帰巣性(読み)きそうせい

精選版 日本国語大辞典 「帰巣性」の意味・読み・例文・類語

きそう‐せい キサウ‥【帰巣性】

〘名〙 動物遠くから自分の巣へ帰って来る性質、または能力。普通には、ある動物が日常生活範囲の外へ連れ出されても、再び戻って来る時についていうが、渡り鳥前年繁殖地に戻る場合にまで拡張されることもあり、海鳥など行動範囲の広い鳥が何日間も雛を置き去りにして遠方で採餌した後に帰る場合にいうこともある。帰家性。帰家本能。帰巣本能。→回帰性
鳥獣戯話(1960‐62)〈花田清輝〉三「ただちに世のつねの帰巣性のあらわれであるとみるものではない」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「帰巣性」の意味・読み・例文・類語

きそう‐せい〔キサウ‐〕【帰巣性】

動物が、一定のすみ場所や巣などから離れても、再びそこに戻ってくる性質または能力。ミツバチアリツバメ伝書バトサケなどにみられる。ホーミング。帰家性。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「帰巣性」の意味・わかりやすい解説

帰巣性
きそうせい

動物が自分のすみ場所や巣場所から遠く離れた場合、ふたたびそこへ戻ってくる性質あるいは能力をいう。ミツバチが遠くの餌場(えさば)から自分の巣へ正確に戻ってきたり、伝書バトが何百キロメートルも飛んで鳩舎(きゅうしゃ)へ戻ってくる例はよく知られている。また、渡りや回遊をする動物が自分の生まれた場所や、元の繁殖地に戻ってくる場合には回帰性ということばも使われる。たとえば、ツバメに限らず、渡り鳥の多くは自分の前年の繁殖地または越冬地に戻ってくる。アホウドリ類やミズナギドリ類などの海鳥、またアザラシ類やオットセイなどの海獣類では、繁殖を終えると次の繁殖期までに海洋を何千キロメートルも回遊して、繁殖地の小島へ帰ってくる。ただし、鳥の渡りや魚の回遊という現象は、ミツバチや伝書バトの帰巣性とは、時間スケールや、その行動がもつ適応的意味が質的に異なっている。

 帰巣の能力がなにに基づくものであるかは、まだよくわかっていない場合が多いが、ミツバチでは、いくつもの実験結果から、太陽の方位と体内に備わっている日周期の時間感覚である、いわゆる体内時計によって巣の方向を正確に見定めることができる。サケ・マス類では、自分の生まれた河川の水のにおい(化学成分)を記憶しているためであるといわれる。また、渡り鳥たちは、昼間は太陽の位置、夜は星座を頼りに体内時計で方向を修正しながら渡りを行うらしい。すでに渡りの経験をもつ成鳥ばかりではなく、初めて渡りを経験する幼鳥でさえも、正確に繁殖地と越冬地との往復を行うことは、この能力が単に経験や学習によるものばかりではなく、生得的な基盤をもつ可能性が大きい。

[山岸 哲]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「帰巣性」の意味・わかりやすい解説

帰巣性【きそうせい】

回帰性とも。動物がすみ場所や産卵・育児のための巣などから遠く離れてもそれらの位置を知って戻ってくること。アリ,ミツバチなどの社会性昆虫や伝書バト,またツバメ,ミズナギドリなどの渡り鳥,生れ故郷の川へ産卵のために戻るサケ・マス類などに典型的にみられる。帰巣のメカニズムの詳細は不明な点もあるが,遠距離については太陽コンパスや地磁気を利用した定位,近距離の場合には視覚や嗅覚による空間定位が関与することが明らかになっている。
→関連項目伝書バト

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

知恵蔵 「帰巣性」の解説

帰巣性

回帰性ともいう。動物が遠く離れた繁殖地や越冬地あるいは自分の巣に正しく戻ってくる能力。渡り鳥、サケなどの回遊魚、ミツバチやアリなどの社会性昆虫などでとくによく発達している。太陽の位置をコンパスとして体内時計によって方位を知る方法は、多くの動物に共通するが、そのほかに、地磁気、におい、学習による記憶なども利用していると考えられている。

(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

今日のキーワード

靡き

1 なびくこと。なびくぐあい。2 指物さしものの一。さおの先端を細く作って風にしなうようにしたもの。...

靡きの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android