幼生器官(読み)ようせいきかん(英語表記)larval organ

精選版 日本国語大辞典 「幼生器官」の意味・読み・例文・類語

ようせい‐きかん エウセイキクヮン【幼生器官】

〘名〙 動物幼生期にのみみられる器官で一時的な器官の一つ。変態後あるいは成体では退化消失する器官。オタマジャクシの尾、ホヤの尾、昆虫幼虫の腹脚・気管鰓など。

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デジタル大辞泉 「幼生器官」の意味・読み・例文・類語

ようせい‐きかん〔エウセイキクワン〕【幼生器官】

動物の幼生期にはあるが、変態後に消失する器官。おたまじゃくしの尾・えら芋虫の腹脚など。一時的器官。

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改訂新版 世界大百科事典 「幼生器官」の意味・わかりやすい解説

幼生器官 (ようせいきかん)
larval organ

多細胞動物の発生過程において,幼生の時期のみにみられる器官で,変態の過程で消失するもの。昆虫ではこれを幼虫器官と呼ぶ。人間の生活に最もなじみの深い幼生器官は,カエル類のオタマジャクシ幼生の尾であろう。しかしオタマジャクシがカエルになる過程で捨てるものは尾だけではなく,実は口器も脱落し,体内ではえらが退化しているのである。このほか大部分の幼生がそなえている繊毛や繊毛環なども変態時に失われる場合が多い。

 しかし,なんといっても幼生器官として最も著しいものは,ひも形動物のピリディウム幼生および完全変態をする昆虫類の幼虫の外胚葉由来の諸器官であろう。系統的にも遠く隔たったこの2群の動物の幼生では,あるいは変態に際し(ひも形動物),あるいは発生の初期の幼虫諸器官の形成と並行して(昆虫),外胚葉が数ヵ所で幼虫の体内に陥入し,成虫盤(成虫原基)と呼ばれる構造をつくる。ひも形動物では成虫盤はそのまま発達して,互いに連続しながら原腸を包み込み,やがて羊膜に包まれ,幼生からは完全に独立した稚個体をピリディウム幼生の内部につくり上げてしまう(図)。昆虫の成虫原基は,幼生の体内では表皮と細い管でつながれて未分化のままとどまるが,蛹化(ようか)脱皮を促すホルモンであるエクジソンの刺激に応じて急激な発達をみせて翻転し,幼虫の体表の諸器官と置きかわる。

 幼生器官の中で系統的に最も意義深いのは軟体動物,環形動物など真体腔類・端細胞幹に属する動物群のつくるトロコフォラ幼生のそれである。この幼生の体制は原体腔を特徴とするものであり,これを系統的にみれば,より原始的な線形動物扁形動物の体制に相当するということができる。その体腔中には成体の中胚葉をつくる母細胞が待機しており,これが変態時に急激に分裂して成体の真体腔をつくり上げる。この真体腔は,これより高等な動物群の体制を特徴づけるものである。変態に伴う真体腔の発達によって原体腔は完全に失われはしないものの,成体の一部に押しやられてしまい,原体腔に特徴的な原腎管は退化し,真体腔に付随する腎管がこれにとってかわることになる。これらの現象は個体発生は系統発生をくり返すと考えさせるゆえんの一つである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「幼生器官」の意味・わかりやすい解説

幼生器官
ようせいきかん
larval organ

動物の幼生期にのみ現れ,変態後消滅する器官。昆虫の場合は幼虫器官という。例として,おたまじゃくしの尾・鰓,ホヤの幼生の尾,環形動物のトロコフォラの繊毛環・原腎管,昆虫の幼生の腹脚・気管鰓などがあげられる。

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