川魚料理(読み)かわうおりょうり

改訂新版 世界大百科事典 「川魚料理」の意味・わかりやすい解説

川魚料理 (かわうおりょうり)

河川湖沼などにすむ淡水魚を材料とする料理。コイ,フナ,アユ,ウナギドジョウナマズモロコハヤワカサギヒガイカジカヤマメイワナ,マスなどが多く使われる。近世以前,京都が日本の中心であった時代には,その地理的条件からも川魚が珍重された。とくにコイは尊ばれ,《四条流庖丁書》(1489)のごときはコイを調理することこそが料理だなどといっている。室町時代にはコイやフナの生食や,アユ,フナはもとよりのこと,ウナギ,ナマズ,ドジョウのなれずしも盛んにつくられていた。

 川魚はウナギを除くと,だいたい脂肪が少なく淡泊であるが,ピペリジン系化合物を主体とするにおいと特有の癖をもつものが多い。料理としては,生食ではコイやフナの洗い,骨ごとぶつ切りして食べる若アユの背ごしなどが喜ばれる。生食以外では,アユ,イワナ,ヤマメなどの塩焼き,ウナギやナマズのかば焼き,みそ汁ではコイこく,なべ物ではドジョウの柳川なべ,揚物ではアユ,ワカサギ,ヤマメ,イワナなどのてんぷら空揚げフライといったところが代表的なもので,つくだ煮や甘露煮には多くの種類が用いられる。各地の名物としては,明治天皇が好んだため鰉の字を使うようになった琵琶湖のヒガイ,福井県九頭竜川のアラレガコ,金沢のゴリなどがあり,アラレガコとゴリはカジカの仲間である。

モロコ,タナゴ,コイ,フナなどは肝吸虫の第2中間宿主となることが知られており,魚の皮下組織や筋肉中にメタセルカリア(被囊幼虫)の形で寄生するため,これらの魚を生食すると感染して肝臓肥大,浮腫,貧血,黄疸などの症状を呈することがある。メタセルカリアの寄生率は14~24%と高く,食酢につけておいても4昼夜,しょうゆでは3昼夜,飽和食塩水では2昼夜は死なないといわれる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「川魚料理」の意味・わかりやすい解説

川魚料理
かわうおりょうり

主として淡水魚を用いる料理をいうが、厳密に淡水魚の料理すべてを川魚料理というわけではない。日本で川魚料理として扱われるのは、おもにアユ、コイ、ウナギ、フナ、ドジョウ、ワカサギ、カワマス、モロコ、オイカワ、ヤマメ、イワナ、ナマズなどである。しかし、コイの料理は中国風の料理になると川魚料理とはいわないし、チカダイ(ティラピアの一種)のような近年飼育が始められた食用淡水魚で、海水魚に近い味をもったものは川魚料理のなかには入れない。常識的にみて、川、湖沼にいる魚で、日本料理としてつくられる場合とみればよい。

 川魚料理としては、コイやフナの洗い、刺身、アユ、カワマス、ワカサギなどの塩焼き、小魚のてんぷら、ウナギなどの蒲(かば)焼き、ドジョウの柳川(やながわ)、アユなど一部の魚の酢の物、佃煮(つくだに)などがあげられる。甘露煮(かんろに)なども川魚料理の一つである。またコイは鯉濃漿(こいこくしょう)(鯉こく)などにもされる。

 特有のにおいをもった川魚では、におい抜きのため、清水で何日か飼ったのちに調理することが多い。コイ、フナなどはその代表的なものである。料理に使用される川魚の多くが最近は養殖により飼育される。養殖では飼料の研究が進み、いままでその魚が食べていなかったような材料が飼料として与えられるため、川魚の風味もかなり変化している。また脂肪ののりも変わり、種類によっては在来の川魚料理よりは、洋風のフライやムニエルのほうが適した味のものも多くみられるようになった。こういったものは一般に川魚料理とはよばないから、やがて川魚料理という概念もなくなっていくものとみることもできる。

 養殖の川魚は一般に脂肪分が多く、しつこい味をもっている。また、自然の河川にいるものも飼料などを補給して大きくすることもあるようで、純粋の川魚料理はあまり食べられなくなっている。

[河野友美]


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