市参事会(読み)シサンジカイ(英語表記)Stadtrat[ドイツ]

デジタル大辞泉 「市参事会」の意味・読み・例文・類語

し‐さんじかい〔‐サンジクワイ〕【市参事会】

旧制で、市会の代理機関として、議決権一部委任された機関。市長議長とし、市参事会員によって組織された。

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精選版 日本国語大辞典 「市参事会」の意味・読み・例文・類語

し‐さんじかい ‥サンジクヮイ【市参事会】

〘名〙 旧制で、市における市会の補助議決機関。市長、助役および議員の中から選挙される一〇名の参事会員により組織された。市会の権限に属する事件うち、その委任を受けた事項を議決し、また市会の不成立、会議開会不能の場合、市会に代わって議決決定の権限を有した。昭和二二年(一九四七廃止
市制及町村制(明治二一年)(1888)市制「市に市参事会を置き」

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改訂新版 世界大百科事典 「市参事会」の意味・わかりやすい解説

市参事会 (しさんじかい)
Stadtrat[ドイツ]

ヨーロッパ中世都市の市政機関。中世都市を市民の共同体としてとらえようと試みたドイツの学界で,最も普及した学術用語である。都市参事会とも訳される。ヨーロッパとくにドイツの中世都市(都市)では,概して9~11世紀の都市領主支配の時代に続いて市民団体の自治に基づく都市共同体の時代(主として12~13世紀以後)が来るとされ,その共同体の成立をもって中世都市の本格的成立とする説明が有力であった。市参事会は,かかる都市共同体の自治機関として市の行政・裁判権を掌握し,競合ないし併存する他の諸組織を凌駕しつつ,都市を代表する機関に成長した。通例12名(時と場所によって若干の違いがある)の参事会員Ratsherrで構成され,そのなかから1~2名の市長が選ばれていた。この制度の由来や成立の経緯をめぐっては,juratus(誓約者),scabinus(参審人)と呼ばれる役人の団体に淵源を求めるもの,イタリアのコムーネコンソリの制度の影響を考えるものなどさまざまの説明が試みられているが,史料制約もあって必ずしも明らかでなく,かつ個々の都市による差異も大きいと思われる。

 ドイツでは12世紀末ころから形成されはじめ,13世紀なかばまでに約150,同世紀末までにはさらに250ほどの諸都市に普及,14~15世紀にはほとんどすべての都市の自治機関となったとされている(H. プラーニッツの研究による)。参事会員の資格については,当初明確な規定がなく,通例参事会自身による自己補充によって少数の門閥家族(都市貴族)に占められていた。14世紀以降南ドイツの諸都市では,いわゆるツンフト闘争Zunftkampfを経て手工業者が参事会に進出し,あるいは別個の大参事会を併置することで市政への参加ないし掌握をとげる(ツンフト支配体制)という変遷をみた。他方北ドイツでは,門閥による参事会員資格と市政の独占が19世紀にいたるまで存続した。ただし南ドイツに関しても,いわゆるツンフト支配体制の中身が問題とされ,新しく編成されたツンフトに入りこんだ商人などの有力市民が当該ツンフトの代表として参事会に選出されるなど,門閥支配の実態は変わらなかったとする批判もある。参事会員が原則として無給の名誉職であったため,経済的・時間的余裕を欠く手工業者が市政に専念することは事実上不可能であったという説明(E. マシュケなど)がなされている。いずれにしても参事会の政策決定が手工業者のツンフトの意向を無視しては行いえなくなったという事態は注目されてよいであろう。英語ではtown council,フランス語ではéchevinage(échevin,juréなどと呼ばれた都市役人の集合体)とかcorps municipal(市政機関)などという言葉が市参事会に相当すると思われるが,一般的に用いられる共通用語は見当たらない。日本では,室町・戦国期の港町堺,宇治などの会合衆(えごうしゆう)がこれに相当する自治組織であった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「市参事会」の意味・わかりやすい解説

市参事会
しさんじかい

K.シュタインの市制改革によって生れたプロシアの市制や,それを模倣してできた日本の明治時代の市制に存在した会議制による執行機関をいう。日本では 1888年に初めて市制,町村制が制定されたが,市制においては,市長,助役,市会によって選出される6名の参事会員の3者で構成される市参事会が執行機関となった。この市参事会は,1911年の市制,町村制の大改正により執行機関たる独任制の市長が設けられて廃止された。

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世界大百科事典(旧版)内の市参事会の言及

【カビルド】より

…アユンタミエントayuntamientoとも呼ばれ,市参事会と訳される。もともと中世スペインにおいて,地方の都市住民の伝統と特権を代表した機関であったが,新大陸では征服が完了すると創設され,主として都市行政を任務とした。…

【市町村制】より

…市町村には議決機関として市会,町会,村会が設置され,歳出入予算の議定,決算の認定,財産の処分管理などの議決権限をもったが,市町村会は制限選挙の上に市会に三級選挙制(納税額等の多寡により1票の価値に差をつける等級選挙)が,町村会には二級選挙制が採用されており,事実上地方名望家によって支配された。また市には,副議決機関として市長および市会で選挙されたものから構成された市参事会が設置され,市会権限に属するもののうち委任された事件および市会不成立ないし市長に招集する時間的余裕のないときなどに,市会に代わって議決権をもった。この政治制度自体,市長行政権限を優位なものとしたが,市町村には知事の監督権が法定されており,知事は議会(市参事会を含む)の議決・選挙の取消し,強制予算,代執行,その他行政行為の許認可権をもっていた。…

【都市】より

…すなわち防備のために市壁をめぐらし,宗教の中心として教会をもち,それに接して市場広場Marktplatzをもつというのが,中世都市の外観を示す共通の特色である。 しかしそれに加えて中世都市は,各種の特権を集積することによって,封建社会の中でそれぞれの〈都市法〉という独自の自治権をもつ特殊法域を形成し,市政の全般は市参事会制度により自主的に運営された。そのため上記三つの施設のほかに,市参事会の本拠である市庁舎(ラートハウスRathaus)のりっぱさが,その都市の繁栄を示すシンボルとなったのである。…

【都市法】より

…これらの都市の住民はより大きな自立を得るために誓約にもとづく平和〈アイヌング(communioまたはconiuratio)〉すなわち司教の暴力的行為に対する神の平和の誓約に訴えたりしたが,いくつかの司教都市は君主に対する完全な自立を武力によって勝ちとらねばならなかったのである。 中世の後期に入って,都市に市参事会制度が確立すると,市参事会の制定法Satzungen,Willkürenが都市法の形成に中心的役割を果たすことになる。市参事会は他のすべての都市機関の重要性を押し下げ,たいていは都市の最上級裁判所にもなり,それとともに,古いシュルトハイスやフォークトの裁判所は衰退した。…

※「市参事会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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