精選版 日本国語大辞典「己」の解説
おの‐れ【己】
[1] 〘代名〙
① (反射指示) その人、またはそのもの自身をさす。自分。
※万葉(8C後)一六・三八八三「彌彦(いやひこ)於能礼(オノレ)神さび青雲のたなびく日すら小雨そほ降る」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「白き花ぞおのれひとりゑみの眉開けたる」
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「山のあるじ、俊蔭にのたまふ『をのれは天上より来たり給し人の御子どもなり』」
③ 対称。目下の者に対するか、あるいは相手を見下し、またはののしる時に用いる。
※万葉(8C後)一二・三〇九八「於能礼(オノレ)ゆゑ詈(の)らえて居れば
馬(あをうま)の面高夫駄に乗りて来べしや」

※竹取(9C末‐10C初)「かくや姫は、罪をつくり給へりければ、かく賤しきをのれがもとに、しばしおはしつる也」
[2] 〘副〙 自分自身で。自然に。ひとりでに。おのれと。
※源氏(1001‐14頃)末摘花「橘の木の埋もれたる、御随身召してはらはせ給ふ。うらやみ顔に、松の木のをのれ起きかへりて」
[3] 〘感動〙 相手に激して強く呼びかける時のことば。やい。また、単に自ら発奮する時にも用いる。うぬ。えい。
※今昔(1120頃か)二七「然て、季武が云なる様、いで抱かむ、己と」
[語誌](一)は上代から用いられ、同じ人称代名詞「おの」が助詞「が」を伴うか、あるいは直接体言に冠して用いられるのに対し、単独で用いられる場合が多い。
おの【己】
〘代名〙
① (反射指示) その人、またはそのもの自身をさす語。自分。
※古事記(712)中・歌謡「御真木入日子(みまきいりびこ)はや 御真木入日子はや 意能(オノ)が命(を)を 盗み死せむと」
② 自称。われ。
※落窪(10C後)三「まだ幼くておのがもとにわたり給ひにしかば、我が子となん思ひ聞えしを」
③ 対称。おまえ。
※古本説話集(1130頃か)二八「いつ法師にはなりしぞ。したみつとてありし、をのがむすめは、いづちかいにし」
おどれ【己】
〘代名〙 (「おのれ(己)」の変化した語) 対称。相手をいやしめののしっていう。うぬ。おまえ。きさま。
※かた言(1650)三「うぬ、うぬめ、をどれ、しどれなどいふことはあしかるべし」
※二銭銅貨(1926)〈黒島伝治〉三「畜生! おどれはろくなことをしくさらん!」
き【己】
〘名〙 十干の第六番目。つちのと。〔爾雅‐釈天〕
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