平衡機能検査(読み)へいこうきのうけんさ

四訂版 病院で受ける検査がわかる本 「平衡機能検査」の解説

平衡機能検査

■眼振検査

50㎝離れた医師の指が正面、上下、左右に動くのを注視し、眼のふるえがあるかどうかを調べる。

■体平衡機能検査

靴を脱ぎ、前足かかと後ろ足のつま先をあわせ、開眼時と閉眼時の体の動揺を30秒間みて、からだの動揺、立ち直りを調べる。


めまいの原因や程度を調べる検査です。めまいを誘発する検査も含まれているので、検査中に症状が出た場合は我慢せずに申し出てください。

めまいの原因解明に重要な検査

 めまいの訴えがあるとき、その原因、程度などを調べる検査です。

 めまいは、体の平衡バランスをとる部位(内耳前庭ぜんてい小脳)の障害により感じられるもので、原因により中枢性と末梢性に分けられます。

 末梢性めまいは、回転性(ぐるぐる回る)、発作性、反復性で、メニエール病突発性難聴内耳炎、頭位変換性めまいなど、内耳の変化でおこります。

 中枢性めまいは、非回転性(ふらふらする)、持続性で、小脳の変化、頭部外傷、脳出血、脳梗塞こうそく脳腫瘍などでおこります。

4つの検査を続けて行う

 平衡機能検査は、眼振がんしん検査、体平衡機能検査、視刺激検査、迷路刺激検査に分かれますが、これらすべてを続けて行います。

・眼振検査

 眼振とは、眼球のふるえのことです。

 まず、50㎝離れた医師の指が、正面、上下、左右に動くのを注視します。次に、水中メガネのような眼鏡をかけ、座位およびあお向けに寝て頭を左右・前後に動かしたとき、さらに座位から位、臥位から座位になったとき、眼振が出るか否かを調べます。

・体平衡機能検査

 靴を脱ぎ、前足のかかとと後ろ足のつま先をあわせ、開眼時と閉眼時の体の動揺を30秒間、観察します。次に、足踏み検査と書字検査を行います。

・視刺激検査

 顔の5カ所(額、左右の目尻、左目の上下)に電極をつけ、眼振をグラフに描きます。次に、眼振計のひとつの光を追う視標追跡検査、3点の光の流れを追う視運動性眼振検査を行います。

・迷路刺激検査

 0℃の冷水20mℓを外耳道に注入する温度眼振検査(カロリック検査)を行います。

 すべての検査は、40~50分くらいで終了します。眼振検査では眼振を認めるのが正常ですが、末梢性めまいでは眼振は認めません。書字検査では、末梢性前庭機能が障害されている側に、書いた字が片寄ります。

かかとの低い靴、ズボンで検査を

 検査当日の食事は、軽くしておいてください。常用薬は、服用してかまいません。

 ハイヒール禁止、かかとの低い靴にして、スカートでなくズボンにします。化粧も落としてください。

 また、めまいを誘発する検査も含まれているため、検査中、症状が強く出たときは、我慢せずに申し出てください。

疑われるおもな病気の追加検査は

◆脳腫瘍、小脳腫瘍→頭部CT 、MR 、PET-CT、血管造影など

◆突発性難聴→聴力検査、聴器CT、MRなど

医師が使う一般用語
「へいこうきのう」

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「平衡機能検査」の意味・わかりやすい解説

平衡機能検査 (へいこうきのうけんさ)
equilibrium test

めまいや身体のふらつき(平衡障害),あるいは歩行障害などを訴える患者に行われる検査。めまいや平衡障害を起こす場所としてよく知られているのは,耳,目および足の筋肉,腱などである。たとえば,耳の内耳にある前庭三半規管に病気が起こると,ひどいめまいや平衡障害を起こす。目が関係していることとしては,高いビルの屋上から下を見ると身体がふらつく感じが起こったり,めまいのする人が目を閉じるとめまいがひどくなるというような現象がある。また足の筋肉や腱の知覚(深部知覚系という)が異常になると,平衡感覚がみだれてくる。このように身体の平衡には,耳,目,深部知覚が関係し,しかも,これらが無意識のうちに深く結びついて,いわゆる反射系路を形成している。たとえば内耳に障害が起こると,その情報の一つは内耳神経を伝わって脳(とくに脳幹や小脳)に入り,眼を動かす神経に行く。この反射系路を医学的に前庭動眼反射と呼び,現象的には眼球振盪(しんとう)(眼振という)となって,異常な眼の動きとしてあらわれてくる。これは,正常健康人にはみられない眼の動きで,めまいのある人にはよくみられる現象である。また内耳に起きた障害を伝えるもう一つの情報は,前庭脊髄反射といって,内耳神経を伝わった情報は脳に入り,次に手や足を支配する神経を出している脊髄に伝わる。このため,めまいや平衡障害のある人が,字がうまく書けなかったり,上手に直立したり歩行したりできなくなる。このような解剖的・生理的事実を背景にして,内耳,内耳神経,脳幹,小脳などの,どこにどのような病気があるのかを明らかにするために行われるのが平衡機能検査である。

 したがって,眼振があるかどうかを調べる眼振の検査とか,眼球の運動に異常がないかどうかをみる検査は,きわめて重要な平衡機能検査である。眼振をみる検査には,注視眼振検査,フレンツェルの眼鏡を用いて行う頭位眼振・頭位変換眼振の検査がある。また,体温より低い温度の水や温かい温度の湯を外耳道に注入して,内耳や内耳神経を刺激してその反応をみる検査(温度刺激検査),あるいは身体を回転させて起こる眼振の反応をみる検査(回転検査)が行われる。さらに,眼の前を動くものを見させて,眼の動きに異常がないかどうかをみる検査(視運動性眼振検査,視標追跡検査など)がある。このような眼振あるいは眼球運動は,電気眼振計を用いて記録し,その異常の有無あるいは程度を詳細に検討する。身体の平衡状態をみる検査には,直立検査,足踏検査などがあり,目を開いた状態や閉じた状態でふらふらしないかどうかをみる。また目を閉じて字が書けるかどうかをみる書字検査も行われている。

 歴史的に平衡機能検査が確立されてきたのは20世紀に入ってからで,とくにバーラーニR.Bárányが温度刺激・回転刺激による検査法を発表して以来である。近年,身体の平衡を研究する学問は神経耳科学と呼ばれ,内耳や内耳神経ばかりでなく,脳や脊髄に至るまで幅広く研究されるようになり,器械の発達とともにめざましい進歩を遂げている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の平衡機能検査の言及

【三半規管】より

…無脊椎動物では,前庭だけが存在し,半規管は欠如している。
[三半規管と平衡機能検査]
 三半規管はヒトが頭位を通常の状態で正面を向いているときは,外側半規管は水平面より約30度上方を向いている。したがって,頭を約30度前屈して,外側半規管をほぼ水平の状態として身体を回転させると,外側半規管の中の内リンパの流動が起こり,それが膨大部の感覚細胞に伝わり,さらに前庭神経をへて脳幹や小脳および外眼筋に伝えられる。…

※「平衡機能検査」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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