持ち崩して廃人化した夫に仕え、その死後は遺産を投じて夫を記念する孤児院まで建てる。しかし孤児院は焼け落ち、夫の病毒を受けていた息子オスワルドは失明に瀕(ひん)して「おかあさん、太陽を」と叫んだまま狂い死ぬ。過去の亡霊がまだ生きてたたっているのだ。前作以上に社会の腐敗と悪をあばき、遺伝の問題も絡ませ、もっとも力強い効果をあげている。日本では1912年(明治45)有楽座で演芸同志会が初演。
[山室 静]
『竹山道雄訳『幽霊』(岩波文庫)』