差戻し(読み)サシモドシ

デジタル大辞泉 「差戻し」の意味・読み・例文・類語

さし‐もどし【差(し)戻し】

提出された書類・案件などをもとへ戻すこと。
訴訟上、上級審において原判決を取り消しまたは破棄する場合にとられる処置事件原審である控訴審または第一審に戻して、もう一度審理させること。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「差戻し」の意味・わかりやすい解説

差戻し
さしもどし

上級裁判所において、上訴理由あると認めて原判決を取り消す際に、事件を原裁判所に戻して、もう一度審理させることをいう。これに対して、原判決を取り消したうえ、自ら原裁判所にかわって裁判することを自判という。

[内田武吉・加藤哲夫]

民事訴訟における差戻し

民事訴訟では、控訴裁判所が第一審判決を取り消して差し戻す場合(民事訴訟法307条、308条)と、上告裁判所が原判決を破棄して原裁判所に差し戻す(破棄差戻し)か、または同等な他の裁判所に移送破棄移送)する場合(同法325条1項)とがある。控訴審では、訴えの利益や能力の欠缺(けんけつ)などを理由に訴えを不適法として却下した第一審判決を、控訴裁判所が不適法でないとして取り消すときに、もう一度弁論・裁判をさせるために差し戻すのであり(必要的差戻し)、また、その他の理由によって取り消すときでも、弁論の必要があると認めたときは差し戻すことができる(任意的差戻し)。控訴審では、自判が原則で、差戻しは例外である。これに対し上告審では、その性格上、破棄自判するのは一定の場合に限られ(同法326条)、差戻しが原則である。

[内田武吉・加藤哲夫]

刑事訴訟における差戻し

刑事訴訟では、上訴裁判所が原判決を破棄して、判決で事件を原裁判所または第一審裁判所に差し戻すことをいう。控訴裁判所が原判決を破棄して、判決で事件を原裁判所に差し戻さなければならない場合(破棄差戻し、刑事訴訟法398条)、判決で事件を原裁判所に差し戻しまたは原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない場合(同法400条本文)、上告裁判所が原判決を破棄して、判決で事件を原裁判所もしくは第一審裁判所に差し戻しまたはこれらと同等の他の裁判所に移送(破棄移送)しなければならない場合(同法413条本文)などがある。上訴裁判所が原判決を破棄した場合は、差戻しが原則であり、自判は例外である(同法400条但書、413条但書)。差戻しを受けた裁判所は、改めて事件について審判することになる。ただし、上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する(裁判所法4条)。なお、裁判員裁判による判決に対する上訴手続も以上と同じであるから、裁判員の参加した判決について控訴裁判所が破棄差戻しをすることもありうる。ただし、差戻しを受けた第一審裁判所は改めて裁判員を選任したうえで裁判員裁判を行うことになる。

[内田一郎・田口守一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「差戻し」の意味・わかりやすい解説

差戻し (さしもどし)

上訴裁判所が原裁判を破棄した後に,事件について審理をやり直させるために,事件を原裁判所(または第一審裁判所)に送り返すことをいう。差戻しは,原裁判所等に事件の事実審理をやり直させる必要があるときに行われる。民事訴訟の控訴裁判所のように,上訴裁判所がみずから事件の事実審理を行えるときは(事実審),それほど差戻しを行う必要も高くないが,それでも,第一審裁判所が訴えを不適法として却下して,事件の本案について十分審理をしていないときなどは,事件を第一審裁判所に差し戻さなければならない(民事訴訟法307条,308条)。民事訴訟の上告裁判所,刑事訴訟の控訴および上告裁判所のように,上訴裁判所がみずから事実審理を行うことを制限されているときは(法律審,事後審),差戻しを行うことが原則となる(民事訴訟法325条1項,刑事訴訟法400条,413条)。

 差戻しも,上訴裁判所の裁判によって行われる。この裁判に対しては上訴を提起することができ,この裁判が確定した後に,原裁判所等において審理のやり直しが行われる。この審理をやり直す際には,原裁判所等は,上訴裁判所が破棄の理由とした事実上または法律上の判断に拘束され,これと矛盾した判断をすることが許されなくなる(裁判所法4条,民事訴訟法325条3項)。もし原裁判所等がこれに拘束されないと,事件が原裁判所等と上訴裁判所との間を往復して,いつまでも事件が解決しないからである。
事実審・法律審 →上訴
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「差戻し」の意味・わかりやすい解説

差戻し【さしもどし】

(1)民事訴訟法上,上級審で原判決を破棄または取り消した場合にとられる処置の一つで,審理をやり直させるため改めて控訴審または第一審に事件を差し戻すこと(民事訴訟法307条以下,325条)。控訴審での差戻しには,訴え却下の第一審判決を取り消す場合と,第一審から弁論をやり直すのが審級制度の運用上適当と認める場合とがある。上告審での差戻しには,原判決を破棄し原審級に差し戻す場合と,原判決を破棄し第一審判決を取り消して,事件を第一審裁判所に差し戻す場合とがある。(2)刑事訴訟法上,控訴審または上告審で原判決を破棄したときは,自判・移送の場合を除き,事件を原裁判所へ差し戻す(刑事訴訟法398条以下)。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「差戻し」の意味・わかりやすい解説

差戻し
さしもどし
remand

(1) 民事訴訟法上,上級審である控訴審または上告審が下級審の判決を取り消し,あるいは破棄したときにとられる措置で,再度審理を行なわせるために,当該事件を下級審に移審すること。差戻しを受けた裁判所は,上級審の判断に拘束される (裁判所法) 。この拘束力については,既判力と考える考え方が有力である。 (2) 刑事訴訟法上,控訴審または上告審の手続において,第1審または控訴審が言い渡した判決を破棄したときに,自判,移送の場合を除き,原則として事件を原審裁判所へ移審すること。差戻しを受けた裁判所が上級審の判断に拘束されるのは,民事訴訟の場合と同じである。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の差戻しの言及

【控訴】より

…控訴棄却の判決は,控訴人の不服に理由がない場合だけでなく,第一審の判決理由が不当でその意味では不服に理由があっても,第一審判決の結論自体は他の理由から維持できる場合にも下される(302条2項)。また控訴認容の判決においては,控訴裁判所は第一審判決を取り消したうえで(305条,306条),訴えについてみずから裁判をする(取消自判)のが原則であるが,事件を第一審に差し戻したり(取消差戻し。307条,308条),事件を管轄裁判所に移送したり(取消移送。…

【判決】より

…これらのうち,どれがどの上訴において理由としうるかについては〈控訴〉〈上告〉の項を参照されたい。 破棄,自判,差戻し,移送破棄とは,民事訴訟の上告審または刑事訴訟の控訴審・上告審が,原審の判決を取り消すことをいう(民事訴訟の控訴審では,単に取消しという)。自判とは,下級審の判決を破棄しまたは取り消した上訴審が,みずから事件について審理・判決をすることをいい,差戻しは,同様に下級審の判決を破棄しまたは取り消した上訴審が,自判せずに,事件を下級審に再審理させるために送り返すことをいう。…

※「差戻し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android