日本大百科全書(ニッポニカ) 「巡視船」の意味・わかりやすい解説
巡視船
じゅんしせん
patrol boat
海上保安庁所属の船舶のうち警備救難を任務とする船。外洋で行動する航洋性のあるものを巡視船、港内など基地周辺での行動を目的とするものを巡視艇という。巡視船艇の任務は海上での安全と治安の確保である。(1)海上における法令の励行、(2)海難の救助、(3)海洋における汚染の防止、(4)海上における犯罪の予防および鎮圧、(5)海上における犯人の捜査および逮捕、(6)海上における船舶交通の安全確保、などが含まれる。海岸線の長い日本沿岸の哨戒(しょうかい)、荒天時の救難、公海で操業する漁船の保護などに従事するので、小さい船体のわりに速力、安定性、耐航性が優れている。このために、船体がやせ型で、重心が低く、側面から風の当たる面積を少なくするなど設計上配慮され、軍事用の艦艇と似た船型であるが、船体の構造や艤装(ぎそう)、設備に船舶安全法が適用される点が異なっている。高度の航海計器、無線設備を備え、救難用の引き船装置、もやい索発射装置などをもち、警備のため砲や機銃を装備している。船体が比較的小さく高速が要求されるので、主機関は軽量・小型のディーゼル機関とし、主機関とプロペラをそれぞれ2基備えた二基二軸方式を原則としている。1967年(昭和42)から翌年にかけて建造された2000トン型巡視船「いず」、「みうら」は、当時最大の巡視船であったが、78年にはヘリコプター搭載可能な初めての巡視船である「そうや」(3137総トン)が建造され、順次同型船が増強された。
[森田知治]
その後、国際的に海上安全の確保が求められ、広域哨戒体制の整備のために、さらに高速で大型の巡視船「みずほ」(5259総トン)が1983年に建造された。これにはヘリコプターが2機搭載されており、海外にいる日本人の救出も考慮した大型巡視船である。1991年(平成3)には、ヘリコプターとの連係を重視した救難強化型の大型巡視船「えりも」(1268総トン)が建造され、さらに、同型船が2000年までに計7隻つくられている。1992年、再処理済みプルトニウム輸送を護衛するため、日本とフランスの間を無寄港で往復する性能をもつ「しきしま」(7175総トン)が完成、世界最大級の巡視船となった。また、前述の「いず」、「みうら」の後継として同名の巡視船が1997年と翌98年に完成、ともに3000総トン台で、阪神・淡路大震災をきっかけに災害対応型としてつくられたもので、災害時には対策本部の役目を担う。
1999年3月に能登(のと)半島沖で北朝鮮の工作船とみられる不審船を発見したが、停船命令にもかかわらず逃走される事件が発生、2001年12月には同じような不審船と巡視船の間で銃撃戦が展開された。このような事態に対処するため、巡視船の武装強化と高速化が図られるようになった。推進装置にウォータージェットを採用し、30ノット以上の速力を誇る高速巡視船「あそ」(770総トン)が2005年に、「ひだ」(1800総トン)が2006年に完成した。さらに2008年には、尖閣(せんかく)諸島を常時パトロールする最新型の巡視船「はてるま」(1300総トン)が完成している。2008年5月現在、海上保安庁に所属する巡視船艇は、ヘリコプター搭載大型巡視船13隻、大型巡視船38隻など約440隻で、第一から第十一管区のそれぞれの海上保安部に配備されている。
[編集部]