嵐山(読み)あらしやま

精選版 日本国語大辞典 「嵐山」の意味・読み・例文・類語

あらし‐やま【嵐山】

[1]
[一] 京都市西部にある山。北麓に保津川(桂川)が流れ、保津峡、または嵐峡と呼ばれる峡谷があり、山水の美で知られる。桜、紅葉の名所。歌枕。標高三八一メートル。あらしの山。らんざん
[二] 謡曲。脇能物。各流。金春禅鳳(ぜんぽう)作。吉野から移された嵐山の桜をたたえて吉野の木守、勝手の二神と、蔵王権現が現われて歌舞を奏する。
[2] 〘名〙 サトザクラの園芸品種。花は淡紅色の単弁で、径四センチメートルぐらいになり、微香がある。

あらし‐の‐やま【嵐山】

※新古今(1205)秋下・五二八「おもふ事なくてぞみまし紅葉葉を嵐の山のふもとならずは〈藤原輔尹〉」

らん‐ざん【嵐山】

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デジタル大辞泉 「嵐山」の意味・読み・例文・類語

あらし‐やま【嵐山】[地名・謡曲]

京都市西部にある山。大堰おおい南岸に位置し、標高381メートル。桜・紅葉の名所。
謡曲。脇能物金春禅鳳こんぱるぜんぽう作。勅使が吉野から移された嵐山の桜をたたえると、蔵王権現と木守・勝手の夫婦神が現れ、御代をことほぎ舞をまう。

らんざん【嵐山】

あらしやま(嵐山)
埼玉県中部、比企ひき郡の地名。槻川つきがわが貫流、渓谷は京都の嵐山にならって武蔵嵐山むさしらんざんとよばれる景勝地

あらし‐やま【嵐山】

の一品種。サトザクラの仲間で、花弁が大きく丸みを帯び、周縁部の色が濃い。

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日本歴史地名大系 「嵐山」の解説

嵐山
あらしやま

渡月橋とげつきよう(現右京区)西方にそびえる標高三八一・五メートルの山。西北烏ヶ岳(三九五メート)山上さんじようヶ峰(四八二・六メートル)、南東に松尾山(二七六・一メートル)が続き、山麓を北から東に桂川(大堰おおい川・保津川)が流れる。山名は「日本書紀」顕宗紀に出る「歌荒樔田うたあらすだ」(宇多・らす・田)の地が山麓の松尾月読神社にかかわることからとも、山の桜や紅葉を吹き散らすことからともいうが不明。春の桜、秋の紅葉が全山の松の翠とともに保津川の水に映える景勝の地で、国指定史跡名勝。

山頂には中世の嵐山城跡、北中腹に千光寺、東麓に法輪寺、渡月橋付近の櫟谷いちだに神社上の支峰岩田山に公園がある。

嵐山は、大井川やその対岸小倉おぐら山とともに著名な歌枕である。

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改訂新版 世界大百科事典 「嵐山」の意味・わかりやすい解説

嵐山 (あらしやま)

京都市西京区にある山。摂丹山地の東端にあたり,保津川(保津峡)が京都盆地に出る地点の南岸に位置し,北岸小倉山と相対する。古生層からなり,標高375m。山頂には中世の嵐山城跡,東麓には嵯峨の虚空蔵さんといわれる法輪寺,北麓には角倉了以の木像を安置する大悲閣がある。対岸とは渡月橋で結ばれており,一帯は1927年に史跡・名勝に指定された。平安時代から紅葉の名所として知られ,三船祭のような貴族の船遊びの場所でもあった。13世紀に後嵯峨上皇が亀山(小倉山南東の尾根)の仙洞に吉野の桜を移植してからは桜の名所としても有名になった。後嵯峨上皇の亀山殿の位置には,足利尊氏によって天竜寺が建立されているが,同寺開山の夢窓疎石作という庭園は,背後の亀山と嵐山を借景としている。近世には保津川が丹波からの木材などの水運に使用され,また庶民の行楽地となって河畔に宿もできた。
執筆者:

嵐山 (あらしやま)

能の曲名。脇能物。神物。金春禅鳳作。前ジテは木守(こもり)明神の化身。後ジテは蔵王権現。勅命を受けた廷臣(ワキ)が,嵐山の桜の開花の様子を見に赴く。来かかった花守の老夫婦に言葉をかけると,ここの桜は吉野の桜を移植したものなので,吉野山の神々がときおり来臨するのだと説明し,自分たちも実は木守明神(前ジテ)・勝手(かつて)明神(前ヅレ)の夫婦の神だと打ち明けて去る。夜に入ると,木守・勝手が若い男女の神姿で現れ,花をめでて舞を舞う(〈ワタリ拍子・天女ノ舞〉)。やがて蔵王権現(後ジテ)も威容を現し(〈早笛〉),三神実は一体だというその姿を示し,国土の繁栄を祝福する(〈ノリ地〉)。前場・後場の間に演ずる《猿聟(さるむこ)》は,現在では特別の演出としてだけ用いるアイだが,独立の狂言として演じることもある。
執筆者:

嵐山[町] (らんざん)

埼玉県中央部,比企郡の町。1967年菅谷村が町制,改称。人口1万8887(2010)。比企北丘陵の西部を占め,町域の南部を槻川,都幾川が東流する。槻川が結晶片岩の岩盤を刻んでつくる穿入蛇行谷は京都の嵐山に似た景勝地で,武蔵嵐山と呼ばれる。中心集落の菅谷は中世には鎌倉街道に沿う交通の要衝で,畠山重忠の居城菅谷館跡(史)がある。農業が主体の町で米作が盛ん。近年,東武東上線沿いに住宅地開発が進み,人口が増加している。向徳寺の銅造阿弥陀如来および両脇侍立像は重要文化財。関越自動車道の嵐山小川インターチェンジがあり,国道254号線バイパス沿いに国立婦人教育会館(現,国立女性教育会館)がある。町の南部は県立比企丘陵自然公園に属する。
執筆者:

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国指定史跡ガイド 「嵐山」の解説

あらしやま【嵐山】


京都府京都市の右京区嵯峨(さが)ほかと西京区嵐山中尾下町ほかにある景勝地。京都市の西北、保津川下流の大堰(おおい)川にかかる渡月橋両岸に広がる。平安時代以来の遊楽地で、天龍寺、臨川寺、二尊院、常寂光寺、化野(あだしの)念仏寺、法輪寺、大悲閣などの寺院が点在する。小倉山、亀山、嵐山などの丘陵と清流がつくる景観は美しい。1927年(昭和2)に国の史跡および名勝に指定され、翌年と1934年(昭和9)に追加指定を受けた。嵐山は平安時代には紅葉の名所として知られ、皇族、貴族が訪れ、付近には山荘なども営まれていた。渡月橋の北側一帯は、嵯峨天皇の皇后・橘嘉智子(たちばなのかちこ)が営んだ檀林寺の跡地で、後嵯峨天皇の亀山殿となり、この地に、足利尊氏が後醍醐(ごだいご)天皇の菩提を弔うために建立したのが天龍寺。天龍寺の東南には臨川寺、北には野宮神社があり、大堰川東岸の小倉山麓の嵯峨野にも多くの寺院や旧跡が点在する。小倉山北東の化野には千灯供養で有名な化野念仏寺があり、参道の鳥居本(とりいもと)地区を中心に古い街並みを今に伝えている。渡月橋南側には、十三詣りの法輪寺や大悲閣があり、嵐山山頂には嵐山城跡などがある。京福電鉄嵐山本線ほか嵐山駅から徒歩すぐ。

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百科事典マイペディア 「嵐山」の意味・わかりやすい解説

嵐山【あらしやま】

京都市西京区,丹波高地末端にある名山(史跡・名勝)。標高382m。〈らんざん〉とも。全山松,桜,カエデにおおわれ,古来桜,紅葉の美しさで有名。歌枕として知られ,中世には桜の名所として詠まれる。山中に法輪寺,大悲閣がある。北麓の保津(ほづ)川にかかる渡月橋一帯は嵐山公園で,旅館,料亭,茶店などが多い。
→関連項目大堰川京都[市]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「嵐山」の意味・わかりやすい解説

嵐山
あらしやま

京都市西京区にある秩父古生層の山。「らんざん」とも読む。標高 376m。保津川が京都盆地に流れ出た地点の右岸に位置し,全山がマツにおおわれ,風致国有保安林に指定。春のサクラ,秋の紅葉は名高い。山中に戸難瀬野 (となせの) ,大悲閣,夢窓国師坐禅石,嵐山城跡,岩田山自然遊園地などがある。東麓に法輪寺,大悲閣の近くに嵐山鉱泉があり,嵯峨野や高雄,清滝にも近い。なお嵐山という呼称は,渡月橋を中心とする一帯の地域名としても使われ,史跡・名勝に指定。保津峡府立自然公園に属する。

嵐山
あらしやま

別称近文 (ちかぶみ) 山。北海道中央部,鷹栖 (たかす) 町にある山。標高 220m。旭川中心市街地の北西約 5km,石狩川の北岸に位置し,東方の弓成 (ゆみなり) 山に,旭川,上川盆地,大雪山を一望に収める展望台がある。また北方に野草園が開設され,旭川市近郊の行楽地。嵐山と神居古潭を合せて嵐山自然博物園と呼ぶ。地名は風景が京都嵐山に似ていることにちなむ。

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事典・日本の観光資源 「嵐山」の解説

嵐山

(京都府京都市右京区)
さくら名所100選」指定の観光名所。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「嵐山」の解説

嵐山 (アラシヤマ)

学名:Prunus lannesiana
植物。バラ科の落葉高木

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世界大百科事典(旧版)内の嵐山の言及

【嵐山】より

…後ジテは蔵王権現。勅命を受けた廷臣(ワキ)が,嵐山の桜の開花の様子を見に赴く。来かかった花守の老夫婦に言葉をかけると,ここの桜は吉野の桜を移植したものなので,吉野山の神々がときおり来臨するのだと説明し,自分たちも実は木守明神(前ジテ)・勝手(かつて)明神(前ヅレ)の夫婦の神だと打ち明けて去る。…

【風流能】より

…美少年が小歌,曲舞(くせまい),羯鼓(かつこ)などの芸能を尽くす《花月》,武士の鬼退治をみせる《土蜘蛛》,天人の舞が中心の《羽衣》など,人間の心理や葛藤を描くよりも見た目のおもしろさや舞台上のはなやかな動きを中心とした能を指し,広い意味では脇能(神霊が祝福を与える内容)も含まれる。なかでも観世信光作《玉井(たまのい)》《竜虎(りようこ)》《愛宕空也(あたごくうや)》,金春禅鳳(こんぱるぜんぽう)作《嵐山》《一角仙人》,観世長俊作《江野島(えのしま)》《輪蔵(りんぞう)》などは,華麗な扮装の神仏,天仙,竜神などが次々と登場して舞台を動き回り,大がかりな仕掛けの作り物を活用し,アイ(間)も《玉井》の〈貝尽し〉,《嵐山》の〈猿聟〉,《江野島》の〈道者〉のように,にぎやかにくふうを凝らす(ただし,今日これらのアイは特別な場合しか上演しない)など,全体がスペクタクル・ページェント・ショーとして統一されている。日本では,スペクタクルやショーに類するものを古来〈風流〉と称したので,この種の能を風流能と名づけた。…

※「嵐山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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